表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
126/212

126 伝承計画

 朝から私は肉を焼いている。

 毎日少しずつ食べると約束してしまったので食べるしかない。

 もちろん肉だけじゃないよ。

 下茹でしたジャガイモをフライパンへ。肉の隣で焼いていく。

 朝食だし、味付けはハーブ塩にしようかな。あとは目玉焼きでもあればいいね。

 と献立を考えていると、騒々しい足音。

 彼女が帰ってきたようだ。


「ただいまー! 腹へったー! お、ちょうど稀少肉焼いてんじゃん」


 キルテナは早速フォークを握る。

 まず手を洗って。


「よし洗った。いっただきまーす!」


 勢いよくハーブ焼きを口に運ぶも、首を傾げるキルテナ。ジャガイモにフォークを突き刺し、パクリ。それからもう一度肉を食べた。


「ちゃんとイモを食べたのにマナが増えない!」

「そういうルールじゃないから」


 すると内部のトレミナ熊さんが吠えた。


『竜族に俺の魂はやらん!』


 竜族じゃなくても、でしょ。

 キルテナは頑張り屋でいい子ですよ。私の記憶から情報を取り寄せてください。


『む、トレミナがそう言うなら後で見ておく』


 冷却箱を開けた私は、一キロ弱の肉の塊を取り出す。


「キルテナにはこっちを調理してあげる。【災禍怨熊】の稀少肉だよ。これ全部、キルテナの分だから」

「それ全部! マジか! 早く焼いてくれ!」


 こちらは薄切りにして鍋へ。

 せっかくだからすき焼き風にしてあげるよ。焼き豆腐も残っているしね。

 鍋がぐつぐつと煮え出した頃、またトレミナ熊さんがポツリと。


『こいつの名前はゴーザムだ。俺の弟分で、兎神との決戦に備えて呼び戻したのだが、どうやらどさくさに紛れて俺の首を取るつもりだったらしい……』


 ボスの座を狙っていたんですね。ひどい弟分だ。


『昔はあんな奴じゃなかった……。兄貴兄貴と俺の後ろをついてきて……。すさみ始めたのは【猛源毒熊】に進化した辺りからだ。【災禍怨熊】になるとついに殺意まで抱くように……』


 子熊がため息をつくのが伝わってきた。

 彼も生前は色々と大変だったみたい。あれほどの群れを率いていたんだから、色々あって当然か。


 それにしても、ひどい弟分の名前は覚えているのに、自分のは思い出せないんですか?


