162 狐神戦争 ミス・パーフェクト
狐神達はジル先生一人に標的を定めたらしい。
やっぱりミユヅキさんは戦わず、配下の【霊狐】とその進化形にやらせるみたいだ。
私が剣を鞘に収めると、逆に先生は腰から愛剣を抜いた。
初めて見る師匠の実戦。しっかり目に焼きつけておこう。
狐神は先生と四、五十メートルの距離を置き、ずらりと並ぶ。
数の優位をできるだけ利用するつもりだね。本当に頭脳的な戦い方をする神獣だ。
狐達の前には〈狐火〉や〈狐雷〉など各属性の遠距離弾が。
敵の動きを受け、ジル先生も魔法を展開する。
「風霊よ、周囲を巡って私を守りなさい。〈嵐旋結界〉」
先生を中心に暴風が吹き始めた。
ゴオォォ――――ッ!
これ、コルルカ先輩と同じ魔法だけど、ずっと広範囲で風力も強い。狐達の神技は先生に届く前にかき消されてる。
となると、あっちは攻撃を当てるために接近するしかないわけだけど。
体長四メートルの【霊狐】は、あまりの風力に近付くこともできない。
すると、倍ほど大きい【霊角狐】が、自慢の一角で風を切って駆けていく。
「勇気のある神獣ね。でも、それはどこかの猪と一緒で、蛮勇よ」
ジル先生の剣に刻まれた紋様が青く輝く。
あの剣に付与されているのは水霊強化だよ。精霊を限定している分、効果は大きい。先生の黒剣は水技能専用ってことだ。
「水霊よ、剣に宿りなさい」
刃に巻きつくようにクルクルと氷が舞った。
話に聞いていたオリジナル戦技を使うらしい。以前、あれのベースになっている魔法を他の騎士が使うのを見たことがある。〈アイススネーク〉という中位魔法で、氷の鞭を蛇みたいに自在に操っていた。
だけどたぶん、先生があの専用剣で放つのは……。
ジル先生が剣で空中を薙ぐと、人を丸飲みできそうな氷の大蛇が現れた。
「〈氷女咬み〉、行きなさい」
大蛇は【霊角狐】に狙いをつけて襲いかかる。
シュララララララ! ガッキ――ン!
咬みつくなり一瞬で氷漬けに。
これを目の当たりにしたミユヅキさんが、悲鳴にも似た声を上げた。
「わ! 我が軍の斬りこみ隊長が瞬間冷凍されたのじゃ! 風の結界で守り、氷の蛇竜で攻めるとは、全く隙が……」
「勘違いしてるわね、この〈氷女咬み〉も防御用よ。攻撃に使うのはこれ」
とジル先生は空いている左手を腰へ。
そうだ先生、注文していた銃がようやく完成したから、機会があれば試したいって言ってたっけ。
彼女が抜いたのは、銃身の長い大型のリボルバーだった。
私のより断然大きい。普通の女性なら片手で持つのは無理なサイズだね。
ジル先生が魔導銃の引き金を絞る。
ドォンッ! ドッカ――――ン!
爆発が起こり、七頭の【霊狐】が吹き飛んだ。
先生、さらに引き金を絞る。
ドォンッ! ズシャ――――ン!
稲妻が走り、また七頭の【霊狐】が吹き飛んだ。
納得したように先生は小さく頷く。
あのリボルバーはきっと弾丸も私のより大きいから、込められた魔法も強力だ。先生自身の属性は風と水。なので、おそらく弾は火と雷を交互に入れてると思う。
暴風結界に、動き回る氷の大蛇、そして火と雷の範囲攻撃。
地属性がないのはどうかと思うけど、確かに全く隙がない。
「先生、マナの消耗を抑えるのでは?」
「抑えていますよ。マナを主に注ぎこんでいるのは〈嵐旋結界〉です。〈氷女咬み〉は剣の補助に助けられていますし、銃は発射に必要な分だけ。言ったでしょう、魔導兵器はそのためにもあると」
「言われてみれば、効果の割にマナ消費が少ないですね。とても効率がいいです」
「リズテレス様ほどではないにしろ、非効率は好みません。戦いにおいてはトレミナさんもそうでしょう? その点では、私達はよく似た師弟ですよ、ふふ。では、予定通り私が時間稼ぎをします。あなたは先ほどのように、自分の身は自分で守りなさい」
そう言い残し、銀髪をなびかせてジル先生は駆け出した。
〈嵐旋結界〉が狐神の行動を阻害し、あるいは宙に舞い上げる。
ゴオォォ――――――――ッ!
防御用と言いつつ、しっかり攻撃にもなっている。
剣から伸びた〈氷女咬み〉が、意思を持っているかのように敵を襲撃。
シュララララララ! ガガガッキ――ン!
大蛇は触れた狐達をことごとく氷漬けに。もう攻撃としか言いようがない。
それから、続け様に魔導リボルバーを撃つ。
ドォンッ! ドォンッ!
ドッカ――――ン! ズシャ――――ン!
爆撃と雷撃の協奏曲。
あちらこちらで狐達がまとめて吹き飛ぶ。
……先生、無敵じゃないですか。
時間稼ぎどころか殲滅してしまう勢いですよ。
私はこういう人を何と呼ぶか知っている。ワンマンアーミーだ。
ジル先生はナンバーズの中で一番常識があると思っていたし、その認識は間違っていないだろう。それでも、やっぱりナンバーズであることに変わりはない。
先生が他の騎士達より極まっているのは、任務に対する意識の高さ。
立場上、もしくは、長く用意周到なリズテレス姫と一緒にいるせいもあるのかな。内勤であろうと討伐であろうと、先生は任務を完璧にこなす。
だから、あの通り名が付けられたんだと思う。
ナンバー2、ジル先生の通り名は、ミス・パーフェクトだ。
〈氷女咬み〉の読みは「ひめがみ」。
お気に入りの技です。すごくかっこいい。……ですよね?
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