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ジャガイモ農家の村娘、剣神と謳われるまで。  作者: 有郷 葉


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159/212

159 [アイラ]邪女神降臨

 一人の人間がその人生を超えて果たしてくれた約束。彼女が作り上げた場所が、愛おしくてたまらない。

 そう思うだけで、六百年もの間、一度も生じなかった気持ちが湧いてくる。

 ここを守るために、私は強くなりたい。

 加速する心に比例して、体が作り変えられていく。


 発光が収束した時、私は体長三十メートルの【冥獄凶兎】になっていた。

 毛色は黒から濃い紅に。

 大きさだけじゃなく、肉体も前より強靭になったし、マナも結構増えたわね。さすが上位種だわ。

 あなたもそう思うでしょ?


 狐神は硬直したまま私を見つめている。


「こんなの、勝てるわけない……。もう最上位と変わらないくらい……」

「あら、鋭い」

「え……?」

「もう少し(逃げるのは)待ってもらえる?」

「待つって……、……あんた、どうしてまた光ってるの?」


 彼女が言うように、私の体は再び光り始めていた。


「決まってるでしょ。もう一回進化するのよ」


 一気に行けるかと思ったけど、やっぱり段階を踏まないと駄目だったわ。

 全身の輝きがさらに強くなり、徐々に巨大化。


 キュィィ――――――ン!


