132 どんぐり特性
推定年齢七歳の私はルシェリスさんとノルエリッドさんに挟まれていた。
「いいかい、モア。いくらその人が好きでも、そっくり同じ姿になっちゃいけないんだ」
「そうであります。ご本人にご迷惑をお掛けすることになるでありますよ。ですので皆、髪型を真似する程度に抑えているのであります」
そんな配慮を。やっぱり皆さん、中身は大人ですね。
師匠と姉弟子に揃って叱られたモアさんは目に涙を浮かべる。
「ご、ごめんなさい……。私、ご迷惑をお掛けする、つもりなんて……」
彼女はどうやら気の弱い性格らしい。小刻みに震えて、今にも倒れてしまいそうだ。
ちょっと可哀想だな。
何より、自分が怒られてるようでいたたまれない……。
私は小さな私の肩に手をやった。
「作ってしまったもの(人型)は仕方ありませんよ。悪意がないのは分かりましたし、許してあげてください。まだこんなに幼いんですから」
ノルエリッドさんは言いにくそうに頭をかきかき。
「モアはこれでも二十二歳であります……。若輩ではありますが、もう立派な成獣でありますよ……」
え、最年少って言うからこの子だけ本当に子供なのかと。
私より十歳も上とは。やっぱり皆さん、もれなく大人だ。
だけど、庇ってしまったものは仕方ない。
「この小ささなら私と見分けもつきますし、もういいですよ」
「トレミナ様……」
モアさんはまた涙目で、いや、潤んだ瞳で私を見つめる。
なんていたいけな。むしろこっちの体の方が、精神と一致しているんじゃないだろうか。
ああ、だからこの七歳児の姿になったのか。
そうだ、一つ言っておかなきゃならないことがあった。
私は人差し指を立て、「ただし」と。
モアさんは緊張した様子で息をのむ。
「皆からどんぐりと呼ばれることは覚悟しておいてください」
「……あ、はい」
話が決着を見たところで、サイゾウさんが一歩前へ。
待ってくれていたみたい。何でしょう?
「人型にもなれたので、拙者、すぐにでも殿の元へ馳せ参じたいのでござるが……。その前に、どうしても欲しい物があるでござるよ」
「いったい何ですか?」
「槍でござる」
「槍、ですか? 突っつくあの?」
「そう、突っつくその、槍でござる」
そういえば、彼は【穿槍暁兎】だった。
武士と呼ばれる東方の戦士が、槍を持ってる絵を見たことがある。あれになりたいんだね。武士に憧れるとは変わった兎神だ。
「見て! 本当に武士がいるわ! 用意した着物をちゃんと着てくれてる!」
興奮気味にユラーナ姫が駆けてくる。
その後ろからはリズテレス姫も。彼女は人型になった兎神達をさっと見回した。
「どうやら無事に済んだようね。トレミナさん、お疲れ様」
「滞りなく進んだので大変ではありませんでした。あ、姫様にご紹介しますね。こちらがルシェリスさんです」
向かい合ったリズテレス姫とルシェリスさん。
ほんの一瞬ではあるが、互いのマナを探り合う。
それから二人同時に笑みを浮かべた。
「正式なご挨拶は式典の折に。お会いできて光栄です、ルシェリスさん。お聞きしていた通り、洗練されたマナをお持ちですね」
「リズテレス姫もな。ああ、話し方はこれでいかせてもらうよ。礼儀作法なんかは性に合わない」
「構いません。私も本来ならルシェリス様とお呼びしなければならないのですから。世界的に見ればコーネルキアは相当風変わりな国ですので、きっと気に入っていただけると思います」
「そのようだ。じゃあ、姫と手合わせできたりするかい?」
「ええ、喜んで。ぜひ一戦」
二人はもう一度笑い合った。
よかった、何だか気が合いそうで。
ユラーナ姫の方もサイゾウさんと話が盛り上がっている様子。ちょっと意外な感じだ。
弾けんばかりの笑顔でユラーナ姫が振り向く。
「この人! 槍が欲しいって言うから魔導研究所に連れていくわ! ついでに鎧も発注しましょ!」
「おお! お願いするでござる!」
「あなたを真田幸村にしてあげる! 無双の武将よ!」
「無双! 強そうでござるなー!」
意気揚々とユラーナ姫とサイゾウさんは走っていった。
私はリズテレス姫をちらり。
「サナダユキムラとは誰ですか?」
「私達の世界の、歴史上の人物よ。でも、ユラが言っているのはゲームのキャラね」
よく分かりませんが、ソユ姉やん、間もなくサナダユキムラがそっちに行きますよ。
私達が喋っている間に、広場は段々騒がしくなってきた。
五万人もの住民がいるので元々騒がしくはあるんだけど、一層賑やかに。広場のあちこちに露店ができ始めている。
リズテレス姫もそれらを眺めながら。
「始まったわね。キルテナさん、ちょっと」
「何だ?」
「これで兎神さん達と楽しんでくるといいわ」
キルテナにポンポンと札束を二つ手渡した。
王都では今日から一週間、お祝いのお祭が開催される。国土が五割増しになるし、守護神獣も激増するので祝わないわけにはいかない、らしいよ。
人型の儀式はお祭のオープニングセレモニーでもあった。そして、このお祭は兎神達をもてなす意味合いもあるようだ。人間との生活に慣れてもらいつつ、思う存分楽しんでもらおうという。特に食べ物ね。キルテナじゃなくても、人間の料理に興味がある神獣は多いみたい。
ノルエリッドさん、モアさん始め、もう全員が屋台から漂ってくる香ばしい匂いに我慢できない様子。懇願するような眼差しをルシェリスさんに。
「いいよ、行っておいで」
この一言で一斉に沸いた。
「私についてこい! 食いたいのあったら遠慮せず言えよー!」
キルテナに率いられて子供達は大移動を開始。どの子もすごくはしゃいじゃって、とても嬉しそう。……立派な成獣の集団には全然見えないけど。
彼らを見送ったのち、リズテレス姫が「さて」と。
「私達も行きましょうか。トレミナさん、大丈夫?」
「はい、コンディションは問題ありません。ちゃんと撃てますよ」
私は今から〈トレミナキャノン〉の実演をする。
姫様だけじゃなく、ナンバーズも何人か来るようだ。実演するだけで済めばいいんだけど……。面倒なことになりそうな気がしてならない。
とりあえず、こっちはキルテナに任せておいて大丈夫だろう。
「トレモア! お前の豚串だけどうして二つも肉が多いんだ!」
「ご、ごめんなさい……」
「これがどんぐりの特性かー! ちくしょう! 私もどんぐりになればよかった!」
あまり、大丈夫じゃないかも。
どんぐり特性・・・・買い物でおまけがもらえる。
トレミナがよく買うフライドポテトもいつも少し多めです。
ちなみサイゾウの由来は可児才蔵です。(戦国時代の槍の名手)
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