表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
158/212

158 [アイラ]六百年の旅の果て

 シエナは元々、前世の影響を多分に受けていた。

 そこに以前の記憶(私から見た彼女だけど)が入ったのだから、もうリエナとシエナが一つになったと言っていい。

 八十六年の生涯を全うしたリエナに、二十歳のシエナが上乗せされた。

 さぞ達観した人間になるだろうと思いきや。


「やだ、アイラ全然変わってないじゃない。まあ私も若返った気分だし、希望の自分になれてるし、私の魂よくやった、って感じだわ」


 元のシエナのままだったわ。

 予想はしていたけどね。人も神獣も、割と現在の外見に左右される。


「それにしてもあの晩年のあなたはどこに行ったのかしら」

「あの時はもう死にそうだったし」

「しおらしくなってたって? あなたらしいわ。ほら、大好きなマドレーヌがあるわよ」

「そうだ私、これ大好きだったんだ!」


 差し出した焼き菓子に飛びつくシエナ。

 私はポットを取ると、彼女のカップにお茶を注いだ。


「まるで昔に戻ったみたい。よくこうやって森の中でお茶したよね」


 そう、私達は今、戦場の森でお茶をしている。椅子に腰掛け、テーブルの上には様々なお菓子がズラリ。

 その一つ、アップルパイを凝視しているのはもちろん同志メアリアよ。


「同志アデルネ、いえ、同志アイラ……、その能力、とても便利ですね……。ロイガ、同じことできる……?」

「……俺には、まだ無理です。すみません」


 これらの道具やお菓子は、全て私が出した物になる。

 どこからかというと、いわゆる次元の裏ポケットから。実はあの空間、かなりの広さがあるのよ。

 人型を長年使い続けていれば活用できるようになるわ。

 体に付属させなくても出し入れが可能になるし、逆にあちらにある物を選んで身につけることもできる。一瞬で服を着替えたりもできるってことね。

 私が視線をやると、そこに椅子がもう一脚現れた。


「アップルパイ、どうぞ。ここにあるお菓子は全て、同志メアリアお抱えの職人達に作ってもらったものだし。外でお茶がしたいなら、虎にティーセットをくくりつけておけばいいのよ」

「その手があった……」

「……メアリア様」

「さあ、同志達も休憩して。戦闘で疲れたでしょ」


 と私はもう一セット、お菓子やお茶の乗ったテーブルを出した。

 シエナもマドレーヌを振りながら仲間達に呼び掛ける。


「そうそう、同志達も食べてください。裏ポケットは時間の流れが百分の一くらいになるそうですから、結構出来立てですよ」


 二十五人の魔女達は互いに顔を見合わせたのち、それぞれ焼き菓子やカップを手に取った。


「涙を流した時はどうなるかと思いましたが、いつも通りの同志シエナですね」

「それよりあの人、今さらりと大変な秘密を」

「時間の流れが百分の一、ですよね」

「神獣はずっと人型でいればほぼ永久に生きられることに」

「羨ましい。死ぬ時は私、次は神獣にって魂に言い聞かせますよ」


 さすがシエナが集めた子達だわ。あっさり現実を受け入れた。

 シエナ、本当に愉快な居場所を作ってくれたわね。

 じゃあ、次は私が頑張らないと。皆から頼りになる神獣だと思ってもらえるように。

 向こうも待ちくたびれているみたいだし。

 狐神の女性は呆れたような眼差しで私達を見つめていた。


「何のんきにティータイムを楽しんでるのよ! 私と戦うんじゃなかったの!」

「あらあら、ずいぶんと死に急ぐのね。くく」


 私が椅子から立ち上がると、彼女はビョンと後ろに跳びのいた。


「こうなったらやるだけやってやるわ!」


 女性の全身が光に包まれる。

 現れたのは体長三十メートルにもなる大狐。

 尻尾が七本あり、体の各所に硬そうな鎧を付けている。

 そうだった、この子は【鎧鱗剛狐】だったわね。

 見ていたシエナが、お茶を飲みながら眉をひそめる。


「人型はおへそを出しているくせに、神獣ではやけに重装備なのね」


 すると、狐神は短く一吠え。


「ほっといて、だって」

「そっか、アイラは狐の言葉が分かるんだっけ。あれ、上位種にしてはちょっと弱いし、あなたなら人型でも倒せるんじゃない?」

「いいえ、神獣の姿で戦うわ。シエナ、私ね、今かつてないほどに強くなりたいと思っているの」

「それじゃあアイラ……!」


 ええ、あなたのおかげでね。

 六百年の旅の果てに、ついに私は守るべき居場所に辿り着いた。

 狐神と向かい合い、人型から【古玖理毒兎】に戻る。


 キュィィ――――ン!


