136 メアリア女王との出会い
私はメアリア女王の回顧録をパタンと閉じた。
女王様のこと、よく分かりました……。
私が学園の一年生だった時、彼女は四年生にいたんだ。
さらに同じ寮でも暮らしていた。
魔窟か……、あそこは危険な人達が出入りしているから、近寄っちゃダメって先輩方から言われていたんだよね。
……ただの読書部屋だった。
メアリア女王は私を観察するように、周囲をうろうろ。
「思った通り、トレミナ導師なら全然緊張しない……。むしろ、見ていると心が安らぐ……」
よく言われます。
じろじろと見つめてくる女王様を、お付きの騎士が引き戻した。
「メアリア様、いくら何でも失礼ですよ。国を代表してここにいることをお忘れなく」
この人は確かオージェスさん。
親衛隊の隊長で、女王様の婚約者だ。……婚約破棄されていなければ。
メアリア女王が不満そうな顔をしていると、廊下の向こうから大勢のコーネルキア騎士が。二十人以上はいるだろうか。全員女性みたい。
先頭にいる赤髪の騎士が大きく手を振った。
「お帰りなさい! 同志メアリア!」
「おお、同志達よ……。会いたかったです……」
一瞬で機嫌の直った女王様が駆け寄る。
向かい合うと、一斉に胸の前で拳を作った。
あ、魔窟出身の魔女達だ……。
皆さん、メアリア女王ほど陰気ではないけど、しっとり落ち着いた雰囲気。
回顧録に出てきたシエナさんってやっぱりこのシエナさんだったんだ。私は以前から彼女のことを知っている。
燃える赤髪のシエナ、第3部隊の隊長さんだ。つまり、ランキングはソユネイヤさんに次ぐ十三位ということ。
第3は女性ばかりで構成され、チームワークにもとても定評がある。
今日、その理由が分かったよ。
「シエナさん、同志だけで隊を作りましたね?」
「ト! トレミナさん何を! そんなわけ……、……ジル様には内緒でお願いします」
バレてると思いますけどね。
私がシエナさんと話す合間に、メアリア女王は集団をぐるりと回りこんでいた。
「見たことのない、同志がいる……。というよりこの人、人間……?」
彼女の目の前には、紫色の長い髪の女性が。
「くく、よく見破ったわね。そう、私は人間じゃない。化け物よ、くくくくく」
いや、あなたは【古玖理毒兎】さんですよね。
進化形四頭の内の一頭だ。昨日の今日でなぜもうこのグループに?
シエナさんがため息。
「昨晩、王都からずっと後をつけられ、魔窟にいらしたんです……。仲間に入れてほしいと。アデルネさんと仰るそうです」
「アデルネよ。何だか似た気配がするからついていったら、思いがけず天国に辿り着いたわ、くくくく。本ってすごく面白い。人型になって、そして、この国に来て本当によかった。トレミナ様には感謝してもしきれない、くくくくく」
コーネルキアを気に入っていただけて何よりです。
改めて感知してみるとこのアデルネさん、陰気に加えて邪気のようなものも漂ってる。きっとかなり危険な人(神)だね。
ロサルカさんと気が合いそう。
もちろんメアリア女王とも。
「邪悪な兎神……、望むところ……。同志シエナ、素敵な同志が増えましたね……」
女王様と邪神は同志ポーズ(拳のやつ)を交わした。
一方で、オージェスさんはどこか居心地が悪そうだ。
「オージェスさん、どうしました?」
「……いえ、いつものことなのですが、なかなか慣れなくて」
んー……、ああ、これか。
女性達がちらちらと彼の方を。シエナさんが同志を代表して進み出る。
「目の保養です。皆楽しみにしているのですから我慢してください」
確かにオージェスさんは本の挿絵に出てきそうな騎士だね。全員で押し寄せたのは、そんなわけもあるみたい。
おや、あちらからまた誰かやって来る。
ジル先生と、その横に引っついているのはモアさんだ。……モアさん、すごく泣いてる。
「この子、城の中で迷子になっていたんですよ」
ジル先生が背中に手をやると、モアさんは駆け出して私の方にくっついた。
魔女達から歓声が上がる。
分かりますよ、大小どんぐりが揃いました。
兎神達はしばらくお城に泊まることになっている。
皆さん結構のびのび過ごしているようだよ。町に出掛けていったり、人を尾行してコーネガルデまで行ったり、……お城から出られず迷子になったり。
どんぐりが外れたジル先生は襟を正す。
「メアリア様、こちらにいらしたのですね。リズテレス様がお待ちですよ。そうそう、あの件は了解だそうです。手の空いている騎士なら連れていって構いません」
あの件?
「何かあったんですか?」
メアリア女王はスッと窓辺へ。
どこか遠くを見つめる。
「我が王国は今、滅亡の危機にある……」
またですか。
新展開に突入します。
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