 私は体長五十メートルの【冥獄神兎】に。

 ふーん、ここまでマナが増えるのね。

 視点も一段と高くなったし、本当に神にでもなった気分。

 おっと、意識的に瘴気を抑えないと。呼吸するように周囲のものを枯らせてしまう。コーネルキア最初の神クラスが私で、何だか申し訳ないわ。

 さて、何度も待たせて悪かったわね。

 始めましょうか。


 狐神はじりじりと後方へ。


「……ぜ、絶対無理。もう、ママより強いじゃない……。

 こ、こうなったら……。

 逃げるだけ逃げてやるわ!」


 それも絶対無理よ。

 私がスイッと前脚をスライドさせると、波動が発生。

 彼女は回れ右をした姿で停止していた。


 これが神クラスの毒よ。

 上位種でもあなた程度なら自由自在だわ。


「それにしても弱いわね。あなたの名前、もしかしてメイティラ?」


 口だけ解除してあげるわ。はい、どうぞ。


「なんで私の名を!」

「ああそう……。あなた、三百年近く生きていてその程度ってどうなの? 【霊狐】の暮らしぶりからすれば仕方ないけど」

「なんで年齢まで!」

「覚えてないでしょうけどあなた、生まれてすぐの頃に私と会っているのよ。とりあえず、死にたくなければ人型になりなさい」

「まさか、助けてくれるの?」


 知り合いであろうがなかろうが、初めから殺す気なんてなかったわよ。

 いや、でも知り合いなら話は変わってくるか。あのコロコロして可愛かった子狐がこんなに残念な成長を遂げているなんて、やるせない。


「ええ、ついでに今度私が鍛え直してあげる。あなたの名付け親として」

「……え? 名付け、親?」


 狐神の女性、メイティラがもう一度人型になると、私はシエナに視線を送る。察した彼女は人型固定の腕輪を取り出した。


 じゃあ私も人型に……。

 そうだ、いい機会だから久々に人型の容姿を一新しようかしら。

 髪はこの毛色と同じ紅に。あと見た目に、初の神クラスとしてもうちょっと威厳がほしいわね。

 ……くく、あれがいいかも。

 ちょうど装飾やドレスもあるし。

 何よりシエナが喜びそうだわ。


 私が新たな人型の姿になると、案の定、シエナが歓声を上げた。


「きゃ――! 邪女神ジャスヤヴァーザ!」


 シエナにとって今や魂のバイブルとなった赤髪の騎士の物語。幾多の戦いの果てに、最後に騎士が対峙するのが、同じ赤い髪を持つ邪女神ジャスヤヴァーザよ。

 本に描かれている通りの姿を再現してみたわ。

 身長百七十七センチで、背中まである長い髪。黒のロングドレスに、首飾りや腕輪を付けて。

 でもこれ、動きにくくて実戦的じゃないわね。

 ドレスの前部分を裂いて、足にブーツ、体の各箇所に黒煌合金の鎧を装着。

 こんな感じかしら。


 完成した姿に、シエナが再び歓声を。


「アイラ、かっこいい! けど、黒煌合金の装備なんて持っていたのね」

「実はね、これも持っているわ」


 私の手の中に黒い石板、通話魔導具が出現。

 操作すると、すぐに黄色から青い光に変わった。

 そして、リズテレス姫の声が。


『あなたから連絡してきたということは、うまく最上位に進化できたのね、アデルネ。いいえ、もうアイラと呼ぶべきかしら?』

「ええ、リズ。色々と世話をかけたわね」


 私達の会話を横で聞いていたシエナが、「姫様とすごく親しげに!」と叫んだ。


「本当は私、リズとは結構前に知り合ってるのよ。やけに気が合うから友達になったわ。私が【古玖理兎】の一団に入ったのもリズに頼まれてだし」

「そ、そうだったんだ。確かに二人、よく似てるわね。……腹黒いとことか」


 私がリズテレス姫に出会ったのは、コーネガルデ学園が出来る以前のことよ。

 シエナが成長するまで時間もあったから、団への潜入を引き受けた。潜入と言っても大したことはしてないけど。兎神達にコーネルキアのいい噂をそれとなく広めたり(つまり根回し)、殺されそうになっていたマヌケな角兎をギリギリで助けたりしたくらいだわ。


 通話魔導具を通して、リズテレス姫がシエナの名を呼んでいた。


『とても難しい任務を見事になし遂げたわね、シエナさん』

「難しい任務、ですか……?」

『レイサリオンの救援をこなしつつ、コーネルキアの主力となる合同魔法を完成させ、前世の自分と統合を果たし、アイラを最上位へと導く。これがあなたに課せられた本当の任務だったのよ』

「……へぇ、全然知らなかったです。私、よくやりましたね……」

『ふふ、おかげでコーネルキアの戦力は大幅に上がったわ。特務部隊はもちろんあなたの好きに作ってもらって構わないし、今回参加した騎士(同志)全員に特別褒賞を用意するわね』


 リズテレス姫の上機嫌な声が響くと、魔女達は一斉に沸いた。

 そりゃ上機嫌にもなるわよね。想定していた中でも最高の成果が上がったんだから。

 本当にあなた、よくやったわよ。

 私の眼差しに、シエナは少し照れたような苦笑いを返した。

 そうだ、成果といえば、狐神はまだ一頭しか捕まえていなかったわ。

 私は通話魔導具に向かって。


「リズ、狐の本隊だけど、こっちで対処することも可能よ。私は思っていたより力を得られたし、同志メアリアもまだまだ余力があるから」

『まあ頼もしい。でも大丈夫よ。ジルさんから連絡があって、もう逃げ出そうとしているからトレミナさんと制圧するって。それから、ついさっき寝ぼうしていたレゼイユさんが飛んでいったわ。そろそろ着く頃だと思うんだけど』


 ここで突然の雷鳴。

 振動する空気と膨大なマナの気配に、全員が同じ方角を向いた。

 山の向こうで、雷を巻きこんで嵐が吹き荒れている。

 自然の猛威、というレベルではない。まるで巨人が斧を振り回しているかのように、周りの山々を削っていく。


 ……到着したみたいだわ、破壊神が。

もう一話、アイラです。

何とか年内にトレミナに戻れそうです。


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― 新着の感想 ―
[一言] 二段階進化って…アイラ…どんだけ貯め込んでたんや…(笑)
[良い点] >……腹黒いとことか  本音が通話魔導具越しに姫にも聞こえてね?(汗) [一言] リズテレス「誰が腹黒いって?(暗黒)」
[良い点] 何から何まで考慮されていたとは恐ろしやら素晴らしいやら(・・;) [一言] 最後の文で誰かの実力の一端が垣間見れましたね…
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