114 魅惑の兎神
名称変更のお知らせ
【古玖裏兎】→【古玖理兎】
古の黒く美しい(玖)理の兎です。
朝起きると、セファリスは元気を取り戻していた。
「よく考えてみれば全然へこむことじゃなかったわ。私は元々、総額二千万くらいだと思っていたのよ。そして、今あるのは一億相当のゴッドクリスタル。なんと五倍に増えてるじゃない!」
彼女のいいところは、物事をポジティブに切り換えられる点だ。
よくよく考えてみれば、本当は最初十億相当の宝石があって、九億ほどを失った事実に愕然とするだろうけど、せっかく元気になったので言わないことにした。
今日はこれから兎神の一団に会いに行かなきゃならないんだから。
他の人達はと言えば、第1部隊は疲労が残っているので一日休養日にするとのこと。
メルーダさんを筆頭に昨日は大変でしたもんね。
ゆっくり休んでください。
「そうさせてもらうよ。俺らはこの町の英雄らしいから居心地も悪くないし。もらった水晶の使い道でものんびり考えようかな。五千万もあると、いっぱい女性達への贈り物を買えそうだよ、はは」
軽薄な笑みを浮かべるナディックさんを、メルーダさんは怖い目で。
この二人は相変わらず仲が悪いね。
それから、昨日の疲れが尾を引いているのがもう一人。ロサルカさんだ。
「闇を使いすぎたせいか、少し倦怠感が。私もお休みさせていただきますね」
魔王を出しておきながらちょっとだるいだけで済むとは、暗黒お姉さんはやっぱりただ者じゃない。
というわけで、今日行くのは私とセファリス、あとキルテナ……。そうだ、キルテナも疲れてるんじゃないかな。
「昨日の戦い、大分熊に咬まれたり引っかかれたりしてたよね?」
「あんなの大したことないって。トレミナの方こそどうなんだよ? マナを使い果たしてたじゃないか。バーストもやばかったし」
「マナはもう完全回復したよ。体も別に……、いつも通りだね」
「く、怪物め……。私はもう体中が痛くて痛くて……」
「え……?」
「何でもない! (こっちの)体は無傷だ! それに、これから会いに行くのは【古玖理兎】だろ? 昔、あいつらには散々ボコボコに……、とにかく借りがある」
戦いにいくわけじゃないよ。
【古玖理兎】は兎族最強にして、神獣の中でもかなり古い部類に入る種族だ。
サイズも兎族最大の体長約五メートル。
だけど、彼らが最強たる所以は大きさじゃなく、その戦闘スタイルにあった。後脚で立ち上がり、まるで人間のような格闘術を使う。
ただ、この表現は間違っているかもしれない。人の方が【古玖理兎】の真似をして格闘術を生み出した、とも言われてるんだよ。それくらい古い神獣なんだ。
扱う神技も他の兎族とは異なる。この点でも特別だと分かるね。
今回の群れは、セドルドからさらに南へ行った所にある渓谷を根城にしていた。
私とセファリス、キルテナは早朝に町を出発し、太陽が朝露を照らす頃には渓谷の入口に着いた。
谷底を透明度の高い小川がサラサラと。
視線を上にやると、巨大な黒い毛玉が。高台から一頭の【古玖理兎】がこちらを見つめている。
兎は一跳びで私達の前へ。
大きい……、【猛源熊】よりは小柄だけど、それでも兎としてはかなり大きい……。
加えて、なんて柔らかそうな毛……。
高貴ささえ感じさせる、光沢のある黒毛……。
……触りたい、……抱きつきたい。
「トレミナ! 吸い寄せられてるわよ!」
「外見に騙されるな! こいつらは凶暴だぞ!」
セファリスとキルテナが、引き止めるように私の腕を掴む。
大丈夫だよ、敵意は感じられないし。
この【古玖理兎】は拠点の見張り役だろう。
私達の方にも敵意がなく、この黒煌合金の鎧を着てるから下りてきてくれたんだ。先に来ている第2部隊の仲間だと判断してね。
そうそう、その第2部隊の騎士達がちょっと困った状況に陥ってるんだよ。連絡は取れるんだけど、見動きが取れないというか。
急いで確認しなきゃ。
思いが伝わったのか、【古玖理兎】は回れ右して走り出した。
すぐに立ち止まり、チラリと振り返る。
ついて来て、ってことだね。
兎の後を追って、私達は谷底を川沿いに進む。
情報通り、一団の本陣はこの水源にあるらしい。
もふもふのお尻を見ていて、ふと。
【古玖理兎】、普段は四足歩行なのに、戦う時だけ二足になるんだ。聞くところによると、熊よりもっと二足なんだって。
もっと二足……、見てみたい。
それにしても可愛いお尻だ。
やがて兎神達の本拠地をマナで感知した。
信じ難い様子に、兜の〈透視〉で改めて確認。
……思っていた以上に、大変なことになってる。特に隊長の人が。
今行きますよ、聖女騎士さん。
トレミナ、ついにドラゴンからも怪物認定される。
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