12 ジル先生
学年末トーナメント(二年生の部)翌日。
同級生の皆は厳しい競争から解放され、さぞ心が軽やかなことだろう。私にはよく分からない感覚だけど、姉によるとウキウキな気分ということらしい。
私の心の重量はあまり変化しないみたいだ。なので、心が重くなることもない。
ただ、単純に思う。
どうして、もう一度トーナメントに出なければならないのかと。
明日開催される四年生の部に、私はエントリーされてしまった。されてしまったものは仕方ないので、せめて今日一日はのんびり過ごすことに。
姉によると私はいつものんびりしているらしいけど。
そんなことはない。マナを習得してから、相当速く動けるようになった。
その姉、セファリスはといえば、まだ部屋から出てこない。
彼女もウキウキな気分にはなれないようだ。
とりあえず、のんびり過ごしがてら、引っ掛かっていた疑問を片付けようと思った。演習場まで足を運び、ジル先生に時間を取ってくださいとお願い。
今日は三年生のトーナメントが行われていて、先生は昨日同様に大忙しだ。
でも、お昼ご飯休憩の時なら、と言ってくれた。
というわけで、ジル先生と二人、オシャレなカフェでランチ。
と思いきや、なぜか二人、公園でコロッケを食べている。
「どうしました? コロッケは嫌いですか? トレミナさんに合わせてイモ料理を選んだのですよ」
「いえ、好きです。イモ料理なので」
ただ、イメージとかけ離れていると言いますか……。
「あなたのイメージでは、私はどこか良家の令嬢、といったところですか」
「はい、まあ……。共鳴で心を読まないでください」
「古い家柄である点では正解ですよ。私の家系は代々、神獣狩りを生業にしているんです。子供の頃から世界中を回る旅暮らしでした。同時にマナを使った戦闘術を叩きこまれ、神獣の肉もよく食べていましたね」
「だから他の騎士より強いんですね。どうしてそんなことを私に?」
「私がどういう人間か、知りたかったのでしょう? 疑問に答えてあげているのです。それから、私があなたの教育係になったのはリズテレス様のご指示ではありませんよ。私自身の意思です」
そうなんですか、と振り向こうとした瞬間、コロッケが喉のあらぬ所に。
ジル先生がお茶を渡してくれた。
その手でついでに八個目のコロッケを持っていく。
先生、細身なのにすごい食べる。
コロッケ二十個もどうするのかと思ったけど、全部たいらげる勢いだ。
ハンターの習性なのかな。
あ、それより話の続き。
「先生自身の意思って、どういうことですか?」
「私と姫様は主従の関係にありますが、パートナーでもあります。トレミナさん、あなたは私達が待ち望んでいた存在なのですよ」
……ただの、ジャガイモ農家の村娘ですが。
先生は懐中時計に目をやり、サッと立ち上がった。
もう時間のようだ。
「トレミナさん、まだコロッケ食べますか?」
「いえ、二個で充分です」
「では残りは私が。とにかく、これ以上私の詮索は無用です。心配しなくても、全てをあなたに捧げているわけではありません。教員をやりつつ、きちんと副団長の任もこなしています。でないとレゼイユのバカがバカをやりますからね!」
速足で歩き出したジル先生。最後にくるりと振り返った。
「トレミナさんは何よりも明日に集中です。姫様が仰られた通り、四年生は簡単に勝てる相手ではありませんよ。参加するからにはしっかりやるように」
まず私、集中の仕方が今一つ分からないんです。
それから、明日は参加したくてするわけじゃありません。
あとは……、
あ、ジル先生、騎士団の副団長だったんですね。
設定説明は流れが滞るので少しずつです。
次話からトーナメント。
今度はバトルらしいバトルをお届けできるかと。
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