167 狐神戦争 トレミナの影
新たに誕生したコーネルキア忍者軍団から、二人の子忍者がシュタタタッと駆け出してきた。
チカゲさんの娘さん達だ。私の前で並んで片膝をつく。
「私はミカゲと申します」
私より少し年上の少女がそう言った。
「私はリカゲと申します」
続いて私と同い年くらいの少女が名乗った。
まるで私とセファリスみたい。
二人は屈んだまま体を反転。揃ってチカゲさんに視線を送る。
「父上! 私達姉妹はこちらのどんぐり様を主にしたいと思います!」
「私達の主はどんぐり様以外に考えられません!」
娘達からの申し出に、慌てた様子でチカゲさんもこちらへ。
「待ちなさい! お前達の主はコーネルキアですよ!」
「もちろん承知しております。直接お任えするお方として、どんぐり様に定めたいのです。ね、リカゲ」
「はい、姉上。どんぐり様に定めたいのです」
私を主に……?
その気持ちに嘘はないと思う。
彼女達は私に心を開いてくれている。開いてくれているからこそ分かるんだけど、動機が不純すぎるのでは?
『これで父上の束縛から逃れられます! あと一押し!』
『こんな千載一遇の好機はもう巡ってきません! 頑張ってください姉上!』
妹と目配せをして、ミカゲさんは宣言通りに一押し。
「なにしろどんぐり様は父上とお心を通わせたお方です。これ以上に相応しいお方がおられましょうか!」
「確かに、どんぐり様以上のお人は……」
押しの一手で揺らぐチカゲさん。
これに狐姉妹の胸中は興奮が止まらない。
『いよいよ父上から解放される時が!』
『ついに私達は自由です!』
…………。
……それは、ダメだよ。
「ごめんなさい、私はあなた達の主にはなれません」
私の言葉に、ミカゲさんとリカゲさんはカタカタと軋むような音をさせて立ち上がった。
「ど! どうしてですか! ど! どんぐり様!」
「私達を見捨てないでください!」
「たとえ、多少束縛が強かったり、度が過ぎた行動があったとしても、チカゲさんのお二人への想いは本物です。あなた達を救うために自分の命まで差し出そうとなさったんですから。その気持ちが分からないようなら、私はお引き受けできません」
言い放つと、狐姉妹は途端にしゅんとしてしまった。
人型なのにまるで垂れ下がった尻尾が見えるみたいだ。ちょっと厳しく出すぎただろうか。
と思っていると、今度はチカゲさんが私に対して膝をついた。
「私の負けでございます。まことにあなた様以上に相応しいお方はおられないでしょう。……ミカゲ、リカゲ、どんぐり様の元で修行しなさい」
「よろしいのですか!」
「やりましたね姉上!」
沸き立つ姉妹。
まるで高速で回転する尻尾が見えるみたいだ。
……私、どうやら最後の一押しをしてしまったらしい。
ミカゲさんとリカゲさんは、揃ってチカゲさんに抱きつく。
「父上が私達を命より大切に想ってくれていること! 絶対に忘れません!」
「私も絶対に忘れません!」
「その言葉で充分です。では……」
チカゲさんはにっこり微笑んだ。
「私のところからどんぐり様の元に通うことを許します」
「え……、通うの、ですか……?」
「日が暮れるまでには帰ってきなさい」
「はい……」
笑ってはいるけど、有無を言わせぬ迫力がある。ここが父親として譲歩できる限界のようだ。
それなら私の方も、まあいいかな。
「分かりました。じゃあ、日中だけ通ってきてください。で、いいですか?」
ジル先生の方に目を向けると、彼女は頷きを返してきた。
「構いませんよ、彼女達もあなたと行動を共にすれば早く上達するでしょうし。しかし、大した人徳ですね。さすがトレミナ導師」
先生が戯れに発したその呼び名に、チカゲさん達四十六名の忍者は固まった。
そういえば私、まだ名乗ってなかった気がする。さっきからずっとどんぐりって呼ばれてるし。
チカゲさん達は改めて私の前で片膝を。
「まさかどんぐり様が噂のトレミナ導師だったとは……。いえ、今なら納得もいきます」
「噂になっているんですか?」
私が尋ねたのはジル先生の方だった。
「コーネルキアを導く国家顧問、トレミナ導師の出現は近隣諸国で有名なんですよ。噂を流しているのは私達(裏の機関)ですけど。ゲインのことは明かしてませんが、あなたの導きと力で南方域に進出したことなどは言っています。あと、あなたのおかげで多くの兎神を守護神獣に迎えられたことも。いずれも嘘ではないでしょう?」
そうですけど、私一人の力じゃありませんし。
どうもリズテレス姫とジル先生に私の名前がいいように使われているような……。
ミカゲさんとリカゲさんが私にキラキラした眼差しを向けてきていた。
「最高の主です! トレミナ様! このミカゲ、誠心誠意お仕えします!」
「リカゲもですトレミナ様! 主! 最高です!」
「……はい、じゃあ昼間だけ影になってください」
というわけで、私に通い影ができました。
そもそも皆さんは守護神獣なのに、どうして人間に仕えたいんだろう。
あ、とりあえず立ち上がってください、守護神獣様方。
チカゲさんはやや照れた様子で頭をかいた。
「実は私共、忍文化に傾倒しておりまして。影から支配する国より、影からお支えする国が欲しかったと申しますか。守護神獣にもしていただけるなど、この上ない喜びなのです。まあ、ミユヅキ様は支配したい方なのですが」
「ミユヅキさんは皆さんの主ではないのですか?」
「あれは私共の頭目です。できましたら、彼女もお助けいただけると有難いのですが。あちらは本当に、できましたらで構いませんので」
ふむ、頭目への想いは、娘さん達へのそれよりずっと軽いらしい。
お知らせ
トレミナの兜、なしにします。
薄々気付いてはいたんです。
兜はない方がヴィジュアル的にいいって。
皆そう思ってるって。
イラストも漫画もまるで兜などないように進んでいきますし。(かぶっちゃうとトレミナのアホ毛がつぶれますしね)
ついていた能力〈透視〉も持て余していたので丁度いいかもしれません。
大事な頭部はマナで守ります。
後日、ぼちぼち修正していきます。
当のトレミナはもうすぐお見せできると思います。
発売日は決まりました。
私が発表できるのは、某メディアで解禁されてからだそうです。(それが合図なんだとか)
もちろんこちらでもお知らせしますが、なにしろ週一更新なので。
先にどこかで見掛けるかもしれません。
本当にもうすぐです。
両方一気に来ます。
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