133 困った人達
今回、〈トレミナキャノン〉の実演は開けた場所でやることになった。
王都コーネフィタルを出た私とリズテレス姫、ルシェリスさんは草原を歩いている。
ルシェリスさんは屋台で買ったチキンを食べながらだ。
人型になってしばらく経った頃、彼女は凄まじい空腹に襲われた。生成されたばかりの体は、お腹が空っぽの状態。
なので彼女は今、袋いっぱいのチキンを次々にたいらげている。バキバキと音を立てながら。
「ルシェリスさん、普通人間はチキンの骨は食べません」
「そうなのかい? 普通に食べられるがね。まあこれから色々と教えてくれ、トレミナ」
マナが使えない人は絶対真似しちゃダメなやつだね。骨が喉に刺さるよ。
他の兎神も今頃は一つ一つ学んでいるだろう。
リズテレス姫が進行方向の先を指差した。
「あそこよ、皆もう来ているわね」
草原にぽつんと木が一本あり、その根元に四人の人が。レゼイユ団長、ジル先生、チェルシャさん、ライさんだ。
この顔ぶれに、ルシェリスさんが「ふーむ」と唸った。
「本当にこの国には信じられない人間が集まっている……。トレミナとセファリスもそうだがね」
「やっぱりそうなんですか?」
「私も多くの戦場を見てきたが、おそらくナンバーズというのは十年に一度出会えるかどうかのレベルだ。世に溢れている剣神共がこの騎士団を見たら腰を抜かすよ」
「え、剣神ってそんなに沢山?」
話を聞いていたリズテレス姫がクスクスと笑う。
「私も調査しているけど、ほとんどがコーネルキア騎士団では千位以下の実力よ。本物はまだ見つかっていないわね」
ルシェリスさんはチキンをバキッと齧った。あ、また骨ごといきましたね。
「ふふ、本物はこの国から出すつもりなんだろう? あのレゼイユという女、あれほどのマナを有する人間は私でも見たことがない。マナ特性のある私(本体)より多いのだから、驚きでしかないね」
その団長が一直線にこちらへ走ってくる。
ルシェリスさんの顔をじっと見つめた。
「お前……」
身長百七十センチを超える長身の二人。どこか緊迫した空気が流れる。
「お前……、チキンを骨ごと食べましたね。私と一緒です」
緊迫した空気は私の勘違いだったようだ。
団長に続いて、ジル先生、チェルシャさん、ライさんもやって来た。
今度はジル先生が私の顔をじっと。
「ロサルカから聞きましたが、かなりマナが増えていますね。もう私を抜きそうじゃないですか」
「どうもすみません」
「謝ることではありません。時間の問題なのは分かっていましたから。想定より大分早かっただけのこと。……しかし、今度は〈トレミナキャノン〉ですか」
「はい……、どうもすみません」
ライさんが「僕は楽しみだけどね」と微笑んだ。相変わらずこのお兄さんは綺麗な顔をしている。
「そういえば、今回はリオが迷惑をかけたね。あいつ、朝からどこかに出掛けていったんだけど、トレミナさん知らないかな?」
「姉とゴッドクリスタルの換金に行きましたよ。裏社会見学だそうです」
「あいつ……、次は激辛バーガーにしてやろう」
ふむ、セファリスにも同じのを作ってあげよう。
ん? 背後から視線を感じる。
振り向くと、チェルシャさんがずいっと顔を寄せてきた。こちらは相変わらず美少女だ。
「トレミナ、私の〈エンジェルキャノン〉パクった?」
「名前は参考にしましたが、全くの別物ですよ。私のキャノンは範囲攻撃じゃありません。〈Ⅱ〉を大きくしたものです」
すると、チェルシャさんは背後に跳ぶ。
マナを全開にすると同時に、光に属性変換。
キュィィィィィン!
美少女は全身から強烈な輝きを放っている。……眩しすぎです。
「私に〈トレミナキャノン〉を撃ってこい! 受け止める!」
「絶対に無理なので光を抑えてください」
チェルシャさんも【白王覇狼】と戦った春の頃より、遥かにマナが増えている。加えて、あれだけ光の精霊を纏っていれば、軽減能力も尋常じゃないはず。
たぶん〈トレミナボールⅡ〉なら簡単に止められると思う。だけど、威力百倍以上の〈トレミナキャノン〉は無理だ。
「私だってチェルシャさんのキャノンは受け止められないんですから、互角ですよ、互角」
〈エンジェルキャノン〉は着弾した時点で大きく広がっちゃうからね。私はあのジャガイモ畑の惨劇を忘れない。
上手く言いくるめられるかと思ったけど、彼女はまだ納得いかない様子。
「だったら私の出番のようですね」
とレゼイユ団長が私の前へ。ビシッと指を突きつけてきた。
「私に〈トレミナキャノン〉を撃ってきなさい! 受け止めます!」
……ああ、やっぱり面倒なことになってきた。
やり取りを見守っていたルシェリスさんがポツリと。
「ナンバーズとは、自由な連中だな」
「はい、困った人達なんです……」
次話、レゼイユが本気を出します。
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