111 対熊神戦争 〈トレミナキャノン〉
投擲フォームは片手投げの時とは異なってくる。しっかり全身の力をマナ玉に伝えられるように気を付けた。
諸々定まると、直径約五十センチのそれを両手でスロー。
〈トレミナキャノン〉、発射。
ズバァァン! ゴッシュ――――――――ッ!
放った瞬間、強力な衝撃波で足元の地面が吹き飛ぶ。
やっぱり〈トレミナボールⅡ〉とは桁違いのマナバーストだ。足元どころか、半径十メートルほどのクレーターが。
想定通り〈合〉マナは何とか持ち堪えてくれた。
普段は〈全〉じゃないと厳しいかも。あと周りに人がいないか確認しないと、本当に危ない。
こんな風に思考を巡らせたのは一瞬のことだった。
発生した衝撃波でまずセファリスが転ぶ。
波が平原中に広がった頃、マナ玉は【水晶輝熊】の元へ。
ボス熊は前脚をクロスさせて水晶で防御。
バキィィ――ン!
砲弾は水晶を砕き、前脚を弾いた。
勢い衰えず、胸部の水晶に突き刺さる。
「グガァァ――――――――ッ!」
体長五十メートルを超える熊の体が宙に浮かんだ。
「あの巨体を吹き飛ばした! ゴッドクリスタルめちゃ砕けたー!」
ズズーン! と【水晶輝熊】が大地に横たわるのを見て、セファリスが声を上げた。
粉砕された水晶が戦場のあちこちに降り注ぐ。
戦いの手(前脚)を止め、信じられない光景でも見るように空を仰ぐ熊神達。
あ、私の所にも水晶の欠片が。
掌で受けたその時だった。
『進化を目前に、無念だ……。
……だが、俺は最後に素晴らしい相手に出会えた』
これは……、あの【水晶輝熊】のマナ残思?
敵同士で精神がつながることなんてあるのかな。敵なのに心が通じるなんて……、いや、ありえるのかもしれない。
体を起こし、まっすぐにこちらを見据える熊神。
その眼差しから、そう感じることができた。
「クリスタルだけじゃなく、体の方にもかなりのダメージがあったみたいね。二人で協力すればもう簡単に倒せるわ」
お姉ちゃん、それはできないよ。
私は彼の声を聞いてしまったから。
「ダメだよ。もう一発、全力で〈トレミナキャノン〉を撃つ」
「もう一発全力で、って。……トレミナ、分かってる?」
もちろん分かってる。
通常の〈トレミナボールⅡ〉百球分以上にもなるキャノンは、私が万全の状態でも放てるのは二発まで。
つまり、総マナの半分近くも費やすんだ。今は他にも結構使ってしまっているから、撃っちゃうと私のマナは本当に空になる。度々マナ切れを起こしているチェルシャさんでも、最低限のマナはちゃんと残している。私はその一線も越えてしまうだろう。
だけど、私は【水晶輝熊】の想いに応えなきゃならない。
そうでしょ?
新たな大玉を作ると、熊神の口元に笑みが浮かんだように見えた。
一方で、セファリスは深いため息。
「止めても無駄のようね。いいわ、後のことはお姉ちゃんに任せて」
ありがとう、私がこんな無茶できるのはお姉ちゃんがいてくれるからだよ。わがままだったり、困った行動も多々あるけど、肝心な時には本当に頼りになるって知ってる。
きちんと言葉にした方がいいかな?
「必要ないわよ。〈合〉マナを通して伝わってきたから。……できれば、技名変更もきちんと伝えてほしかったけど」
「ごめんね、おっとりしてた」
「ま、それがトレミナよね。とにかく、頼りになるお姉ちゃんがいるから思いっ切りやりなさい。ふふ」
「うん、そうさせてもらうよ」
伝わったり伝わらなかったりだけど、大切な部分ではしっかりつながってる。だから、私達はいつでも〈合〉が使えるんだ。
お待たせ、【水晶輝熊】。
この〈トレミナキャノン〉は、今の私が撃てる最高の一発だよ。
ボールを頭上に掲げて投擲体勢に入ると、巨大熊は後脚で立ち上がった。
両前脚は先ほどのキャノンのダメージが大きいのか、ダランと下がっている。それでも彼は胸を張った。胸部のひび割れた水晶を誇らしげに。
まるでここに撃ってこいと言わんばかりだ。
そうか、その水晶は紛れもなくあなたの誇りなんだね。
分かった。じゃあ、投げるよ。
……叶うことなら、あなたの名前を知りたかった。
〈トレミナキャノン〉、発射。
ズバァァン! ゴッシュ――――――――ッ!
マナを使い果たし、私の意識は遠のいていく。
最後に見たのは砕け散る水晶。
キラキラ、キラキラ、美しく空を舞っていた。
次話、いよいよ戦争終結です。
トレミナが寝てしまっているので、お姉ちゃんがしっかり締めます。しっかり締まるかどうかは怪しいところですが。
ポイントが2万5千に達しました。本当に有難うございます。
それから久々に言わせてください。
評価を付けていただけると、執筆の励みになります。
そういえば評価してなかった、という方、下の星マークを押していただけると有難いです。よろしくお願いします。
読了時間も400分を超えました。
ここまで読んでくださった皆さん、私の書いたものに貴重なお時間を割いていただいて恐縮です。
改めて感謝申し上げます。
本当に有難うございます。これからも楽しんでいただけるよう頑張ります。