152 虎狐神連合軍[シエナ]が見た戦いの決着
ロイガは体長四十メートルを超える神獣、【穿槍暁虎】の姿になっていた。
赤っぽいオレンジの毛に覆われた巨体が、森の木々を押しのけて出現。その頭部には立派な一角が。
同種のサイゾウさんと似た毛色だけど、黒の虎模様が入っているわね。やっぱり虎だからかしら。
オージェスさんに支えられていた同志メアリアは、途端にシャキッと。力強く踏み出した。
威圧的な人型じゃなくなって緊張が解けたようだわ。明らかに威圧的なこっちの怪物の方が平気ってどうなのかと思うけど。
それでも、オージェスさんはまだ婚約者のことが心配らしい。
「女王様、本当にお一人で大丈夫ですか?」
「大丈夫……。5号まで揃った時の私の強さは、オージェスも知ってるはず……」
「……そうではありますが」
あの発動体を四つも飛ばせるのは同志メアリアだからと言える。
広範囲を知覚可能な高い認識能力と、膨大なマナがあってこそできるのよ。
普通は動かせても一つだけ。しかも使っている間は意識がそっちに行っちゃって、自分はまともに戦えないと思う。それほど高度な武器なの。
その高度な2号から5号までが発光を開始。
戦闘態勢に入ったわね。
ところが、ここで同志メアリアが口を開いた。
「一つ問いたい……。仮に国を手に入れたとして……、もしその国が危機に陥ったら、どうする……? 見捨てるか……?」
すでに神獣化しているロイガは喋れない。代わりに、彼は同志メアリアにまっすぐ視線を返した。
これに彼女は「やはりか……」と笑みを。
ん、どういうことでしょう?
やがて、同志メアリアとロイガは互いのマナから始まりの時を知った。
虎神の角がバチバチと雷を纏う。
対する女王はボソボソと小声で魔法を詠唱。
ロイガが突くように首を振ると、角から強力な電磁砲が発射された。
タイミングを合わせて同志メアリアも。
「〈グランドウォール〉……」
一瞬で彼女の前に五枚の大きな土壁が完成した。電磁砲とぶつかる。
ド! ド! ド! ドンッ! シュー……。
雷は四枚目の壁を壊し切れずに消滅。
すごい威力の神技だわ。相性の悪い地属性の中級防壁を三枚も貫通した。
あれが彼の最大攻撃技、〈雷の角〉ね。
ロイガも同志メアリアの実力は分かっているから、初撃から全力で来た。その判断は正しい。
彼女が攻撃に移ったら、あっという間に勝負がついてしまうから。
メアリア2号、3号、4号、5号が主の元を発進。
ロイガに向かって高速で飛んでいく。
この間に、同志メアリアは再びボソボソと小声で魔法を詠唱。
発動体が四方向から虎神の巨体を取り囲む。
配置についた分身達を見て、同志メアリアは今度は普通の声で。
「水霊……、連続の刃となって切り裂け……」
輝きを放つ2号から5号。
ロイガはジャンプして逃れるべく、ぐぐっと屈んだ。
無理よ、彼女が先手を打っているわ。前もって小声で唱えておいたアレが発動する。
私の読みを裏付けるように、同志メアリアは「きひ」と笑った。
「〈粘着毒沼〉……!」
跳び上がろうとしたロイガの足元が、その名の通り、粘着質な毒沼に変化。
逆に地面に貼り付く形になってしまった。
そして、ここで分身達に付与した魔法の出番だ。
「〈アクアカッター・ラッシュ〉……!」
シュザザザザザザザザッ!
シュザザザザザザザザッ!
シュザザザザザザザザッ!
シュザザザザザザザザッ!
2号から5号まで、一斉に無数の水刃を発射。
すぐにロイガの姿は水煙に包まれて見えなくなった。その咆哮が森に響き渡る。
水蒸気が収まった時、そこには大地に横たわる虎神の無残な姿が。
全身から血を流し、一目で瀕死だと分かった。
神獣の上位種をわずか数秒で圧倒した同志メアリア。
ロイガの鼻先に歩み寄る。
「人型になれ……。お前は民を食わないと言ったから……、命だけは助ける……」
……やっぱりあなたは優しい人です、同志メアリア。
しかし、虎神は全く人型になる気配がない。
「どうした……? その体のままだと、じきに死ぬぞ……」
ロイガはゆっくりと瞼を閉じた。
……死ぬ気、なんだ。
彼は王の座を賭けたこの戦いに命を懸けていた、ってことね。敗れた今、生に未練はないと。
なんて潔い……。
回れ右をした同志メアリアは私達の元へ。
「同志達、すみません……。これを使わせてください……」
そう言って彼女が開けた保冷箱の中には生肉が。
このお肉はコーネルキアから運びこんだ上位種(たぶん竜)の稀少肉よ。誰かが大怪我を負った時とかに一瞬で治療するための緊急用。
十キロほどあるそのお肉を、同志メアリアはむんずと片手で鷲掴み。
高々と掲げたかと思ったら、
ブオンッ!
と勢いよく放り投げた。
稀少肉は少しだけ開いていたロイガの口へ。綺麗にイン。
ナイスシュートです。
再度、彼の前に立った同志メアリアは、その毛に触れながら。
「食べろ……。私はお前を気に入った……。レイサリオンの守護神獣にしてやる……」
突然の提案に驚いたのか、ロイガは目を見開く。
「ただし、地位は私の下……。はっきり言っておくけど、生優しい道じゃない……。レイサリオンにはお前とその配下に殺された者がいる……。皆から認められるには長い年月を要するだろうし……、どれだけ経ってもお前を許さない者もいると思う……。それでも何となく……、お前はこの話を受ける気がした……。お前のマナからは、好き放題できる国じゃなく……、守るべき国が欲しいと、伝わってきたから……」
ロイガはもう一度目を閉じた。
今度は今の女王の言葉を、頭の中で繰り返しているように見える。
同志メアリアもそう感じたのか、しばし時を置いた。
やがて……。
「私と共に歩む覚悟があるなら……、その肉を食べろ……!」
ロイガの喉がゴクリと鳴った。
巨体の至るところにあった切り傷が見る見る塞がっていく。
起き上がれるほどに治ると、彼は人型になった。
同志メアリアと向かい合う。
「俺は、守るべき国を守れなかった……。かつて俺はカテリッドという王国で守護神獣を」
「身の上話は後で聞く……。まずは返答を……」
すると、ロイガは彼女の前で片膝をついた。
これは世界の通例とは完全に逆だ。
「メアリア様、あなたにお仕えします。魂に誓って、命の限りレイサリオンを守護します。……今度こそ、必ず!」
連合軍はこれにて解体です。
カテリッド王国、以前にも出てきています。全力で逃亡した人もいる国です。
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