 この姿を見た相手方が驚きの声を上げた。


「嘘でしょ! 下位種って! こんなマナ量の下位種、見たことないわよ!」

「あなたは本当にうるさい狐ね。仲間からも言われない?」

「よく言われるわ……。え……? ど! どうして私達の言葉が話せるの!」

「私のこと、あなた達の女王から聞いてないの?」

「え、ママからは何も……。いや! 女王って誰のこと! この群れのボスは私だし!」

「あなた、あいつの娘だったのね。全部分かってるから隠しても無駄よ。まあ少し待ってもらえる? 別に待たなくてもいいけど」

「待つって、……あんた、どうして体が光ってんの?」


 狐神の彼女は目を見張る。

 指摘の通り、私の全身は淡く発光を始めていた。

 光は徐々に強くなっていく。

 抑えようもなく血がたぎり、体中が熱くなるこの感覚。

 ……本当に、久々だわ。


「決まってるでしょ。今から進化するのよ」

常に人型で暮らす神獣は、本体は年一回くらい食べれば死ぬことはありません。

それすら忘れて、うっかり死んでしまう神獣も。


評価、ブックマーク、いいね、感想、誤字報告、本当に有難うございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。





書籍化しました。なろう版へはこちらから。
↓をクリックで入れます。




陰キャ令嬢が沼の魔女に。

社交界で沼の魔女と呼ばれていた貴族令嬢、魔法留学して実際に沼の魔女になる。~私が帰国しないと王国が滅ぶそうです~








強化人間になってしまった聖女のお話です。
↓をクリックで入れます。




腕力で世界を救います。

強化聖女~あの聖女の魔力には武神が宿っている~








こちらも連載中の小説です。書籍化します。
↓をクリックで入れます。




事故で戦場に転送されたメイドが終末戦争に臨みます。

MAIDes/メイデス ~メイド、地獄の戦場に転送される。固有のゴミ収集魔法で最弱クラスのまま人類最強に。~




書籍 コミック


3hbl4jtqk1radwerd2o1iv1930e9_1c49_dw_kf_cj5r.jpg

hdn2dc7agmoaltl6jtxqjvgo5bba_f_dw_kf_blov.jpg

1x9l7pylfp8abnr676xnsfwlsw0_4y2_dw_kf_a08x.jpg

9gvqm8mmf2o1a9jkfvge621c81ug_26y_dw_jr_aen2.jpg

m7nn92h5f8ebi052oe6mh034sb_yvi_dw_jr_8o7n.jpg


↓をクリックでコミック試し読みページへ。


go8xdshiij1ma0s9l67s9qfxdyan_e5q_dw_dw_8i5g.jpg



以下、ジャガ剣関連の小説です。

コルルカが主人公です。
↓をクリックで入れます。




コルルカの奮闘を描いた物語。

身長141センチで成長が止まった私、騎士として生きるために防御特化型になってみた。




トレミナのお母さんが主人公です。
↓をクリックで入れます。




トレミナのルーツを描いた物語。

婚約破棄された没落貴族の私が、元婚約者にざまぁみろと言って、王国滅亡の危機を逃れ、ごくありふれた幸せを手に入れるまで。



― 新着の感想 ―
[一言] 六百年の時を経て遂に進化…!
[一言] うっかり死んでしまう神獣…ドジっ子の引き際を誤ったんですね 或いはぐーたらしててコロッと
[一言] >虎にティーセットをくくりつけておけばいいのよ 虎が繊細で精密な動作できない限り茶器の類は全滅すると思うのよ テーブルにケーキ置いて椅子でケーキを切って食べる会に、と思ったけどお菓子も原型留…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