128 月明かりの晩餐会
王都コーネフィタルに到着した私達は、まずアルゼオン王に今回の報告をした。
彼は私達の労をねぎらった後、さらに詳しい話を聞きたがった。
が、あえなく側近達に連れ去られる。
国土が五割増しになるということはやはり大変なことのようだ。
どうやらこのコーネルキアは行政部門を主にアルゼオン王が、軍事部門を主にリズテレス姫が担っているらしい。
国王がいなくなった謁見の間に、リズテレス姫がゆったりした足取りで歩いてくる。
「お疲れ様、トレミナさん。報告はメルーダさんから上がってきているけど、あなたの口から詳しく聞かせてちょうだい。特に、〈トレミナキャノン〉、精神通話能力、ルシェリスさん、についてね。まずはお茶でもしながら。来賓用の食事を作ってもらっているから、その後は夕食を一緒にとりましょ」
「では、私はジル様の所に。皆さんはごゆっくりどうぞ。トレミナ代表、ご一緒できて楽しかったです。〈トレミナボールⅡ〉に続き、〈トレミナキャノン〉誕生の瞬間に立ち合えた私は本当に幸運でした」
そう言ってロサルカさんは帰っていった。
お世話になりました、暗黒お姉さん。
私とセファリス、キルテナは、いつものテラスで姫様とお茶を飲むことに。高貴な雰囲気が苦手なセファリスは、ずっと緊張しっぱなしだった。
「と、と、とても美味しい、お紅茶です……!」
お姉ちゃん、それは緑茶だよ。
一方のキルテナはのびのびしたものだ。
「姫! 【煌帝滅竜】に進化した私が見たいか! 見たいだろ!」
「はいはい、明日じっくり見させてもらうから。ここで竜化すればお城が壊れちゃうでしょ」
この二人はいつの間にこんなに仲良くなったんだろう。春頃はあんなに殺伐としていたのに。
やや声を弾ませながらリズテレス姫は私にも話を振ってくる。
「そうだわ、トレミナさんの誕生日プレゼントなんだけど、もう少し待ってくれるかしら。準備に時間が掛かっていてね」
「お気になさらず。いつでも構いませんから」
……準備に時間が掛かるものって何だろう。知るのがちょっと怖い気がする。
ここでキルテナがウザゴンぶりを発揮。
「私ももうすぐ誕生日なんだ。姫ー、私にも何かくれよー。何かくれよー」
「……ウザいわね。分かったわ、用意してあげるからウザゴンになるのはやめて」
「やったー! ってウザゴンってなんだー!」
まったくキルテナは。相手はこの国の実質的最高権力者リズテレス姫なんだから、少しは礼儀ってものを……。
姫様も姫様だよ。親密にウザゴンなんて言っちゃって。
あれ……? 私、何だか面白くないって思ってる?
すると、セファリスが緊張したまま引きつった笑顔で。
「ふ、ふふ、おっとりやきもちかしら?」
え……、私がやきもち……?
考えようとしたその時、二人の人物がこちらへ歩いてくるのが見えた。
ユラーナ姫と人型のユウタロウさんだ。
「リズも生まれ変わってちょっとは人間らしくなったようね」
腕組みしながらユラーナ姫。次いで、ユウタロウさんが柔らかな微笑みを浮かべる。
「夕食の支度が整ったみたいだよ。僕達も同席させてもらうね、トレミナさん」
「はい、どうぞ。と私が言うのも変ですが」
というわけで、場所は変わって晩餐会に。
リズテレス姫、ユラーナ姫、ユウタロウさん、それから私達遠征組、六人が囲むテーブルには来賓用のごちそうが並んでいる。見た目にも美しい料理の数々。
もうセファリスの緊張はピークに達しそうだ。
「と、と、とても美味しい、おイモです……!」
お姉ちゃん、それはズッキーニだよ。
もちろんキルテナはここでも遠慮がない。ナイフは使わず、フォークでガシガシ突き刺してかぶりつく。
「綺麗だけど食いづらいな。味もトレミナの料理の方が上だ」
まったくキルテナは。せっかく用意してもらったんだから、そんなこと言っちゃ失礼だよ。まったくもう。
あれ……? 私、何だか嬉しいって思ってる?
~ 私の精神世界 ~
ジャガイモ畑の真ん中にテーブルが置かれ、現実世界で私達が食べているのと同じごちそうが並んでいる。
時間帯も同じく夜に設定。
月明かりの中、晩餐会が催されていた。キャンドルなんかも立てて、とてもいい雰囲気だ。
『確かに、残念ながらマスターのお料理には敵いませんね』
そう言ったのはボールを頭に乗せた私、〈トレミナボール〉さんだ。
彼女ともう一人、王様な私、〈トレミナゲイン〉さんと二人で向かい合って座っていた。
トレミナ熊さんは……、あ、テーブルの上に乗っちゃってるね。まあサイズ的に仕方ない。
『だが、こちらもかなりうまいぞ。やはり人間の作るものはうまい。この大きさなら食べ放題だ!』
聞いていた〈トレミナゲイン〉さんがため息を一つ。
『というより、この世界では何でも食べ放題ですよ……。それにしても、場は〈トレミナボール〉さんのキャノンの話題で持ち切りですね』
『当然だ、何しろこの俺を屠った技だからな』
と小熊が視線をやると、〈トレミナボール〉さんはスッと席を立った。夜空の月を見上げる。
『私も早く皆さんにキャノンをご披露したいです』
あ、私への催促でしたか。
トレミナの精神世界は結構快適なようです。
評価、ブックマーク、いいね、感想、誤字報告、本当に有難うございます。