110 対熊神戦争 ビッグサイズ
私、もっと強くならなきゃ。
と思っていると、【水晶輝熊】の全身が光り始めた。
おお、本当に水晶が輝いてる。
なんて感心してる場合じゃない。
あれは進化の前兆だ。
資料に書いてあった。徐々に光が増していき、太陽にも負けない眩さになった時、いよいよ進化が開始されるって。トリガーになるのは神獣の想いらしい。
巨大熊の顔に目をやった。
そうか、あなたも願ったんだね。強くなりたい、と。
「このままじゃ【水晶神熊】になっちゃう! 早く倒さないと! 魔王が来る!」
熊と魔王を交互に見ながらセファリス。
「進化はさせない。私達二人で仕留めよう。私、これを投げるよ」
そう言って手元にマナ玉を作った。
ただし、いつものとはちょっと違う。
「それ投げるの……? 本気……?」
姉が目を丸くして聞き返してきた。
視線の先、私が持っているのは直径五十センチほどのボールだった。普段投げているのが大体直径十センチなので、遥かに大きい。
でも、彼女が驚いたのはそのサイズにじゃない。
込められたマナの量にだ。
私はいつもマナ玉に限界までマナを注いでいる。この大玉でもそれは一緒。体積にして百倍以上はあるね。
つまり、ボール百球分を超えるマナがこの中に。
これを〈トレミナボールⅡ〉で発射する。
ちなみに、ボールに合わせて接合部分(〈気弾〉として撃つ部分=追加推進機関)も大きくするから、破壊力はさらに増すはず。
丸くなっていたセファリスの目が輝いた。
「いいんじゃない! やってトレミナ! きっと水晶も砕けまくりよ!」
「水晶……? まあ、ガードされるだろうからそこも突破しなきゃならないけど」
何だか欲に塗れた思念が伝わってくるよ、お姉ちゃん。
全力で協力してくれそうだからいいけど。
「お姉ちゃんにも連携してやってほしいことがあるんだ」
「何でもやるわ! ところで、新技の名前は?」
「えーと、これは――」
教えるとセファリスは微妙な顔に。
気にしないことにした。
この大玉は両手で投げることになる。接合部分の〈気弾〉もしっかり左右の掌と連結させた。
よし、これで準備は……。
おや? 内側から警告が。
~ 私の精神世界 ~
どうしました、〈トレミナボール〉さん。
引っつけたマナに違和感でも?
『いいえ、そちらは間違いなく私自身です』
それはよかった。では、どうしたというんです?
『マナバーストについてです。マスターのお体が心配なのですよ』
お気遣い感謝します。
ですが大丈夫。私の予想では、今の〈合〉マナなら耐えられるはずですから。
『私の予想も同様ではありますが、くれぐれも気を抜かないでください。マナバーストは私達が制御できるものではありませんので。それと、もう一つ気になる点が』
もう一つ? 何でしょう?
『新しい技の名称です。お考えのそれ、仰ってみてください』
え、〈トレミナボールⅡ・ビッグサイズ〉です。
ダメですか?
『ダメですね、長すぎます。あとセンスも……。私は新たなステージに入りましたし、名称もシンプルに一新してみてはどうです? マスターの同期の方のように』
チェルシャさんのことでしょうか?
『この大きさの私はもう砲弾と呼んで差し支えないかと』
通常サイズでも充分砲弾で通ると思いますが……。
分かりました。何より〈トレミナボール〉さんが気持ちよく飛べることが一番大事です。
『私はマスターの技能で幸せです、本当に』
~ 現実世界 ~
……ボールの力強さが増した?
マナの質が上がったみたい。技能の意見をきちんと聞いてあげるのって、結構重要なんだ。
それにしても、マナバーストにまで気を回してくれるとは、よくできた〈トレミナボール〉さんだよ。
マナバーストとは、ボールを投げた時に発生するあの衝撃波のこと。発生条件ははっきり解明されていないけど、どうもマナの量と勢いが関係しているらしい。
放った本人でもコントロールできないからとても危険だ。特に今回は〈トレミナボールⅡ〉の時とは桁違いのバーストになりそうだし。
そうだ、お姉ちゃんにも言っておかないと。
「お姉ちゃん、この大玉はすごい衝撃波が出そうだから、もう少し離れた方がいいよ」
「そんなに? トレミナは大丈夫なの?」
「たぶん平気。本玉(人)も同見解だから心配しないで」
「本玉? まあ信じるわ。私の方はいつでもいけるわよ」
やや離れた所でセファリスは双剣を構えた。
確認した私は、頭上にボールを掲げて投擲の姿勢。
すると、【水晶輝熊】は即座に〈雷壁〉を展開した。
「それを出すのは(妹が)お見通し! 私も特大でいくわよ!
〈ダブルオーラスラッシュ・ビッグサイズ〉!」
ズザザン――――ッッ!
双剣から放たれた二つの巨大なマナの刃が、〈雷壁〉を綺麗に四等分。
ありがとう、お姉ちゃん。
これで威力を削がれることなくマナ玉を当てられる。
その前に、まずは〈オーバーアタック〉だ。よし。
「いくよ、〈トレミナキャノン〉」
とセファリスがバッと振り返った。
「さっきと名前が変わってるじゃない! 微妙だと思ったけどお揃いにするためにビッグサイズ付けたのに! お姉ちゃん! 恥ずかしいわよ!」
お姉ちゃん、静かに。
今、大事なところだから。
直前まで本当に〈トレミナボールⅡ・ビッグサイズ〉でいくつもりでした。
後々のことを考えると大変な名前になりそうだったので、思いとどまった次第です。
というわけで、次話〈トレミナキャノン〉です。
ちなみに、〈トレミナボール〉と〈Ⅱ〉のサイズはソフトボール(約9.7センチ)と同じくらい。大玉はバランスボール(55センチサイズ)よりちょっと小さいくらいになります。
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