17 一回戦(四年生)2
私は盾を構えて防御の姿勢。
さあ、どんな飛び道具(技)を出してくるんですか、クランツ先輩。
受けて立ちますよ。
実は知識だけでも深めようと、昨晩、寮の四年生に教本を見せてもらった。そのまま部屋に泊めてもらい、人気の技能(戦技と魔法をまとめてこう呼ぶ)なんかも聞いている。
あ、昨日はまだセファリスが立て篭っていたから、部屋に帰れなかったんだよ。
技能は一夜漬けじゃ覚えきれないくらいあったけど、少しはイメージできた。
どんな攻撃がきても、慌てず対応してみせる。
戦技でも魔法でも、属性を得るには精霊の力が不可欠。
そして、人間が精霊とつながる方法は言霊だ。
つまりクランツ先輩の声に注意していればいい。
凝視していると、ついに先輩の口が動いた。
「地霊よ――」
地属性。確か、石つぶてを飛ばしたり、地面から衝撃を伝える技能があったね。
「あの子の足を固め、動きを封じろ! 〈地障縛〉!」
あれ? 攻撃技能じゃない?
直後に足元の土がモコモコと。
私の膝上まで這い上がってきて、岩のように硬くなった。
全く動けない。先輩、この魔法にかなりのマナを込めてる。
私のマナ量を考えて、だよね。
機動力を奪ったということは、次こそ……。
「……トレミナさん、本当にごめんね」
クランツ先輩、私の名前を。そりゃ知ってるか。こういう見栄えがいい人に名前を呼ばれると、何だか背中がむずむずする。それより、また謝ったよ。
「本気でやるって約束したからね。風霊よ! 槍に宿れ!」
一帯の風が先輩に集まっていく。
木槍が軋むような悲鳴を上げた。
槍を使うってことは、今度は戦技だね。
ちなみに、マナを精霊に属性変換してもらって即座に発動するのが魔法。変換後、一旦体や武器に宿し、技と共に放つのが戦技だ。
「はっ――――!」
先輩は気合を込めて連続突き。
槍先から放たれた風の弾丸が、動けない私に次々飛んでくる。
体の前面にマナを寄せてガードするも。
いたっ。あいたたたたたたたっ。
マナが多くても痛いものは痛い。
ほら、撃たれた所がちょっと赤くなってる。
ターゲットを固定して遠くからボコボコにするとは、なんて恐ろしい戦法を。
事前に謝ってくるわけだよ。ていうか、謝ったら何してもいいわけじゃないですよ、先輩。
とにかく、このまま的になっていてはいけない。
もちろん纏うマナを増やせば、この足の拘束は壊せる。
でも、その前にまだ打てる手立てが残っているんだよ。私にはマナの量以外にも、四年生に負けていないと自信のあるものがある。
それはマナの移動速度だ。
私は〈錬〉だけじゃなく、相当な時間を〈調〉に費やしてきた。〈調〉は練度が高まれば、マナを自在にコントロールでき、巡らせるスピードも上がる。
だからこんな激しい連撃の中でもできるはず。
全身のマナを瞬時に足へ。
高速足踏み。
ボコッ!
よし、土くれ拘束破壊。
急いでこの場を離脱。
一連の所要時間は約一秒。やればできるもんだ。
こんな危険なことしなくても、普通にマナを引き出せばいいんだけどね。足踏み中に被弾すれば大怪我だし。
初戦から五割増しの言いつけを破りたくないというか。
……うーん、破っても仕方ないとも思うんだけど。
クランツ先輩はかなり強い。きっと四年生の中でも上の順位だ。
まあでも、ここまで来たらきっちり五割増しで勝つよ。
マナの多くを足に残し、私は闘技場を駆け回っていた。
また足を固められてはたまらない。
先輩の風の弾丸はすごい速さだけど、槍先を向けられなければ大丈夫だ。
素早い動きで撹乱しつつ、徐々に接近していく。
ここだ。
地面を強く蹴って一気に懐へ。
木剣を振り下ろしながら足のマナをこちらに移動。
私の剣は、先輩がとっさに構えた盾を弾き飛ばした。
衝撃で体勢が崩れた彼の喉元に切っ先を向ける。
「……俺の、負けだ。……参ったよ」
闘技場中の観客が、ドッ! と一斉に沸いた。
もう、うるさいな。何をそんなに騒いでいるの。
ちょっと聞いてみよう。耳にマナを集中っと。
「信じられない! 学年二位のクランツが負けたわよ!」
「おい! 学年二位だぞ! まさか二年に……!」
…………。
……えーっと、聞き間違いではないと思う。耳にマナを集中させたので。
「……先輩、学年二位だったんですか?」
「あ、うん。そうは見えないってよく言われるよ、ははは」
とても爽やかな笑顔だ。
戦いの疲れもどこかに飛んでいきそう。
でも、私の頭の中には、そう簡単になくならない大きな疑問が。
……私、どうしていきなり学年二位とぶつけられてるの?
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