117 ルシェリスの決断
ルシェリスさん、サイゾウさん、ソユネイヤさん、セファリス、とそれぞれ精神をつなぎ、全員で輪を作った。
『やはりここはトレミナちゃんから言うべきじゃろう。今回の代表じゃからな』
ソユネイヤさんがそう切り出したのを受けて、私は一歩前へ。
『では、コーネルキアの代表として正式にお願いします。ルシェリスさん、我が国の守護神獣になってください』
次いで、セファリスとサイゾウさんも一歩前へ。
『私からもお願いします! ルシェリス母さん!』
『拙者からも! 師匠! 共に守護神獣になってくだされ!』
ルシェリスさんは静かに目蓋を閉じた。
その心は穏やかな水面のように波一つ立っていない。
さすが武の道を歩んできた神獣だ。考えが全く読めない。
簡単に結論を出すことなどできないだろう。
さっき聞いた話によると、ルシェリスさんは二百年近く生きているらしい。(正確な年齢は数えてないとのこと。)それほど長い間どこにも属さずにきたのだから、簡単なはずがないと思う。
さらにサイゾウさんによれば、彼女は【古玖理兎】界ではかなり名が通っているんだとか。弟子になりたい兎は数知れず。
十数年前、この渓谷に定住してからは、所在がはっきりしたことで一気に門下生が増えたみたい。
サイゾウさんもその一頭で、大陸の極東から走ってきたそうな。すごいよね。
『なーに、こうして殿にお会いできたので、苦労した甲斐があったというものでござる』
左様でござるか。だけど、当初の目的からずれてませんか?
ともかく、ルシェリスさんはそこまでする価値がある、伝説の武闘家なんだ。
口説くのは一筋縄じゃいかないと私も覚悟している。良いお返事がいただけるまで何日だって粘ってみせるよ。
程なく、ルシェリスさんはカッと目を開いた。
『コーネルキアの守護神獣になろう!』
……即決だった。
『いいんですか? そんなにあっさり決めちゃって』
『いいんだ、あれこれ悩むのは性に合わない。今度の一件では恩義もあるからね。もし熊神共とぶつかっていれば、私達は無事じゃ済まなかったろう。実際、死の際にあった弟子も救ってもらった。断る理由が見当たらない。よって、申し出を受ける!』
それから、彼女は柔らかい口調で。
『これは運命な気がする。今日、トレミナに会ってそう感じた』
付け足すように、『セファリスにもな』と。姉はちょっとふくれた。
ですが、神様でも運命とか信じるんですね。いや、神様だからかな。
あの【水晶輝熊】も、私との戦いをそんな風に捉えてるように見えた。
昨日の激闘を振り返っていると、ルシェリスさんが立ち上がった。
『私の弟子達も一緒にいいかい?』
『もちろん。願ってもないお話です』
ボス兎の一鳴きで、【古玖理兎】とその進化形が一斉にこちらを向く。兎達は師匠の声に黙って耳を傾けた後、タイミングを合わせて鳴いた。
『よし、皆来るそうだ』
素晴らしいカリスマ性です。
ソユネイヤさんが私の肩にポンと手を。
「やったの、トレミナちゃん。最高の成果じゃ」
「ソユ姉やんがサイゾウさんを助けてくれたおかげですよ」
「いやいや、どう考えてもトレミナちゃんの功績じゃよ」
「いえいえ、姉やんの力があってこそです」
褒め合い譲り合いをしていると、慌てた様子でキルテナが駆け戻ってくる。
「おい! どうなったんだよ!」
「群れの兎神、全六十五頭が守護神獣になるよ」
「……全……六十、五頭……」
キルテナは圧されるように後ずさり。
が、ぐっと足を踏ん張って止まる。
「冗談……じゃない!」
そのままルシェリスさんの元まで走っていき、人差し指を突きつけた。
「私と勝負しろ! 勝った方が先に守護神獣だ!」
急にどうしたんだろう、キルテナ。今まであんなに渋ってたのに。
すると、セファリスがスッと横に。
「創国の神獣様に次ぐ、第二の守護神獣の地位が惜しくなったようね。あれは」
なるほど、二番目と六十七番目じゃ大違いだ。
それにしても主従のお二方、ずっと精神会話してるね。やっぱり相性ピッタリなんだろうけど、中継してる私もずっと聞くことに……。
『機を逸すれば後塵を拝するということじゃのう』
『殿! 拙者は機を逃さなかったでござるよ!』
確かに、逃さないようにしっかり巻きついてましたね。
黒い騎士団に黒い兎団が合流。
サイゾウだけ黒じゃないです。ルシェリスはたまたま黒色の上級種。
『少しだけ予告』
勢い余って宣戦布告してしまったキルテナ。
しかし、ルシェリスは相当な手練れだった。
ドラゴン少女は心の中で叫ぶ。
「やっちまったー!」
精神がつながっていないと空気の読めないポンコツ少女トレミナ。彼女のせいで事態は最悪の展開へ。
果たして、キルテナの運命は……。
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