15 ジャガイモ農家になるためなら
「お姉ちゃん、頑張って」
ジル先生が、追加ブーストが可能か知りたい、と言ってきたのでもう一度応援してみたよ。
何ですか、先生。棒読みに聞こえる?
心を込めたエールは、私にはハードルが高すぎます……。
それに、セファリスには充分な効果があったみたいだ。
セファリスの飛び蹴りがエレオラさんの胸部をクリーンヒット。
チンピラ女子は倒れたまま起き上がることができない。勝負がついた。
「よし! これで私が三年のチャンピオンよ!」
それは違うと思うよ、お姉ちゃん。
少し笑みを浮かべながら先生がエレオラさんの元へ。
今日は上機嫌だな。
「収穫があったので優勝剥奪は許してあげます。しかし、二年生に負けたのは事実。さっさと帰って鍛錬に励みなさい」
「……はい、精進します」
この人、何しに来たんだろう。
あ、そうこうしている間にもうすぐ試合の時間だ。
「そういえば先生、伝えたいことって何だったんです?」
「ああ、忘れるところでした。今日はマナの量を相手の五割増しにしなさい」
「多すぎませんか?」
「四年生は戦技も魔法も使ってくる上、戦い慣れてます。実習で神獣とも戦っていますからね。それくらいでちょうどいいはずです」
なるほど、私、もうほぼ騎士の人達と戦う感じですね。
「次はお姉ちゃんが応援するからね、誰よりも大声で! 二人でチャンピオンになりましょ!」
すみません、エレオラ先輩。うちの姉、譲る気ないみたいです。
私はすでに二年生のチャンピオンだし、これで満足だよ。
また夜まで戦い続けるのか……。
本来なら今日は帰省の支度をしつつ、村の皆へのおみやげとか買いにいってるはずなのに。……うん? 何も勝ち進む必要はないよね?
一回戦で敗退すればいいんだ。
むしろそれが自然だよ。私はちょっとマナが多いだけの二年生なんだから。
うん、そうし……、あ。
「そんなことは、私も姫様も絶対に許しませんよ」
マナ共鳴で、ジル先生に企みが筒抜けに。先生はため息を一つ挟んだ。
「分かりました。では、もしトレミナさんが優勝できたなら、あなたがジャガイモ農家になることを検討しましょう」
「本当ですか? 本当に検討してもらえるんですか?」
「ええ、きちんと検討します」
――この時、私は大人のズルさを知らなかった。
検討はあくまでも検討であって、決定じゃない。
それを痛感するのはもう少し先のこと。
この日の私は、優勝すればジャガイモ農家になれると無邪気に信じて戦うことになる。まったく、どうしようもなく子供だったと思うよ。
『剣神(兼ジャガイモ農家)トレミナの回顧録より』
あれ? 何か今……?
気のせいか。とにかく優勝すればジャガイモ農家だ。
たとえ騎士が相手でも負けるわけにはいかない。
何ですか? ジル先生。
「あなたほど農家を夢見る少女もいませんよ。普通は逆でしょう」
「普通は逆よ。お姉ちゃんはイモ農家が嫌で騎士を目指したのよ」
セファリスに普通を語ってほしくないよ。
人がどうであれ、ジャガイモを作るためなら私は全ての四年生を倒す。
「何にしてもやる気に、はあまり見えませんが、わざと負ける気はなくなったようなので安心しました。そうそう、先ほど言った五割増しは目安です。必要だと感じたら〈闘〉を使いなさい。あなたが本気で戦わなければいけない相手も、いるかもしれませんよ? ふふふ」
楽しみで仕方ない、と顔に書いてありますよ、ジル先生。
お読みいただき、有難うございます。