『お! 思い出せん! 全く思い出せんっ! ……さあて、俺はジャガイモ畑で昼寝でもするかな』


 まあ、いいですけどね。ごゆっくりどうぞ。


 その後、セファリスが起きてきて、ロサルカさんがお祭から帰ってくる(一晩中お酒を飲んでいたらしい)と、四人で朝食を囲んだ。

 済むと帰り支度にかかる。

 そう、私達は任務を終え、今日コーネルキアに帰還するんだよ。

 早い内にセドルドの皆さんにご挨拶しておいた方がいいかも。

 と外に出た私の目に、衝撃の光景が飛びこんできた。


 道端に倒れる住民達。

 それも一人や二人じゃなく、かなりの数だ。

 まさに死屍累々。


 間違いない、これは全員……、

 酔い潰れてる。すごく酒臭い。

 皆さん、夏だからって道で寝てると風邪ひきますよ。

 よほどの酒豪か鍛え抜かれた体でもない限り(ロサルカさんはおそらく両方)は、一晩中飲み続けるとまあこうなるよね。


 広場を見回していると、まだ一人だけ屋台で飲んでいる人を発見。

 ケイトさんだ。ここにも鍛え抜かれた酒豪が。


「お元気ですね、朝から冷たいビールですか。他の方は死屍累々だというのに」

「こんな死屍累々なら大歓迎じゃよ。冷たいビールなんぞ皆久々じゃからな、ちとはじけすぎたようじゃ」


 商業国家コーネルキアの主力商品はお酒。なので、今回の支援物資の中には、大型冷却箱で冷やされた大量のビールも入っていた。

 お婆さんはグイッとビールをあおった。


「もしトレミナちゃん達が来てくれんかったら、全員熊神に食い殺され、本当の死屍累々になっておったかもしれん」

「そう、ですよね」


 ジャガイモ畑で寝ていたトレミナ熊さんが、少しだけ頭を起こした。


『神獣と人とはそういうものだ。……と、俺はずっと思っていた。お前の中に入るまではな』


 それだけ言うと子熊は体を丸め、本格的な眠りに。

 わざわざ言わなくても、彼は私の記憶から様々な情報を取り寄せているようだ。


 気付けば、ケイトさんが私に向かって頭を下げていた。


「トレミナちゃんに謝らにゃならん。息子だけでなく、儂も思っておったんじゃ。確かに怪物ではあるが、こんな子供で本当に大丈夫か、と」

「頭を上げてください。それが普通ですよ」

「じゃが、トレミナちゃんは最高の結果をもたらしてくれた。ほんに、感謝してもしきれん。老い先短い命じゃが、残りの人生、その功績を後世へと伝えることに全力を尽くすぞい」


 と彼女はもう一度ビールをグイッと。


 ケイトさん、たぶんあと何十年も大丈夫ですよ。

 それからお願いですので、その伝承計画に全力を尽くすのはやめてください。

南方遠征編、次話で完結です。

今回で終わるかと思ったらちょっと無理でした。

結構長めのシリーズだったので、やはりきちんと丁寧に締めることにしました。

次は久々に回顧録も。

実は、回顧録、使うか使わないかずっと迷っていまして。

原稿を仕上げる中で使おうと決めましたので、これからたまに出していきます。

避けてた分、どこか間に挿まないといけない感じです。


評価、ブックマーク、いいね、感想、誤字報告、本当に有難うございます。

それにしても、ジャガイモに熊……。何だか北海道色が強くなってきましたね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。





書籍化しました。なろう版へはこちらから。
↓をクリックで入れます。




陰キャ令嬢が沼の魔女に。

社交界で沼の魔女と呼ばれていた貴族令嬢、魔法留学して実際に沼の魔女になる。~私が帰国しないと王国が滅ぶそうです~








強化人間になってしまった聖女のお話です。
↓をクリックで入れます。




腕力で世界を救います。

強化聖女~あの聖女の魔力には武神が宿っている~








こちらも連載中の小説です。書籍化します。
↓をクリックで入れます。




事故で戦場に転送されたメイドが終末戦争に臨みます。

MAIDes/メイデス ~メイド、地獄の戦場に転送される。固有のゴミ収集魔法で最弱クラスのまま人類最強に。~




書籍 コミック


3hbl4jtqk1radwerd2o1iv1930e9_1c49_dw_kf_cj5r.jpg

hdn2dc7agmoaltl6jtxqjvgo5bba_f_dw_kf_blov.jpg

1x9l7pylfp8abnr676xnsfwlsw0_4y2_dw_kf_a08x.jpg

9gvqm8mmf2o1a9jkfvge621c81ug_26y_dw_jr_aen2.jpg

m7nn92h5f8ebi052oe6mh034sb_yvi_dw_jr_8o7n.jpg


↓をクリックでコミック試し読みページへ。


go8xdshiij1ma0s9l67s9qfxdyan_e5q_dw_dw_8i5g.jpg



以下、ジャガ剣関連の小説です。

コルルカが主人公です。
↓をクリックで入れます。




コルルカの奮闘を描いた物語。

身長141センチで成長が止まった私、騎士として生きるために防御特化型になってみた。




トレミナのお母さんが主人公です。
↓をクリックで入れます。




トレミナのルーツを描いた物語。

婚約破棄された没落貴族の私が、元婚約者にざまぁみろと言って、王国滅亡の危機を逃れ、ごくありふれた幸せを手に入れるまで。



― 新着の感想 ―
[一言] 悪意のない、宣伝こそいろいろ尾ひれがつくんだろうな~
[一言] 熊神…名前が物騒ですよね(笑) 北海道なら馬も出さないとですね!
[良い点] ジャガイモ畑でお昼寝する子熊ってめっっっちゃ可愛いだろうなぁ… 前回の感想で触れた回顧録、楽しみにしてます! [一言] 道端に倒れる人々のくだり、『!?!?』ってなりましたよ! …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