163 狐神戦争 〈レゼイユボール〉
ジル先生の無敵ぶりに、ミユヅキさんは後ずさり。
「……駄目じゃ、下位種では全く歯が立たん。仕方ない、チカゲよ、そちが……、っておらん! チカゲ! どこに行ったのじゃ!」
私は気付いていたよ。
ジル先生が戦い始めてすぐに、チカゲさんは気配を絶った。そのまま彼は静かに群れの中へ。
「わらわをおいて逃げたな! チカゲ!」
……素晴らしい側近をお持ちで。
怒りのままにダンダン大地を踏みつけるミユヅキさん。私は少しマナを抑えて彼女に歩み寄る。
「ミユヅキさん、降伏してください。これ以上犠牲を増やすことはありませんよ」
「……降伏したら、わらわ達はどうなるのじゃ?」
「誓約書に署名していただいた上で、コーネルキアの守護神獣になってもらいます」
「なん、じゃと……? そんなうまい話が……、分かったのじゃ! 罠であろう! わらわ達を騙して一網打尽にする気に違いない! その手には乗らんのじゃ!」
この人(神)、思考が卑怯に凝り固まってる。
五百年間も、人間を騙して欺いて生きてきたんだから仕方ないか。
「そんなことしませんよ、あなたじゃないんですから」
「このどんぐりめ! 言いよるわ! こうなったら力の限り戦うまでじゃ! たとえそち達がコーネルキア最強の騎士でも」
「あ、私達、最強じゃありませんよ」
「なん、じゃと……?」
直後にミユヅキさんはバッと北の空を仰いだ。
神獣は人型でもあまり感知能力が下がらない。つまり、この中じゃ彼女が一番感知範囲が広いということになる。
だけど、今回は続いて私もすぐに感知。
あの人はそれほどの速さで飛んできた。
ドゴォォン!
隕石がぶつかったように地面が吹き飛ぶ。
窪んだ大地から、何食わぬ顔で一人の女性が。
コーネルキア最強の騎士、レゼイユ団長だ。
ちなみに、彼女が移動に使ったのは〈ウインドウイング〉という飛行魔法だよ。私もジル先生の同じ魔法でここまで来たけど、レゼイユ団長は段違いに速い。代わりに団長のは小回りが利かないんだけどね。飛行魔法自体が緻密なマナコントロールを要求されるし、団長は特にそれが苦手。なのにマナだけ大量に注ぎこむものだから、あんな銃弾みたいな速度になる。
使用するのはよほどの長距離移動のみで、国内なら走ることが多いらしい。……国内でも相当な長距離だけど。
レゼイユ団長が現れると、狐神達は全員が視線を奪われた。
それも当然だと思う。
団長はすでに臨戦態勢のマナ、〈闘〉だ。
「……こ、こんな人間が、おるのか? ……愚問じゃ、実際に目の前におる……。こやつが、最強じゃな?」
ミユヅキさん、その通りです。
ざっと敵軍を見回すレゼイユ団長。このまま戦うのかと思いきや、まっすぐ私の方へ。
「騎士トレミナに見せたいものがあります」
「何でしょう?(それより、今は戦争中ですよ)」
「私の新必殺技――」
団長が差し出した手の中にマナ玉が生成される。
さらに、マナ玉は掌を覆うマナと接合を果たした。
え、まさかこれって。
レゼイユ団長は不敵な笑みを浮かべる。
「――〈レゼイユボール〉です!」
いや、〈トレミナボールⅡ〉ですよね?
「どうして団長がこの技を?」
「分かりません。この前、〈トレミナキャノン〉を受け止めた後からできるようになりました」
そういえばあの時、レゼイユ団長は私のマナ玉を齧っていた。
もしかして〈捕食〉の能力でも持っているのだろうか。
とりあえずやっぱり……。
何なんだ、この人。
それより早く戦ってもらわないと。今は代わりにジル先生が……。
おや? 〈氷女咬み〉がこっちに来る。
シュラララララ! ガプッ!
氷の大蛇はレゼイユ団長を丸飲みに。
遅れてやって来た先生が冷ややかな眼差しで「早く出てきなさい」と言うと、団長は氷を砕いて難なく脱出。
「ひどいですよ、ジルちゃん」
「このバカ、姫様のお手もわずらわせて。少しは目が覚めたでしょ」
この人達の悪ふざけは常人が即死するレベルだ。
ため息をつきながら剣と銃をしまうジル先生に。
「先生の言った通りでした。〈トレミナボールⅡ〉を習得できるのは団長くらいだろうって」
「ああ、あれですか。全然習得できてないんですよ。レゼイユ、見せてあげて」
レゼイユ団長の手にはまだボールが引っついていた。
彼女は一頭の【霊狐】に狙いを定め、大きく振りかぶる。
「せいや!」
シュパッ! ドシュ、ドンッ!
マナ玉は凄まじい勢いで一メートルほど先の地面に突き刺さった。
ジル先生は「ね?」と。
「トレミナさんに説明するのもおかしな話ですが、〈トレミナボールⅡ〉はとても難しい技なんですよ。マナ玉と〈気弾〉を全く同じタイミングで、そして寸分違わぬ軌道で撃たなければなりません。どちらかがわずかでもずれればあの通りです。マナのコントロールが下手なレゼイユには絶対無理な技ですね」
団長、胸を張る。
「〈レゼイユボール〉は全然使いものになりません」
……そうですか。無意味な能力に目覚めさせてしまい、すみません。
ジル先生はいつもより師匠らしい仕草で私の頭を撫でた。
「しかしまあ、これで〈Ⅱ〉も〈キャノン〉も、あなた固有の技だと証明されましたね」
ありがとうございます。
でも、だったらどうして私には撃てるのかな?
今の話だと、もう奇跡のような精度が必要になる。私はそこまで意識したことなんて……、あ、トレミナBさんがいるからか。
~ 私の精神世界 ~
ジャガイモ畑を風が吹き抜けていった。
トレミナBさんは、私達にスッと背中を向ける。
『マスター、私は当然の仕事をしているだけさ』
……かっこいい。
ん? 喋り方、変わってません?
彼女の後ろ姿を眺めながら、トレミナGさんは体長五十センチの子熊、トレミナ熊さんを抱き上げる。
『この子、日に日に言動が男前になっていますのよ。不思議ですわね』
『気付いてないだろうが、お前もな。日に日に言動が上品になっていくぞ。ですわ、って何だ』
外見に続いて名前、今度は性格まで。
私の技能達はどうなっていくんだろう。
誰にも聞けないよね。私固有だから。
今年に入ってから活動報告を書いています。
出版関係はまだ公開できないので大したことは書いていませんが、ジャガ剣についても書いています。
あと、この小説の作者がどんな人間かも分かるかもしれません。
大した人間ではありません。
よろしければ、私のマイページに読みにきてください。
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