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「お姉ちゃん、お願いだから鍵を開けて」
「うう! ううっ……! お姉ちゃん今! すごく辛いの! 一人にして!」
寮の自室に篭ったきり、セファリスが出てこなくなった。
ここ、私の部屋でもあるんだけど。
頼めば泊めてくれる子はいるから、寝床の心配はないか。
ランニングにでも行こう。
昔からセファリスは何かと私を守ってくれた。やんちゃな男子、獰猛な野犬。
姉は私より常に強くあらねばと思ってきたはず。
今日の決勝戦は受け入れ難い現実だったんだろう。
どうにか乗り越えてほしいものだ。
頑張って、お姉ちゃん。
あとできれば、精神的にもう少し成長してほしい。
夜の街を走りながら、私は決勝戦後のことを思い出していた。ジル先生が優勝宣言したのち、リズテレス姫が私達のいる所まで下りてきた。
――――。
「優勝おめでとう、トレミナさん。決勝も素晴らしかったわ」
「決勝が一番ろくでもなかったと思いますが……」
受け返しつつ、姫の傍らに立つ女性が気になってしょうがなかった。
……この人、とんでもないマナ量だ。
しっかり抑えているのは分かる。それでも、わずかに漏れるマナから伝わってくる。他の騎士達とは別次元だって。
年齢は二十歳いかないくらいだろうか。容姿は、肩まで伸びたくせのある金髪に、紫色を帯びた瞳。その目の奥から、何か尋常じゃないものを感じる。
見つめ続けていると、向こうも見返してきた。
「私の力が分かるとは、お前、子供のくせにやりますね」
共鳴で探っているのがバレた。
すると、リズテレス姫がくすりと。
「紹介するわね。彼女はコーネルキア騎士団の団長、レゼイユさんよ」
ということは、やっぱりこの人が、元祖怪物。
ジル先生もマナは私よりずっと多いけど、たぶんそれより遥かに上だ。そういえば先生、レゼイユ団長のことを変態って呼んでなかったっけ?
「ええ、間違いなくレゼイユは変態です」
あ、またマナ共鳴で。このクラスの人達になるともう特殊能力だな。
でも、本人の前でそんなにはっきり言っちゃっていいの?
団長、怒るんじゃ……、あれ? いない。
姫の隣にいたはずのレゼイユ団長は、いつの間にかジル先生の目の前に。
マナを使った高速移動、かな? ここで使う意味あるの?
「ひどいですよ、ジルちゃん。一緒に神獣を貪り食った仲じゃないですか」
「誤解を招く言い方しないで。私や他の騎士は持ち帰って調理しているわ。現地で生食するバカはあなたくらいよ。……はぁ。トレミナさん、あなたもいずれ分かりますよ。この女がいかに変態か」
いえ、今ので結構充分です。
「二人共、それくらいで。この場はトレミナさんの栄誉を称えましょ」
スタスタと歩いてきたリズテレス姫は、私の顔を見て微笑む。
……何だか、すごく嫌な予感がするよ。
早めに切り上げた方がよさそうだ。
「称えられるほどのことはしていません。ダダをこねた姉を殴り飛ばしただけです。じゃ、私はアレを連れて帰りますから。お疲れ様でした」
「まあ、待ってちょうだい。トレミナさんには今日の試合、どれも物足りなかったんじゃないかしら?」
「いえ、そんなことは。どの試合も五秒以上の熱戦で」
「そこで提案なんだけど、明後日行われる四年生の部に出てみない?」
「……お断りします」
「四年生は全員、戦技や魔法を使うから、あなたでも簡単には勝てないわ」
「だと思います。来月には騎士になる人達ですし。ですのでこの話は」
「けれど、トレミナさんならきっとやれるはずよ」
……どうやら、すでに決定事項だったみたい。
私の学年末トーナメントが、再び開幕する。
トレミナは姉のせいで精神年齢高めの設定です。
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