16 一回戦(四年生)1
私の一回戦は第二闘技場で行われる。第一以外を使うのは初めてだ。
と言っても造りはどの闘技場も同じ。
収容人数も……。…………? 何だろ、やけに騒がしい。
競技場内に入るための扉を開けた。
人、人、人、観客席は人で溢れ返っていた。
座席は全て埋まり、通路も立ち見客でいっぱいだ。
昨日の倍以上は入ってる。たぶんこれ、収容人数の限界ギリギリだよね。
どうしてこんなに?
セファリスは席に座れたかな。
えーと、あ、いた。
リズテレス姫の隣で、……レゼイユ団長の膝に座ってる。
どうしてそうなった。まあ察しはつくけど。
ともあれ、よかった。姉は借りてきた猫みたいに固まってる。大声で応援される心配はなくなったね。
さて、対戦相手は……。
彼は私より先に競技場に入っていた。
身長は百七十台の後半くらいだろうか。痩せ型ではあるけど、筋肉はしっかり付いてる感じ。灰色の髪を短く切り、いかにも好青年といった印象だ。
名前は確か、クランツさんだっけ。
装備は中盾と木槍か。背も高いし、リーチの長さが厄介だな。
分析を進めていると、やや小声で彼が話しかけてきた。
「気を悪くしないで聞いてね。キミ、今からでも辞退を考えてくれないか? ……俺、キミみたいな小さな子と戦えないよ。マナの量は多いって噂だけど、……キミ、まだ十歳くらいだよね?」
「十一歳です。こんな戦いづらい相手で、先輩には申し訳なく思います。ですが、手加減も遠慮も無用でお願いします」
「そう言われても……」
「じゃあ、先輩の〈闘〉、見せてもらっていいですか?」
「……分かったよ。見せたら諦めてくれるかもしれないし」
困惑しつつも、クランツ先輩は臨戦態勢のマナに。
やっぱり、二年生とは段違いだし、さっきのエレオラさんより多い。
これの五割増し、と。
「これが、私の〈闘〉です」
「う! 嘘だろ! ……マナが多いって、まさかこんなに……」
はい、嘘です。実はまだ結構抑え気味です。
でも、二年生としてはありえない量だし、これで先輩も……、
あれ? まだ躊躇ってる?
クランツ先輩、温和な人柄で、優しくて、本当に好青年を実体化したような人だ。けど、戦ってもらわないと困るんですよ。
「私が普通の子供じゃないって理解してもらえたでしょ。そちらがどうであれ、私は全力で先輩を倒しにいきますよ」
ジャガイモ農家になるために。
「私はリズテレス様とジル副団長に認められてここにいます。先輩はお二人を侮辱しているのも同然です」
「……そうだね。俺が間違っていた。本気でやるよ。でないと、キミには勝てそうにない」
よし。やっとその気になってくれた。
試合開始だ。
審判員の合図で、双方駆け出す。
私の木剣を盾で受けるクランツ先輩。その体が少しのけぞった。
先輩の木槍を私も盾で防ぐ。押されることなく、すぐに弾き返した。
これが纏っているマナの差だ。
純粋な筋力差を引いても、近接戦闘では私が有利。
すると、先輩は一歩後ろへ。全身が二度、大きく光った。
すぐに打ち合いを再開。
……先輩の槍が重くなった。それに、さっきほど私の剣が効いてない。
きっと今使ったのは強化戦技。攻撃力と防御力を上げたんだ。
いや、それだけじゃないか。
マナを動かしてる。攻める時は槍先に、守る時は盾に。戦いの中ですごく自然に〈集〉を使ってくる。さすが四年生。
けど、それなら私にだってできる。
それから技術面でも一段上げるよ。私の剣術はジル先生仕込みだ。
カン! カカン! カンッ! カン! カンッ!
打ち合いは再び私が優勢に。
手を緩めずにそのまま押していく。
観客席が、歓声や驚きの声に沸く。
「やっぱり近接戦では分が悪いね。……ごめん、使わせてもらうよ」
そう言ってクランツ先輩は後方に跳んだ。
わざわざ教えてくれるんだから、本当にこの人は優しい。
打ち合いに応じてくれた時点で分かっていたけど。
何もマナ量五割増しの私と殴り合う必要はないってこと。
戦いはここからが本番だ。
遠距離攻撃がくる。
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