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168 狐神戦争 血迷う幼女

 私とジル先生は、先生の飛行魔法で一足先にミユヅキさんを追うことにした。

 精鋭忍者部隊の加入で大分時間が掛かったので、急いだ方がいいと思う。

 実は、私には気掛かりなことがあった。


「レゼイユ団長なんですが、ちゃんと作戦を理解してるでしょうか? ミユヅキさんを討伐して剣神に、とか考えてませんよね?」

「それは……、…………。急ぎましょう」


 少し考えたのち、先生は速度を上げた。

 ストームでずいぶんと削れてしまった山を越え、私達は森林地帯へ。

 さっきまで繰り広げられていた激闘が嘘のように、森の中は静まり返っていた。


 場の大半の人達が一箇所に集まっている。

 シエナさん達、魔窟の魔女二十六人。オージェスさん。連合軍を率いていたロイガさんとメイティラさん。

 邪女神に進化したアイラさんが、全員を守るようにその前に立つ。

 この一団とは少し離れた所で、なぜか一人テーブルでアップルパイを食べているメアリア女王。


 皆の視線の先では、レゼイユ団長とミユヅキさんが睨み合っていた。

 緊迫した空気が流れ、両者共にピクリとも動かない。

 これは、一触即発というやつだ。

 もし団長が仕掛ければ、きっとミユヅキさんはすぐにでも神獣化する。

 二人を眺めたまま、アイラさんがため息。


「しばらくあの状態よ。神獣に戻ったミユヅキの毒は本当に危険だからね、耐え切れそうにない人達にはこっちに集まってもらったの。大丈夫なのはレゼイユと同志メアリアくらいね」

「とはいえ、アップルパイがマズくなるから毒マナはやめてほしい……」


 言いつつメアリア女王はお茶をすすった。

 さすがに、神クラスの猛毒に汚染されたアップルパイは食べない方がいいと思いますが。

 膠着状態の団長とミユヅキさんを横目に、ジル先生は小声で素早く詠唱した。ミス・パーフェクトは抜け目がない。

 準備が整った先生は二人に近付く。


「レゼイユ、下がって。彼女は捕縛対象よ」

「え、私が剣神になるための踏み台では? 聞いてませんよ!」

「言ったわよ、バカ。ミユヅキ様、降伏してください。チカゲ様達、影月の方々はコーネルキアに所属するとお約束くださいましたよ」

「たぶらかしおって! わらわも簡単に罠にはまると思ったら大間違いなのじゃ!」


 レゼイユ団長が剣を収めたことで、ミユヅキさんも睨み合いから解放された。

 幼い少女は両手を振り回して勧告を拒絶。

 この神獣、本当に人の言うことを信用しないね。

 でも、部下の言葉なら聞いてくれるでしょ。

 目を向けると、木々の間から忍者部隊が姿を現した。率いてきたチカゲさんが、ミユヅキさんの前で片膝をつく。


「頭目、コーネルキアは私共を守護神獣として厚遇してくださるそうです。謎の魔導具を通して、あの姫君がそう仰るのも聞きました。これ以上の争いは無用です」

「そち達は騙されておるのじゃ! あの姫は相当な食わせ者じゃぞ! …………、……そうか、読めたわ。読めてしもうたわ! そち達、わらわを売ったな? わらわの稀少肉を差し出すことを条件に入れてもらう約定を交わしたのであろう!」


 ……ダメだ、彼女はもう何も信じられなくなってる。

 こうなったら取り返しがつかないことは過去の歴史が示していた。

 娘のメイティラさんが震えた声で。


「ヤ、ヤバイ、ヤバイ……。ママ、完全に周りが見えなくなっちゃってる……」


 逃げ出そうとするその頭を、アイラさんがガッと鷲掴み。

 アデルネさんの時よりずいぶん怖そうな人型になったものだ。


「待ちなさい、この雑魚上位種。あなたもついでに守ってあげるから」

「お願いします! あんたのこともママと呼びますので! アイラママ!」

「……あなたは間違いなくあいつの娘だわ。チカゲ、あなた達もこっちに来ておきなさい」

「仰せのままに、アイラ様」


 忍者の皆さんがササッと集団に合流する。

 これを見たミユヅキさんは荒ぶる心を抑えられない。


「やはりか! さては最初から全員グルじゃったな! わらわの肉を狙った大掛かりな作戦だったのじゃ! 娘からも配下からも裏切られるとは……。

 ……許せん、

 ……許せんぞ。

 かくなる上は皆殺しじゃー!」


 私、セファリス以外で初めて見るかもしれない。血迷った人(神)を。


「私共の反対を押し切って作戦を強行したのは自分だと忘れてますね、血迷ってます」


 チカゲさんが呆れたように言うと、メイティラさんも同意。


「それでも、血迷ったママはほんとヤバイわよ」

「その通りなのよ」


 アイラさんはジル先生に視線を向けた。


「ジル、信用してないわけじゃないけど、少しでも無理だと思ったら私も神獣になるわ。シエナ達を死なせたくはないからね」

「ご心配なく、仕込みは済んでますし、私のコンディションも悪くありません。完璧にこなしてみせますよ。トレミナさんの方も大丈夫ですね?」

「はい、いつでも撃てます」


 私達の目の前では、ミユヅキさんの小さな体が光に包まれていた。

 これまで何度も神獣化を見ているけど、今回は一際嫌な感じがする。この世のよくないもの全てが集まってくるみたいだ。


 ズ、ズ、ズ、ズズ、ズ、ズズズズ…………。


 禍々しい光が徐々に大きくなっていく。

 今から放たれるであろう大量の瘴気に、森の植物達も悲鳴を上げているように思える。

 やがて、抽象的だった邪悪の集合体は実体化。


 現れたのは、体長五十メートルもある大狐。

 濃い紫色の毛に覆われ、長い尻尾が九本伸びている。

 九尾の狐、【災禍神狐】だ。


 ミユヅキさんは過去に幾度か、公然とこの姿になっているらしい。

 大体は彼女の計画が破綻した時。つまり今回のようなケースだね。そのいずれの場合でも、出現させてしまった国はもれなく滅んでいる。

 いつしかミユヅキさん、九尾の狐は禍の象徴と呼ばれるようになった。


 実際に今ここにいると、そんな呼び名も納得できる。

 見ているだけで体温を奪われるみたいな……。

 と思った次の瞬間、


「〈アーサス・ブリザード〉」


 ジル先生の透き通った声と共に、本当に周囲の気温が一気に下がった。


 神と呼ばれる獣達に対抗するため、人類が手にした最も有効な武器は技能だと言われている。

 中でも、ジル先生のアーサス家が代々受け継いできた魔法はその最上位にあった。

次回


人類最上位魔法

    VS

 禍の象徴 九尾の狐


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― 新着の感想 ―
[良い点] ジル先生の本領発揮はこれからだった!?しかもその対象が最上位とな [気になる点] 以前(国自体は別の国)と語りがあったのはこれが発現したからなのかな?
[一言] >かくなる上は皆殺しじゃー この戦力相手だとされる側にしかならないんじゃ?
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