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ジャガイモ農家の村娘、剣神と謳われるまで。  作者: 有郷 葉


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118/212

118 [キルテナ] キルテナ 対 ルシェリス

 指を突きつけた私を【黒天星兎】はギロリと睨む。


 ……やってしまった。

 ショックのあまり、とんでもない奴にケンカを売ってしまった……。

 このルシェリスという兎神は相当強い。

 たぶん昨日の【水晶輝熊】と互角かそれ以上。つまり、こちらも最終進化の一歩手前ってことだ。上級種にもなってない私の勝てる相手じゃない……。


 ……どうする。

 くっ、セファリスが見透かしたように半笑いの顔で。

 いや、気にしてる場合じゃない。どうにか切り抜けないと。

 そうだ! ルシェリスは人型になれないから言葉は通じないはず! さっきの「勝負しろ!」も伝わってないはずだ! ……まあ、私の敵意は伝わってるみたいだけど。

 ここはトレミナに頼んで何とか誤魔化してもらえば!

 あれ……? トレミナ、どこ行った?


 辺りを見回していると、ボス兎の陰からどんぐりが。


「伝えてあげたよ。ルシェリスさん、挑戦を受けてくれるって」


 ト、トレミナ――!


「キルテナにはかなり厳しいけど、強い相手と戦ってみたいと思ったんでしょ? 私はその意志を尊重するよ」


 トレミナ……、完全に私の意志をはき違えてるぞ……。

 精神がつながってなきゃポンコツか。


 くそ、おっとりどんぐりのせいでやるしかなくなった……!

 待てよ、これは逆にチャンスじゃないか?

 もし、この神獣に勝てれば、私は結構堂々と守護神獣になれるんじゃ……?

 この神獣に勝てれば……。

 振り返ると、ルシェリスは凄まじいオーラに包まれていた。


 ダメだ! 全く勝てる気がしない!

 マナ特化型【魔兎】の進化形なだけあって、マナの量が半端ない……。

 ったく、トレミナは。人(竜)の気も知らないで、何さりげなくルシェリスの毛に触ってるんだよ。

 ……おい、私の鱗はそんなに嬉しそうに触ったことないだろ。

 何か……、イライラするな。

 倒せる可能性はゼロじゃないし、やるだけやってみるか。


「本気のようじゃの、キルテナ」


 ソユネイヤが箱のような物を持って立っていた。

 あれは、保冷箱か?


「じゃがお主、昨日の戦闘からマナが回復しきっておらんな? 今日は戦いがないと、稀少肉を食べてこなかったじゃろ? 仕方ないから儂のこれをやろう」


 と彼女は保冷箱を押しつけてきた。


「何が入ってるんだよ?」

「トレミナちゃんが作ったしぐれ煮じゃ。全部食べればマナも満タンになるじゃろう」


 おお、有難い。今は少しでも強くなりたいし。恩に着るぞ、ソユ姉やん。


 やっぱりトレミナの料理は時間が経ってもうまいな。

 しぐれ煮を頬張っていると、ソユネイヤが「問題は、じゃ」と。


「竜体の方にもダメージが残っておるのじゃないかの? お主のことじゃから無理したはずじゃ」

「うっ。まあ、ちょっと……」

「やはりの。竜に戻ったら儂が〈ハイリカバリー〉をかけてやろう」

「姉やん……」


 なんとなく、やれる気がしてきた。いざ!


 私が【世界樹大竜】になると、途端に兎神達が殺気立つ。

 そうだ、こいつらやたらと竜族を敵視してくるんだよ……。

 ……ん? もしかして、竜族って嫌われてる?

 考えていると頭にソユネイヤが乗ってきた。

 そっと手を当て、〈ハイリカバリー〉を発動。


 シュ――――……。


 すごいな、瞬く間に痛みが消えていく。

 鱗まで綺麗に再生してる。


 〈ハイリカバリー〉は中級の治癒魔法だ。(精霊の力は借りないから無詠唱で使える魔法だ。)

 この技能の使い手は世界にそこそこいるだろう。聖女とか聖人って呼ばれてる奴ら。だけど、神獣をここまで治療できる能力者なんてそういないと思う。

 だって私達、体長何十メートルもあるんだぞ。

 私のいたドラグセンにも教主様って偉そうな人間がいたけど、そいつは高い金もらって一日一人治すのがやっとだった。

 対して、ソユネイヤはきっと一度に何百人もの重傷者を完治させられる。聖女どころかもう神だよ。神の私が言うから間違いない。あの角兎が心酔するわけだ。

 私だって……、ん?


「お主は儂の大事な妹じゃ。あまり無理はするでないぞ」


 姉やん……、一生ついてくぞ。

 彼女が頭から下りると、代わってトレミナが。


「私が審判を務めるよ。……キルテナ、あまり無理しちゃダメだよ」


 いや、姉やんとセリフかぶってるし。私は無理したくなかったけどトレミナが余計なことを……。

 もういいや。それより聞いておきたいことができた。

 精神会話で語りかける。


『トレミナにとって私は何だ?』

『急にどうしたの?』

『いいから』

『そんなの、家族に決まってるじゃない』


 …………。

 今すぐ、コーネルキアの守護神獣になりたくなってきた。

 頑張ってみるか。

 勝機も全然ないわけじゃないだろう。


 ルシェリスが後脚で立ち上がると、トレミナは私達の中間地点に移動。

 〈ステップ〉の足場に乗った。


「準備はいいね。では、始め」


 合図と同時に、構えをとっていたルシェリスがギュンと目の前に。

 速いっ!

 と思った瞬間には、その姿は視界から消えていた。

 下か!

 目をやると、もう黒兎は低い体勢から回し蹴りを。


 ガッッ!


 右前脚を弾かれる。

 さらに、流れるように裏拳を顔面に叩きこまれた。


 ゴッッ!


 ク! クラクラする! やばいっ!

 そう思っても何もできなかった。

 腹部にマナの込められたキックをくらう。


 ズドン――――ッ!


 私の体は地表から百メートルほど浮き上がった。

 最高到達点には、なぜか先にルシェリスが。

 くるんと前転し、勢いをつけた踵落とし。


 バッキ――――ッッ!


 流星のように私は大地にめりこんだ。


「グ……、ガ……ァ……」


 叫び声すらまともに上げられない。

 勝機なんて、微塵もなかった。私は何もさせてもらえず、数秒でノックダウン。向こうに神技を使わせることもできなかった。

 ……滑稽にもほどがある。

 この実力差で守護神獣の座を争おうとしたんだから。どちらが相応しいかなんて一目瞭然。

 私は、とんだマヌケだ……。


 トレミナがサッと片手を上げた。


「勝負あり。そこま」

『待て! 私はまだ戦う!』

『……キルテナ、でも』

『まだいける! 大丈夫だっ!』


 ……往生際まで悪いとは、我ながら情けない。もう立ち上がることさえままならないのに。

 私は弱い。

 ……トレミナに。

 ……トレミナに、こんな姿は見られたくなかった!

 こんなに弱い私は見られたくなかった!



『……キルテナ』


 …………。


『……キルテナ、体が光ってる』


 …………。

 …………、……え?


 ……この全身が焼けそうな感じ、覚えがある。

 間違いない、……進化だ!

キルテナ、上級種へ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] これは……正しく、愛! 愛の力による進化!! [一言] 要するに懐き度を上げて進化するタイプのポ○モンだったのね。
[一言] このご都合‼︎キルテナ‼︎お前が主人公だっ‼︎‼︎‼︎‼︎
[気になる点] ルシェルスさん [一言] キルテナさんが進化出来るって 気付いてたのかな
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