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120 武の境地

 ……ルシェリスさんの雰囲気が変わった。

 纏っているマナがピリッとした感じだ。きっと本気になったんだと思う。

 キルテナ、気を付けて。


 向かい合う【黒天星兎】と【煌帝滅竜】。二頭の間で火花が散る。

 先に動いたのは黄金竜の方だった。

 キルテナが〈雷の息〉を発射。

 これに対して、ルシェリスさんは右前脚を前に。

 直撃の瞬間、横に少し動かすと電磁砲はぐにゃりと曲がった。

 逸れた雷は虚空へと。


 マナでこんなことができるなんて……。

 一瞬だったからよく分からなかったけど、今のはたぶんマナの流れで〈雷の息〉を別方向に誘導したんだ。

 真似するようにセファリスが右手をクイックイッと。

 お姉ちゃん、あれは簡単にできる技じゃないよ。

 相手の神技の威力、速度を完全に把握していないとできない。それに加えて、タイミングもすごく重要。

 私、キルテナは学習能力が高いって言ったけど、ルシェリスさんはそんなレベルじゃなかった。……一回見ただけで、キルテナの〈雷の息〉を見切っちゃったんだから。

 ルシェリスさんの戦闘技術は想像よりずっと上だ。


『さすがトレミナ殿、師匠のすごさが分かったようでござるな』


 サイゾウさんが私の所までやってきていた。

 彼は誘うように首を振る。こちらの誘導も抗えるレベルじゃない。

 長い角の生えたその頭に乗った。

 他の黒兎達と違い、鮮やかな夕焼けのような毛色。だけど、上質な毛の感触は変わらない。これって【古玖理兎】族の出身だからかな?

 おっと、もふもふに心を奪われてる場合じゃなかった。


『サイゾウさんが大陸を横断してまで弟子入りした神獣なだけありますね』

『でござる。師匠は武の境地の一歩手前まで来ていると【古玖理兎】界ではもっぱらの噂。仲間達の話によると師匠はもういつでも最終進化できるそうでござる。まだ自分はそこに至るべきではないと考えておられるようでござるな』


 ……なんて己に厳しいんだ。

 リズテレス姫、すごい兎が守護神獣になってくれましたよ。


 〈雷の息〉を逸らされたキルテナはしばらく警戒するように躊躇っていたが、やがて意を決して飛びかかった。

 燃え盛る〈火の爪〉を振り下ろす。

 ルシェリスさんは防御するどころか、さらに踏みこんだ。

 シュッと軽く竜の前脚を小突く。


 カクン。ドォ――ンッ!


 軌道を歪められた〈火の爪〉は大地を削ったのみ。

 カウンターで撃たれたルシェリスさんの拳が、キルテナの顔面にクリーンヒットした。


 バッキ――――ッ!


「ガァ……、グゥッ!」


 黄金竜は数歩後ずさるも、すぐに体勢を立て直す。さりげなく尻尾を地面につけた。

 同時に黒兎はサッと横に回避。

 すると、今いた場所に巨大な石の杭が。


 ルシェリスさん、マナからキルテナの狙いを読み取った。経験感知も相当な熟練度だ。

 彼女の戦い方は見ていて勉強になるね。次はどうするんだろう?


 期待と共に見つめていると、ルシェリスさんは出現した石塔に回し蹴り。

 砕けた無数の破片がキルテナに向かって飛んでいく。

 それらを追ってルシェリスさん自身も駆けた。

 石つぶてにひるんだキルテナに怒涛の連打。


 ドガガガガガガガガガガッッ!


 突いては蹴り、蹴っては突き。

 相手の反撃は軽々いなして完全に封じる。

 また蹴っては突き、突いては蹴り。


 ドガガガガガガガガガガッッ!


 火を吹きそうな連続攻撃だ。

 本当に火を吹いてもおかしく……、あれ? 神技、使わないのかな?


『ルシェリスさんって、格下には神技を使わないこだわりでもあるんですか?』

『そんな決め事はないでござるよ。師匠、どうしたのでござろうなー?』


 とと、サイゾウさん、頭を傾けないで。私が乗っているのを忘れないでください。

 本人(兎)に聞いた方が早いね。


『ルシェリスさん、どうして神技を使わないんですか?』

『私はこのキルテナの強さを認めた。認めたら、地力のみで倒せるか試したくなってね。よって、神技を使った時点で私の負けだ!』


 ……勝手に自分ルールを。そう仰るなら審判として適用しますよ。

 ですがね、今のキルテナは簡単にはいかないと思います。

 体力自慢の上級種だし、ルシェリスさんの変則的な打撃にもどうにか食らいついて防御してる。

 これがキルテナの適応力。しぶとさが特性のウザゴンだ。

 この試合は時間が掛かりそうだよ。

 ――――。



 予想通り刻一刻と時は過ぎ、なかなか決着がつきそうにない。

 次第にルシェリスさんが焦れ出した。

 ……もうそろそろ使うね。彼女はストイックだけど、大雑把でざっくりした性格。堪え切れなくなってくる頃だ。


『しつこい! もういいっ!』


 格闘黒兎の拳が水に包まれる。竜の腹部に叩きこんだ。


 ザバッシュ――――――――ッ!


「グオオォォオオォォォォ――……」


 発生したジェット水流が、体長七十メートルあるキルテナを大空の彼方まで吹き飛ばした。

 渓谷の上に虹がかかる。


 火じゃなくて〈水の拳〉だったか。

 それにしても凄まじい威力だ。さすがマナ特化の【黒天星兎】。


 しかし、当のルシェリスさんは耳が下がり、しょんぼり自己嫌悪に陥っていた。


『神技を使ってしまった……。私の負けだ……』


 ほら、自分ルールなんて作るからですよ。


『私もまだまだ修行が足りないようだ。武の境地は遠いな』

『性格の問題だと思います。実はすでに辿り着いているのでは?』

この終わり方、またポ〇モン系の感想が……。

執筆中、ロケッ〇団が頭を過ったことは否定しません。


評価、ブックマーク、いいね、感想、誤字報告、本当に有難うございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] バイバイキーンも頭に浮かびました(笑)
[一言] なんとなくサイゾウ(兎)氏と似てる性根を感じました〜
[良い点] キルテナ「やなかんじ〜」(飛) こうですか?わかりますん(笑) [一言] ルシェリスさんはマスターモフモフ(黒兎不敗)でも目指してるんだろうか?
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