122 第1部隊と第2部隊
黄金の巨竜、キルテナは周囲を黒兎達に囲まれていた。
ジリジリと狭まる包囲網。
ジリジリ……、ジリジリ……。
その時、タイミングを合わせたように兎達が一斉に駆け出した。
もふもふもふもふもふ――!
我先にと体をすり寄せる【古玖理兎】。
もふられまくるキルテナ。
なんて羨ましい……。
で、なぜこのような状況に?
呆れ気味に様子を見守るルシェリスさんに視線を送った。
『弟子達はキルテナを気に入ったようだ。竜族だが気概のある奴だと』
らしいよ、キルテナ。
『べ、別に嬉しくない! 兎神に好かれたって……、なはは、よせよお前ら。くすぐったいだろー』
すごく嬉しそうだね。
これから同僚になるわけだし、仲良くなってよかったよ。
さて、色々と円満に解決したところで、急いでセドルドの町に戻らなきゃ。
……ソユネイヤさんが疲労困憊だ。
サイゾウさんの背中では、マナを使い果たした聖女がぐったり横たわっていた。
『殿……、申し訳ないでござる……。拙者の怪我を治したばかりに……』
『気にするでない。そなたのせいではないのじゃ。……主にあのどでかい竜のせいじゃ』
とりあえず、私達人間は一度帰還することに。
キルテナはこのまま渓谷に留まると言った。
『私は師匠にもっと稽古つけてもらうよ。強くなるにはそれが一番の近道だ。あ! 私の分の肉、残しておいてくれよ!』
どうやらルシェリスさんに弟子入りしたみたいだ。
さっきまであんなに対抗心を燃やしていたのに。
「結局、あいつは神獣の仲間が増えて嬉しいのよ。コーネルキアに来てからずっと一頭だったから」
とセファリスが温かな眼差しでキルテナを見つめる。
なるほど、さすがキルテナのことはよく分かるお姉ちゃん。
それでも、神獣同士でないと分からないこともあるのかもしれない。私達は退散するとしよう。
お昼少し前、私とセファリス、第二部隊の騎士達は渓谷を後にした。
セドルドに着くと、まず遠征隊の皆やケイトさん達に報告。
これまで何かと助けてくれた兎神達が正式に守護神獣になるとあって、町の皆さんは大喜びだった。昨日の熊神討伐に続けての吉報に、とうとう祭が始まった。
遠征隊の任務もこれで完了。
全員で熊神の稀少肉をいただくよ。
再び自警団本部の広間をお借りして、互いの労をねぎらい合う。
……はずが、場は険悪なムードに包まれていた。
第1部隊と第2部隊が左右両側に分かれてバチバチと。
ナディックさんは納得いかない様子で腕組み。
「どうして俺らが必死で倒した熊神の肉を第2と分け合うんだよ。そっちは人に優しい兎神と戯れてただけでしょ」
言われてみればそうだ。第2部隊の人達は鎧まで脱いでとても楽しそうだった。
壁際に整然と並ぶ彼らは、非難されても誰一人動じない。
この騎士達も、第1と同じで全員が隊長クラスの実力者なんだよね。でも、部隊の雰囲気は全く違う。第1がいかにも精鋭騎士という感じなのに対し、第2は厳かな神殿騎士という感じ。
部隊内でしっかり規律なんかも定めてそうだね。
と思いつつ眺めていると、中でも特にきっちりした着こなしの女性が一歩前へ。
「確かに、兎神の拠点があまりにもパラダイスだったため、私達もついバカンスを満喫してしまいました」
あ、規律は結構緩そうだ。
彼女は「しかし」と言葉を続ける。
「私達は華々しい成果を上げましたよ。兎神の一団を丸々コーネルキアの守護神獣にできたのですから」
「それはトレミナちゃんと聖女ちゃんの功績じゃん!」
「ソユネイヤ様と私達は一つです。私達はソユネイヤ様の手足となって動き、お守りするためにいるのですから。そちらこそ上位の熊神を討伐したのはトレミナさん達でしょう? 知っていますよ」
ナディックさんが言葉に詰まると、代わってメルーダさんが。
「セルーザ、もうその辺で」
ここでセファリスが、メルーダさんとセルーザさん二人をきょろきょろと見比べる。
「同じ顔だわっ!」
そりゃそうだよ。双子だもん。
第2部隊の副隊長、セルーザさんはメルーダさんの双子の姉になる。どちらもきっちりした性格で、本当によく似た姉妹だと評判だ。
「失礼ですね、トレミナさん。私はメルーダと違って変な男には」
「セルーザ!」
メルーダさんは慌てて姉の口を手で覆う。
しかし、その手は払いのけられた。
セルーザさんはナディックさんにビシッと指を突きつける。
「私達姉妹の未来のため、あなたはいつか私が始末します」
「えー……、俺が何をしたんだよ……」
これを聞いていたロサルカさんが同意するように頷く。
「そもそも今から食べるのは【水晶輝熊】と【災禍怨熊】の稀少肉ですよ。第1部隊もノータッチでしょう。このクズ男、細かいことを言っていると今すぐ私が始末しますよ」
「えー……」
……皆さん、仲良くしてください。
だけど大丈夫。
何と言っても、本日の料理はあれだからね。
注目を集めるべく、私はポンポンと手を叩いた。
「今日はすき焼きです」
一瞬の間ののち、静かに全員が席に座った。
この世界でもすき焼きはごちそうです。
美味しいすき焼きの作り方を調べないと。
評価、ブックマーク、いいね、感想、誤字報告、本当に有難うございます。