145 ジャガイモの底力
マイホームが少し削れちゃったけど、気を取り直してジャガイモを調理していくよ。
まずは切ったイモを油の中へ。
「何だよ、またフライドポテトか」
呆れ気味に言ってきたキルテナに視線を返すと、彼女は硬直。
「わ、私は大好きだけどな!」
「どうしたの……? まあいいか、今日は普通のフライドポテトじゃないから楽しみにしていて」
ジャガイモを揚げている間に、フライパンでソースを作っていく。
バターと、刻んだアンチョビ、にんにくを投入。
焦がさないように温め、しっかり風味を引き出す。
イモが揚がったらフライパンへ。
手早く混ぜ合わせ、刻みパセリを振りかけて完成。
どうぞ、アンチョビガーリックフライドポテトだよ。
「確かにこのポテトは普通じゃないわ! 美味しそう!」
「まずは私からだ! 大好きって宣言したしな!」
引っ張り合うセファリスとキルテナを、ルシェリスさんがスッと手を出して制する。
「この香りは……」
肉しか食べないと豪語していた彼女が、迷いなくポテトを口へ。
「……うまい! こ、これが野菜だと……!」
武神、唸る。
やったよ、ジャガイモ。
セファリスとキルテナも加わって、瞬く間に皿は空になった。
急かされるようにおかわりの調理にかかる。
ふふ、皆さん夢中だね。そうだろうとも。
だってこれは、私が自ら禁じてきた手なんだから。
バター、アンチョビ、にんにくに援軍を要請するなんて。
それでも、まだ主体はジャガイモのはずだ。
もうこうなったら、とことんやるよ。
完成したポテトにフォークを伸ばす三人を、今度は私が手で制した。
「ちょっと待ってもらえる?」
鍋にバター、牛乳、とけやすいチーズを投入。
火にかけて全体が一つになったら、胡椒をガリガリと振りかけて完成。
このチーズソースにつけて食べてね。
「チーズが伸びる! 口の中でとろける!」
「やばい! このフライドポテトならマジで大好きだ!」
普段はイモを食べないセファリスもすっかり虜のようだ。
キルテナの言葉がちょっと引っ掛かるけど、こちらも虜なのでよしとしよう。
やっぱりチーズの援軍は強力だった。
「どうです、ルシェリスさん。このジャガイモ料理は肉に勝ったんじゃないですか?」
「ま、負けてはいない……。……互角だ」
その返答はもはや負けを認めたも同然ですよ。
ふふ、これがジャガイモの底力です。
二百歳を超える武の達人に悔しそうな顔をさせるとは、なかなか大したものだね。
と気分よく私もチーズディップアンチョビガーリックフライドポテトを一口。
……う、私には味がしつこすぎる。
皆喜んでるし、まあいいか。
再度のおかわりを求められ、キッチンへ行こうとした矢先のこと。
キィ――ン。キィ――ン。
リビングのテーブルに置いた石板が、低い音をたてて光り出した。
「これって、姫様から渡された通話魔導具だっけ? 私が出てあげる」
セファリスが石板の表面に触れるも、変わらず鳴り続けている。
「あ、ダメダメ。私のマナにしか反応しないんだって」
私が通話魔導具にタッチすると、音は止み、光が黄色から緑色に変わった。
「はい、姫様。トレミナです」
『リズテレス様ではありません。私です』
「ジル先生でしたか。発信者が分からないのは不便ですね」
『鋭意改良中です。まだ試作品ですから』
この魔導具に入っている通話魔法はマリアンさんが長い年月を費やして開発したもので、絶対に他国に盗まれたくないらしい。
なので、まずはセキュリティ面から仕上げたとのこと。仮にこの石板を奪っても、技術を解析するのは不可能なんだって。
リズテレス姫に、これがスマホですかって尋ねたら、「程遠いけど、ゆくゆくはね」と微笑んでいた。
「通話魔導具を使って連絡してきたということは、緊急事態ですね?」
ジル先生の笑う声が聞こえた。
『その通りです。レイサリオンからの報告によると、敵連合軍には【霊狐】の別動隊がいたようです。数にして約五百頭。上位種が二頭おり、一頭は神クラスらしいのですよ』
「五百頭に神クラス……、女王様達だけでは厳しいですね」
『ですので、援軍を送ることにしました。時間を掛けずに片付けたいと思っています。行くのはレゼイユと私、それからトレミナさん、あなたにも』
「私も行くぞ。【霊狐】の最上位なら九尾だな? 奴らは好かん! よって私が倒す!」
ルシェリスさんがフォークにポテトを刺したまま、勢いよく立ち上がった。
『その声はルシェリス様? 一緒におられるのですか? あなたはお連れできませんよ。もしもに備えて国内にいてください』
「何だと、……そうか」
武神は渋々座り直し、ポテトをチーズソースにつけて齧った。
何事もなかったようにジル先生は話を続ける。
『トレミナさんにも来てもらいたいのですよ。私の魔法とあなたの〈トレミナキャノン〉があれば、神クラスだろうがすぐに片付きます。あ、その他五百頭はレゼイユが制圧しますので。修行に専念しなさいと言った手前、非常に頼みにくいのですが』
「お気になさらず。私、行きます」
『即答ですね。いいのですか?』
「はい、私達(私とジャガイモ)も今日は援軍に助けられたので。次は私が助けにいく番です」
『……よく分かりませんが、有難うございます』
それに、やっぱりモアさんのことが気になるんだよね。
だけど、援軍はレゼイユ団長とジル先生、そして私か。自惚れるわけじゃないけど、かなり強い組み合わせじゃないかな。
と思っていると、ポテトを口に運んだルシェリスさんが唸った。
「間違いない……、この組み合わせは最強だ!」
チーズディップアンチョビガーリックフライドポテト。
略してチートです。
チートイモは面倒という方へ。
器にマーガリン、チューブにんにく、塩を入れ、揚げたてのポテトを絡めるだけ。
これでもかなり美味しいです。
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