134 剣神に最も近い人間
今なら私にもレゼイユ団長の力が分かる。分かるからこそ、こう言うしかない。
この人は怪物だ。
空気中のマナがパチパチと弾ける音。
これは予兆。
レゼイユ団長は一気に〈全〉の状態に。
シュパッ!
その瞬間、彼女から衝撃波が発生した。
マナを纏うだけでバーストする人間を初めて見たよ。こんな人、他にいるんだろうか。
私の疑問に答えるかのように、リズテレス姫が。
「ルシェリスさん、今から見ることができますよ。おそらく最も剣神に近い人間を」
「ほう、楽しみだ」
この二人は完全に見物客気分だね。ルシェリスさんなんてチキンを食べながらだし。
私の気持ちも考えてほしい。
どうやってこの状況を切り抜けるか、色々と思案中なのに。
団長に向かって〈トレミナキャノン〉を撃てばいいだけ、じゃないんだよね……。
とりあえず、上手く誘導しないと。
凄まじいマナを纏ったレゼイユ団長が、また私に指を突きつけてきた。
「さあ、騎士トレミナ。撃ってきなさい!」
「分かりました。ですが、ちゃんと防御技能を使ってくださいね。あ、先にそちらが準備してしまってください。いくつ防壁を出してもいいですよ」
「何を言っているのです? そんなの使いませんよ。この〈全〉だけで充分!」
「…………、じゃあこんなのはどうです? 私が投げた瞬間に団長がさっと避けるんです」
「ふざけているのですか? 私は受け止めると言っているのです。この〈全〉だけで!」
……無理だ、正直に言うしかない。
「だったら団長、確実に死にます」
草原には心地いい風がサワサワと吹いている。
が、一瞬それが止まった気がした。
……だから言いたくなかったんだよ。
おっとりしている私でも分かる。騎士団最強のレゼイユ団長が本気を出したんだから、これは彼女が軽々と受け止める流れだって。
だけどごめんなさい。
〈トレミナキャノン〉は絶対にあなたを貫通します。
停止した時間を動かしたのは、リズテレス姫の笑い声だった。
「でしょうね。ほぼ神クラスの、それも防御特化型の神獣をたった二発で仕留めた技なんだから。レゼイユさんでも〈全〉だけじゃ無理よ」
ジル先生もこくこくと頷く。
「レゼイユ、防御系は弱いから技能使っても死ぬわね。バカの変態は一度死ななきゃ治らないからちょうどいいけど」
先生、ひどいです。
続け様にダメ出しされたレゼイユ団長はすごく不満そうだ。
不満そうなのがもう一人。まだ光ったままのチェルシャさんが頬を膨らませていた。
ナンバー1とナンバー7、二人の視線が合った。
そして、同時に閃いたような顔に。
……あまり、いい予感がしない。
タタタタッと駆け出したチェルシャさん。
勢いよくレゼイユ団長の背中に飛びつく。
「「合体!」」
チェルシャさんの光霊がレゼイユ団長をも覆い、レゼイユ団長の強力なマナがチェルシャさんをも覆った。
団長は不敵な笑みを浮かべる。
「ぐふふふふ、どうです騎士トレミナ。これが私達の〈合〉です」
この〈合〉は……、全くと言っていいほど相乗効果が発生していない。
1足す1が限りなく2の状態だ。
それでも実力者の二人なので、大変なオーラにはなっている。
「さあ、投げてきなさい。必ずや受け止めてみせます!」
「投げてこい。必ずや(団長が)受け止める!」
どうしよう……。かなり微妙なところではあるんだよね。
皆で相談しよう。
~ 私の精神世界 ~
やっぱりジャガイモ畑は落ち着く。全員揃っていますね。
『マスター、話し合いの前にお伝えしたいことが。私と〈トレミナボール〉さんはこの度、改名、というより命名させていただくことになりました』
なんと。では、お名前を伺いましょう。
まず〈トレミナボール〉さんが進み出る。
『私はトレミナBとお呼びください、マスター』
次に〈トレミナゲイン〉さんが上品にお辞儀。
『私はトレミナGとお呼びください、マスター』
お座りしていた子熊が振り向いた。
『俺はトレミナ熊だ、トレミナ』
あなたは変わってませんよね? 紛らわしいので改めて言わないでください。
それにしてもBさんとGさん、姿を変えたと思ったら次は名前とは。
日に日に自我が成長してる。技能なのに。
私が何度も接触してきたせいかな。外から熊さんが入ってきた影響も大きいのかもしれない。
何にしても頼もしい限りだよ。
さて、じゃあどうするべきか意見を聞かせてください。
トレミナ熊さんがコロンと寝転んだ。
『投げてやればいい。奴らはなめすぎている。この俺の水晶を砕き、致命傷まで与えた技だぞ。少し痛い目を見ればいいのだ』
痛い目じゃ済まない可能性があるから怖いんですよ。
BとGのお二人はどう思います?
トレミナGさんは『ふーむ』と唸りながら王冠の位置を微調整。こだわりますね。
『マスターの仰る通り、非常に微妙なところです。とりあえず、この困ったお二人にそれぞれ〈ガードゲイン〉と私(〈トレミナゲイン〉)を使ってもらっては? 相乗効果はなくとも、単純に四重の強化にはなります。それで即死することはないでしょう』
なるほど、説得してみましょう。
『でしたら、後は私にお任せください』
とトレミナBさんは宙に浮かび上がった。
その体が半透明の球体にすっぽり収まる。球体の中には、同じく半透明の、数値やらグラフやらが記された板が何枚も配置されていた。
それ以外に、小さなボールが二つ。トレミナBさんは一つずつ右手と左手をグニューと入れる。
……その乗り物は何ですか?
『コントロールボールです。〈トレミナボール〉から〈トレミナキャノン〉まで、全てこれで制御できます。軌道の調整や減速、さらに消滅させることも可能ですよ。マスターが示してくださった指針に従い、随時私が対処します。これまでより迅速で細やかな制御ができるようになりました』
素晴らしいじゃないですか。
レゼイユはこれでも騎士団最強です。
次話、もっとおかしなことに。
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