127 初任務完遂
昼前、セドルドにコーネルキア騎士団五十部隊が到着した。
総勢四百六十一名。もちろん全員がマナを使える、錬気法の熟練者である。彼らはこれから一か月ほど掛けて、南方域の野良神を掃討する。
全体の指揮を執るのは……。
「では、私はこのまま指揮に当たります。トレミナさん、お疲れ様でした。今回、あなたとご一緒できたことを誇りに思います」
メルーダさんが第1部隊を率いてやって来ていた。
彼女はリズテレス姫から随時送られてくる指示をここで実行する。つまりは、現地入り騎士達のトップ。
ちゃんとした役職をもらった方がいいんじゃないですか?
「その辺りは姫様にお考えがあるようです。まあ、今回の私の働き次第でしょう」
「なるほど、頑張ってください。私達だけ先に帰っちゃってすみません」
「トレミナさんはもう充分な働きをしましたよ。ナンバーズとはそういうものですし、あなたはまだ学生でもあります」
「そうでした、勉強しないと」
「勉強以外にも、やることは沢山あると思います。さあ行きますよ、隊長」
意味深な言葉を残し、メルーダさんは次なる仕事に取り掛かった。
代わって姉のセルーザさんが。
「私達も出発しますね。今回は本当に楽しい任務でした」
でしょうね。バカンスで兎達と戯れ、ビッグすき焼きをお腹いっぱい食べ、お祭を満喫してましたもんね。
だけど、そんな第2部隊の皆さんにもこれから真面目な任務が待っている。
聖職者のような服に着替えたソユネイヤさんが歩きにくそうにこちらへ。
「朝からしぐれ煮を作ってもらい、すまなかったのう。おかげでどうにかやっていけそうじゃ」
「また定期的に作って送りますから。多くの人を助けてあげてください」
約一か月間、ソユネイヤさんは聖女として各地の町や村を巡り、病人や怪我人の治療をして回る。
これもリズテレス姫の発案らしい。人々は聖女様にこの上なく感謝するだろうし、彼女を派遣してくれたコーネルキアという国もすんなり受け入れるだろう。まったく、抜け目のない姫様だ……。
「儂本来の願いとも合致しておる。問題なしじゃ。熊神を討伐したトレミナちゃん達の功績もしっかり伝えるからの」
「それは別にいいです……」
「サイゾウには一か月おとなしく待っておくよう言ってくれ」
「あの人(兎)、たぶんすぐに追いかけていきますよ」
ルシェリスさん達は明日渓谷を出発するそうだ。
そのまま直接王都へと向かってもらい、まずは人型獲得の儀式を行う。それから守護神獣になる契約を結ぶ流れだね。
確かに、私にもやることは沢山あった。
兎神達がコーネルキアに馴染めるように気を配らなきゃ。あとルシェリスさんはお母さん達にも会いたいと言っていたし。
「じゃあ帰ろうか。キルテナ、お願い」
「任せろ! 新たな私に乗せてやろう!」
町を出るやダダダダッと駆けていくキルテナ。すぐに体長七十メートルの黄金竜に戻った。
私とセファリス、ロサルカさんが背に飛び乗ると、翼を羽ばたかせ……、ようとして止める。ドラゴンはこちらをちらり。次いで、町の方に視線をやった。
振り向くと、セドルドから続々と人が出て来ていた。
外壁の前にどんどん人が増えていく。ケイトさんとケイアンさんの親子。さっきまで酔い潰れて寝ていた人達もふらつく足取りで。
これ、もしかしたら全住民いるんじゃないかな。
人々は頭を下げたり、祈るような仕草をしたり様々だ。
セファリスが興奮気味に。
「これこそまさに英雄だわ!」
ロサルカさんも微笑みながら頷く。
「ええ、あの人達にとって私達は英雄に他なりません。地獄の日々から解放してくれた救いの神、と言ってもいいでしょう。かつてのユウタロウ様のように」
ユウタロウさんのように……。
そうだった、私は彼のように危険地帯で暮らす人達を助けたいと思ってこの任務に……。
私の心を覗いたように、ロサルカさんは言葉をつなぐ。
「今回の任務、完遂と言ってよろしいのでは?」
「はい、いいと思います」
私、しっかり初任務を終えることができたみたい。
『少しだけこの後のことを書いておこうかな。
まず、第1と第2の部隊は、その功績から特務部隊への移行が決まった。所属する騎士達はランキングから外れ、給料も特別待遇になる。
第1はリズテレス姫直下の親衛部隊となり、戦争では指揮系統の中枢を担う部隊に。
隊長はメルーダさんで、副隊長にはナディックさんが就任。下剋上されちゃってるけど、あるべき形に落ち着いた感じだ。
名称は変わってもやっぱり大変な部隊だよ。親衛部隊というだけあって、いざとなったらあの姫様においていかれないように戦わなきゃならないからね……。
そして、第2は正式に治癒部隊という名になった。
〈癒〉の得意な騎士達が配属された、ソユネイヤさんをトップとする治療専門部隊だ。セルーザさんは〈癒〉使い達を警護する守備隊の隊長になったよ。
治癒部隊はのちの世界大戦で数々の奇跡を起こすことになる。
この南方遠征を機に発足した親衛部隊と治癒部隊は、年を追うごとに規模を拡大。ナンバーズ、守護神獣と並ぶコーネルキアの主力へと成長していく。
それから、セドルドのその後についても触れておくね。
安全になった町は外壁を取り払い、観光都市への道を歩んでいく。
あの辺りってやっぱり水がすごく綺麗なんだよ。水は最も基本の食材と言われるだけあって、食べ物が全般的に美味しい。
特にケイアン豆腐店は大人気で、他の町にも支店を出すほどだ。あ、ケイトさんも豆腐店の看板娘として現役バリバリだよ。
度々足を運んでいるチェルシャさんによれば、その豆腐を使ったすき焼きが絶品で、一番の名物になっているらしい。それを食べて、ルシェリス渓谷を巡るツアーに参加するのが定番なんだとか。
とても懐かしいし、私もまた行きたいんだけど、なかなかね……。歓迎ぶりが熱烈すぎるというか……。とにかく絶対に八月のトレミナ祭の時期は避けないと。
最後に脱線したけど、私の初任務、南方遠征の話はこれでおしまい。
今になって振り返れば、この時に私の心は決まったんだと思う。
無法地帯だろうが戦場だろうが、私のやるべきことは変わらないんだ。抗う術なく危険な目に遭っている人達がいるなら、何とか助けてあげたい。
剣神(兼ジャガイモ農家)
トレミナ・トレイミーの回顧録』
ドラグセンとの戦争までが国内編。その後が世界編になりそうです。
つまり、まだ当分は国内編です。
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