138 援軍出発
この日、いよいよ兎神達とキルテナがコーネルキアの守護神獣になる。
守護神獣の契約は、国の代表者から直接委任されることで完成するらしい。代表者とはつまり、アルゼオン王だ。
謁見の間に、人型になった神獣達が集まっていた。
まず初めにルシェリスさんが進み出る。
あれ? と私はキルテナに視線をやった。
「二番目の守護神獣の地位、譲っちゃっていいの?」
「いいんだ、どう考えても師匠の方が相応しいから。私はこの次でいい」
キルテナ、自信が深まったことで余裕が出てきたかな。
玉座の前まで階段を上がったルシェリスさんは、王様と同じ高さの場所に立った。そして、アルゼオン王の方が片膝をつく。
これが守護神獣になってもらう際の作法で、世界の通例になっている。相手は神様だからね。
しかし、ルシェリスさんは王様に、立つように促した。
「そういうのは性に合わない。だから、姫と相談して、私達はこれでいこうと決めた」
こう言って彼女は右手を前に。
「皆様が、それでよろしいなら」
戸惑いながらも、アルゼオン王は手を取った。
「ルシェリス様、末永くこのコーネルキアをお守りください」
「了解だ。私の魂に誓う。命が続く限りコーネルキアを守護しよう」
二人は握手を交わし、契約が成立した。
続いてキルテナ、サイゾウさん、アデルネさん達進化形の四人、と順に握手していく。
それからノルエリッドさん達一般【古玖理兎】の番が回ってきた。数をこなしていくにつれ、王様は困惑した表情に。
分かりますよ。所々に色違いのどんぐりカットが混じっていますからね。
最後にモアさんが出てくると、アルゼオン王はついに停止。
隣で補佐をしているジル先生を見た。
「モア様です。誰かに似ていますが、お気になさらず」
「そ、そうか。……モア様、末永くこのコーネルキアをお守りください」
「……頑張ります。魂に誓って、……頑張ります」
小さな私と王様が握手を交わし、コーネルキアに新たに六十六頭の守護神獣が誕生した。
式典が終わると、全員で大広間に移動となった。
テーブルには豪華な料理やデザートが所狭しと並んでいる。
セファリスや他のナンバーズ、騎士達も合流しての歓迎会だ。同時にこれは、レイサリオン王国の救援に向かう者達の壮行会でもある。
ルシェリスさんも同行する二人の弟子を激励してるね。
「【霊狐】となると、お前以上の適任はいないだろう。頼んだよ、アデルネ。モアのこともね。この子は……」
「任せてください。しっかり状況を判断して投入します」
投入……?
やっぱりモアさんは爆弾なのかな。ルシェリスさんが行かせるくらいだから、ひどいことにはならないだろうけど。
師匠の激励が済むと、今度はサイゾウさんがアデルネさんの元へ。
「虎神の頭は【穿槍暁虎】らしいでござるな。同じ上位種として槍を突き合わせたいところでござるが、拙者は一刻も早く殿の元へ馳せ参じねば……」
「気にしなくていいわよ。私がしっかり、サイゾウだと思って退治しておくから」
「拙者に代わって、の間違いでは……?」
「間違えてないわ。サイゾウだと思って退治する。くくくくく」
「……そうでござるか」
毒兎さんが毒を吐いている間に、周囲に魔窟の魔女達が集まっていた。
彼女達は食い入るように鎧姿のサイゾウさんを見つめる。彼の鎧は私達と同じ黒煌合金だけど、デザインがかなり違うね。東方風って言うのかな。
「な! なんでござるか! てれるでござるー!」
いつの間にか隣にユラーナ姫が。
「世界は違ってもあの子達には分かるようね。私の自信作の出来が」
なるほど、あれがサナダユキムラですか。
確かにすでに無双だ。
気付けば、興奮気味にサイゾウさんを眺めるシエナさんの隣には、もう一人の姫君、リズテレス姫が立っていた。
「実は今、特務部隊の創設を考えているのよ。第1と第2はそちらに移行することになりそうだわ。今回の働きによっては、あなた達も特務部隊にしてあげる。悪い話じゃないわよ」
そう言われてもシエナさんはピンとこない様子。
「特務部隊、ですか……? それって、今までの部隊といったい何が違うのでしょう?」
「まず部隊長の裁量権がとても大きいわ。あなたの好きな騎士を、堂々と隊に入れることができる。そして、人数制限も特にないわね。とりあえず五十人規模まで増やしてくれていいわよ」
「好きな子を! そんなにですか!」
「きちんと連携をとれることが前提だけどね。あなた達に期待するのはそこだから」
姫様の話で魔女達は大いに沸いた。
すごい士気の高まり。最高のタイミングでご褒美を提示するとは、さすが抜け目のないリズテレス姫だ。同志達にはこの上ない激励になった。
よし、私も激励しておこう。
モアさんの元へと歩みを進めた。
「モアさん、これを受け取ってくれませんか?」
「ト、トレミナ様、これって……」
私が差し出したのは〈トレミナゲイン〉の技能結晶だった。
本来、神獣は人間の作った技能を嫌がる傾向にある。自分達の神技こそ最強であり、元祖であるという自負を抱いているからだ。
だけど、全ての神獣がそんなこだわりを持っているわけじゃない。守護神獣をやっている者の中には、積極的に魔法などを習得する者もいると聞く。
「この全強化技は、格闘術を主体とする【古玖理兎】には恩恵が大きいはず。きっとモアさんの役に立ちます」
「……嬉しいです。必ず、使いこなせるようになります」
「絶対に無事帰ってきてください。約束ですよ」
「……はい。あの、どうして私にここまで……?」
「だって、あなたは私の妹なんですから」
もうこう言ってしまっていいと思う。同じ容姿のせいか、私は彼女を特別視してしまっている。
目をやると、モアさんは顔を真っ赤にして硬直していた。
……あれ? 激励するはずが固まらせちゃったみたい。
「ふふ、壮行会は大成功ね」
リズテレス姫が満足げに微笑んだ。
こうして、魔窟の魔女達二十六名と、アデルネさん、モアさんがレイサリオン王国への援軍として出発した。
兎キラー、トレミナ。
次話からトレミナに代わってトレモアがお送りします。
大丈夫でしょうか。
私も書いてみないと分かりません。
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