166 狐神戦争 コーネルキアの影
『コーネルキア機密文書 No.578
影月に関する調査結果
報告者 プレシナ
調査対象への接触に成功しました。
情報通り、精霊感知によって本当の姿を認識。
やはり影月は【霊狐】種で構成された組織のようです。
対象を捕縛するため、戦闘を開始。人型でも戦い慣れた様子で、東方由来の暗殺技を駆使してきました。
交戦開始から程なく、対象の上役と思われる者が救援に現れたため、撤退を余儀なくされました。背の高い男性の人型を使っていたその者は相当な腕前で、おそらく上位の神獣です。
結論としまして、影月は私達の機関を凌ぐ諜報組織であると思われます。』
いつの間にか、チカゲさん以外の四十五頭も人型になっていた。
全員が同じような黒い装束を着てるね。
こういう格好の人、本で見たことがある。何て言ったっけ。
と思っているとジル先生が。
「忍者、ですか」
そう、それです。
チカゲさんがサッと着物を払うと、お揃いの黒装束になった。
彼がその姿に戻るのを待っていたように、皆で一斉に片膝をつく。
「私共はいわば、軍の情報収集担当です。他の【霊狐】よりその道に長けていますし、実戦経験も豊富ですよ。きっとコーネルキアのお役にも立てることと存じます」
なるほど、ぬくぬくと贅沢な暮らしを送っていた狐神とは違うんだ。
皆さん、強いわけだよ。
あれ、背後に何か違和感……。
振り返ると、そこには一人の女性騎士がいた。
ジル先生がくすくすと笑う。
「よく気付きましたね、彼女は私の部下です。プレシナ、わざわざ来てもらって悪かったわ。で、どう?」
「はい、間違いありません。あの時、救援に現れたのは彼です」
チカゲさんをちらりと見てプレシナさん。
騎士団にこんな人がいたなんて。実力的にはナンバーズに次ぐほど。
どうして今まで会ったこともなかったんだろう?
まじまじと彼女の顔を見つめていると、また先生が微笑んだ。
「表だって活動する機関じゃないんですよ。こう言えばあなたなら察しがつくでしょう。彼女の腕が立つのは元アサシンだから。今は私の片腕として副長をやってもらっています」
「察しがつきました。先生は裏方だけじゃなく、裏の顔でもトップをやっているんですね。さすがミス・パーフェクトです」
ジル先生、お給料高いわけだよ。
でも、思ったよりコーネルキアの影は濃い。元アサシンとは、怖い人もいるものだ。
だからかな、プレシナさん、すごく綺麗な女性なのに笑った顔が全く想像できない。
すると彼女はさっきのお返しとばかりに私の顔をまじまじと。
「ついに気配を消した私を感知しましたね。凄まじい成長速度です。あなたを暗殺するのはもう無理そうですよ」
……暗殺しないでください、味方同士なんですから。
たぶん私、これまで知らない間に何度も彼女に背中をとられている……。怖い人もいるものだ。
プレシナさんは来た時と同様に、音もなく帰っていった。
ジル先生は「さて」とチカゲさん達の方に向き直る。
「あなた達が影月ですね?」
「仰る通りです。コーネルキアの密偵はとても優秀ですよ。私共に接触してきた者は数えるほどですので」
「世界トップクラスのあなた達にそう言ってもらえるのは光栄です。ちょっと報告したいので、待っていてもらえますか?」
「え、報告とは……、それで、ですか?」
先生が通話魔導具を取り出すと、チカゲさんは戸惑ったような表情に。
魔導具の発する光が緑色に変わった瞬間、先生のテンションは爆発した。
「私です! やりましたよ姫様! やっぱり影月でした!」
『まあ!』
「腕利きの忍者四十六名がコーネルキアに!」
『まあ!』
「これで私達の諜報機関は盤石に!」
『そうね! 厚遇すると皆さんにお伝えしてちょうだい!』
……ジル先生、平静を装っていたけど実はかなり嬉しかったんですね。
通話が終わると、先生はテンションを戻した。
「皆さんを厚遇いたします」
「はい、その謎の魔導具から聞こえておりました……」
どうやらコーネルキアの影はさらに濃くなったようだ。
[ユラーナ]
侍女達とお喋りしながら城の通路を歩いていると、あちらからリズテレスが。
やけに上機嫌ね。また腹黒い笑みを浮かべているわ。
「リズ、どうしたの?」
「コーネルキアに46名の、いえ、48名の選ばれし精鋭が加入するのよ」
48名の選ばれし精鋭……、AKB?
ふふふ、と笑いながらリズテレスは通り過ぎていった。
しばらく歩くと今度は王妃フローテレス様が。
窓辺の椅子に腰掛け、どこか遠い目をしている。
「どうなさったんですか? あ、その本、町で今流行ってるやつですよね。確か王妃様の日記が元になってるんでしたっけ?」
「ええ。というより、私の日記そのものよ。当時は私も若かったわ……。ラッシュラッシュ言って」
「ラッシュラッシュ言ってたんですか?」
「言ってたわ、ラッシュラッシュ……」
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今から15年ほど前のコーネルキアを描いたフローテレスの日記。
『旅の魔女、玉の輿に乗る。』
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結構バトル色強め。
まだナンバーズなどのいない大変な時代です。