141 虎狐神連合軍[モア]丸くなる兎
この山はそれほど高くありませんが、私達のいる頂上からは周辺を一望できます。南の森に敵が入るまで、ここでキャンプするそうです。
深夜になって五人の騎士が合流しました。連合軍の監視に当たっていたお姉さん達です。
全員で地図を見ながら彼女達の報告を聞きました。
それが済むと、シエナさんが火霊に命じて全てのかがり火を消火。
「場所が場所だけに、遠くからでも見えてしまいますからね。敵が着くのは朝方でしょう。同志メアリア、ここからはあなたの出番です」
「了解しました……。水霊……、薄く広がり、私の目となり耳となれ……。〈霧状感知陣〉」
詠唱と同時に、メアリア女王の周囲から大量の霧が。山を下って森の中へと入って行きました。
「私が警戒していますので……、皆は戦いに備えて休んでください……」
女王様の言葉に従い、騎士の人達は仮眠をとるようです。
事前に段取りは決めてあるのでとてもスムーズに……、あ、はい、私にもたれてくれていいですよ。私、丸くなった方がいいですか?
「【古玖理兎】が一頭いてくれたらキャンプは快適ですね」
とシエナさんはもそもそと私のお腹辺りに。
く、くすぐったいです。
「モア、あなたも寝ておきなさい」
アデルネさんからそう言われましたが、ドキドキして眠れそうにありません……!
こんな時は心を落ち着けて月を眺めるのがいいです。
月を見ていると……、月を見ていると……、…………。
「起きなさい、モア。いつまで寝ているの」
んはっ、いつの間に眠ってしまったんでしょう。
もう周りが明るくなっています。
「相変わらず、小心者のくせにふてぶてしい兎だわ。だから、トレミナ様と同じあの姿になったんでしょうけど」
姉弟子の毒ですっかり目が覚めました。
皆さんもう準備が整っていたので、私も急いで人型に。
メアリア女王は一晩中ずっと起きていたみたいです。大丈夫でしょうか。
「私は寝だめできるから平気……。敵方はすでに森の中です……」
「腕が鳴りますね。虎神二百、狐神百ですか」
シエナさんがぐいーっと伸びをすると、女王様は「きひひ……」と笑いました。
「狐もちゃんと二百頭います……。私の水霊感知は欺けない……、きひひひひ……」
一般的に、人間より神獣のマナ感知の方が距離が長い傾向にあります。ですが、神獣のマナ感知より遠くまで探れるのが精霊を使った感知です。
ただし精霊感知の場合、間接的なだけにマナ感知ほど正確な情報を得られなかったりしますね。
「一般的にはそう……。でも、私の水霊は熟練度が高いから結構正確……。そして、私の水霊は優秀だから、マナ感知では騙されてしまう敵の擬装も見破った……。少し早いけど、もう皆と水霊を共有します……」
メアリア女王が手を振ると、私達の体周辺に水蒸気が発生。
あ、これが聞いていたやつですね。
確か、拒絶せずに受け入れればいいんでしたっけ。
わ、水霊が私のマナと結合しましたよ。
次の瞬間、私は広大な森林地帯の全域を知覚していました。
もちろん虎神と狐神の姿も捉えています。
人型になっているのが二人いますね。位置から察するに、男性が【慧虎】達のボス、女性が【霊狐】達のボス、でしょうか。
二種族間で意思疎通ができるように、今は彼らだけ人型を使っているようです。
それで狐神の数なのですが……、確かに二百頭います。
「そんな……、私達が監視していた時は間違いなく百頭だったのに」
シエナさんの呟きに、今度はアデルネさんが「くく」と笑いました。
「【霊狐】の種族特性、〈認識擬装〉よ。感知した者のマナに働きかけ、自分の姿を誤認させるの。今は百頭がそこにいない風に擬装しているわけ。世間では【霊狐】は変化の(化かす)能力を持っていると思われているようだけど、これが真実よ。高度な精霊感知は騙せないと聞いていた。本当だったわね、くくくく。同志メアリアの水霊は確かにレベルが高いわ」
「……姉弟子、【霊狐】に詳しいですね」
「古い知り合いがいるのよ。もしかしたら今回、彼女も来ているかもね。実は私、狐神の言葉も話せるわ。とにかく私は向こうの手の内を知り尽くしているし、同志メアリアもいる。あと、連携のとれるチームもね。あちらにしてみれば、相性最悪の討伐隊が来ちゃった感じかしら。くく、可哀想」
……ずいぶん嬉しそうですね、姉弟子。
だけど古い知り合いとは、アデルネさんはいったい何歳なんでしょう。聞いた話では師匠よりずっと歳上だそうです。その本当の実力を知っているのも師匠だけなんだとか。
どうして上位進化しないのかも含め、謎だらけの兎です。
私達全員に水霊が行き渡ったのを確認したメアリア女王は、コホンとわざとらしく咳払いを。
「そう、勝つのは私達……。圧勝する……。いざという時のために、リズテレス様から奥の手も預かっています……。安心して戦ってください……、同志達よ……。作戦の開始は……、敵が森の中央付近に来た時……」
「奥の手といえば、この子もいるしね」
そう言ってアデルネさんは私の頭をポンポンと。
……が、頑張ります。
それから一時間ほど経ったでしょうか。連合軍が大分森の真ん中辺りまで進んできました。
メアリア女王が腰掛けていた石から立ち上がり、
「さあ、ここからが私の魔法の本領発揮……。今度はこっちが奴らを化かしてやろう……、きひひひひ……。〈霧状感知陣〉を〈霧幻絶命陣〉に移行させる……!」
……こちらもずいぶん嬉しそうに笑っています。
そして何ですか、その恐ろしい移行は。
短編を書きました。主人公はコーネルキアのモブ騎士です。
『女子力底辺騎士と年下上司』
騎士の日常ものとして楽しんでいただけると思います。
約3500文字(今回の話の約1.5倍)です。
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