113 姉の散財
ロサルカさんに頼まれて、【水晶輝熊】と【災禍怨熊】、進化形十二頭の稀少肉は私が切り出すことになった。
残りの【猛源熊】は第1部隊と回収班の人達がやってくれる。
私、セファリス、キルテナ、ロサルカさんはセドルドの町に戻ることに。いつの間にやって来たのか、暑そうな全身鎧を着たリオリッタさんもついてきた。
町に着くと、ケイトさんケイアンさんの親子が出迎えを。住民達も続々と集まり出す。
倍にまで膨れ上がった熊神軍の討伐を聞くと、全員が驚きのあまり絶句。
それから一斉に歓喜の声が。
涙を流してる人もいるね。 大変な戦いだったけど、こんなに喜んでくれたら頑張った甲斐があったというもの。
それにしてもちょっと大袈裟じゃないですか?
私がそう口にすると、ケイトさんは首を横に振った。
「いやいや、全く大袈裟ではない。わしらはもう救われたも同然なのじゃから。しかし、たった一日で討伐してしまうとはのう。これまで幾度となく軍や守護神獣を跳ね返してきたあの【水晶輝熊】まで……」
この言葉に、セファリスが胸を張る。
「ボス熊はほとんどトレミナが一人でやっつけたのよ」
「お姉ちゃんや皆が助けてくれたからだよ。〈トレミナボール〉さんもキャノンは初めてなのにしっかり飛んでくれたし」
「言ってることは半分不明じゃが、さすがトレミナちゃんじゃ。ところで、次の兎神の群れに関してお願いが……」
話しながらケイトさんが後ろに視線をやると、自警団の人達がざざっとそこに並んだ。全員で頭を下げる。
「わしらは何度もあの兎達に、いや、兎神様方に命を助けられとるのじゃ……。どうにか穏便に済ますことはできんじゃろうか?」
「大丈夫ですよ。私達も事前に情報は得ています。もしかしたら、話し合いで解決できるかもしれません」
「じゃがのう、兎神様は一頭たりとも人型になれんぞ」
「手立てはあります。あちらが心を開いてくれれば、ですが」
もし兎神のリーダーがルシェリスさんなら、きっと応じてくれるはずだ。
何と言っても、あのお母さん相手に心を開いてくれた出来た神様なんだから。
……ただ、群れを監視している第2部隊からの連絡によると、少し困った状況になっているみたいなんだけど。明日、朝一番で向かった方がよさそう。
夕刻、第1部隊がセドルドに到着した。
戦闘に後始末に、本当にお疲れ様でした。ゆっくり休んでください。
しかし、メルーダさんが今日の反省会、ミーティングをやると言い出した。どこまでもきっちりした隊長さん、じゃなくて副隊長さんだ。
お借りした自警団本部の広間に、第1部隊の皆さん、私、セファリス、キルテナ、ロサルカさん、そしてなぜかリオリッタさん、が集まった。
全員で大きめのテーブルを囲むと、セファリスがスッと鞄を取り出す。
「まず私から皆に渡す物があるの」
一人一人、目の前に水晶を置いていった。
「これ、お姉ちゃんが必死で拾ってたゴッドクリスタルでしょ? 配っちゃっていいの?」
「いいの。メルーダさんに聞いたら、私以外誰も拾ってないらしいから。戦利品は皆で分けましょ」
にんまりした顔でこちらを。
どう? お姉ちゃん、すごく大人でしょ?
そんな心の声が聞こえてくる。あ、これは実際に言ってほしそうだね。
「お姉ちゃん、すごく大人だね」
「やだ! そんなことないわよ!」
宝石を前にわなわなと震えていたリオリッタさんが、勢いよく席を立った。
「あんた! 正気なの! 私達のゴッドクリスタルを!」
「私の、ゴッドクリスタルです。リオリッタさんにも分けてあげたんだから文句言わないでください。全く戦ってないのに」
「しかも私のだけちょっと少ない!」
「だって、全く戦ってないじゃないですか」
確かに、この人は何もしていない。もらえただけでも感謝しないとダメですよ。
あれ? 逆に私の分はちょっと、というよりかなり多くないかな?
すると、セファリスは再びにんまり。
「倒したのはトレミナだしね。あと、お姉ちゃんからの誕生日プレゼントよ。私達姉妹は同じ量!」
他の人達も一握り分くらいは配布されていた。
第1部隊の皆さんはやや困惑気味。その空気を受けてメルーダさんが。
「まあ、大変な任務でしたし、いただいておきましょう。特別ボーナスということで、リズテレス様には私から報告しておきます」
彼女の許可が下りると、隊員達の顔は一斉に華やいだ。大事そうに水晶をしまっていく。
本当に嬉しそう。
お姉ちゃん、いいことしたね。
ここで、ロサルカさんが不敵に上品な笑み。
「セファリスさんは太っ腹ですね。一人あたり五千万相当の宝石を惜しげもなくプレゼントしてしまうのですから」
姉、停止。
その頭が、ギ、ギ、ギ……、と軋む音をたてて動いた。ゆっくりと振り向く。
「……一握り、百万ノアくらい、じゃないの……? 人生変わるって言うから、そんなもんかと……」
そうだね、変えようと思えば百万でも人生は変えられる。抽象的表現の怖いところだね。
私は大体予想ついてたけど。国家予算が潤うくらいだから。
静寂の中、リオリッタさんが部屋の出入口へ。
「だから正気かって言ったのよ。私のも四千万くらいはあるから、まあいいわ。コーネルキアから走ってきた甲斐があるってものよ。セファリス、ありがと。じゃあね」
バタンと扉を閉めて出ていった。
……取り返される前に退散したみたい。
「お姉ちゃん、私の水晶返そうか?」
「い、い……。だい、じょぶ……」
全然大丈夫そうじゃない。
この日、お姉ちゃんはかつてないほどの散財をすることになった。
次話からもふもふ回です。
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