表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
109/212

109 対熊神戦争 トレミナ、謙虚になる

 私が全力で投げた〈トレミナボールⅡ〉は、【水晶輝熊】の前脚の水晶をわずかに欠けさせただけだった。

 確かにリズテレス姫からもらった資料に、あれはすごく硬いって書いてあった。だけど、ここまでなんて。


 いくら硬くても、もうちょっとダメージがあると思ったよ。

 ……私、うぬぼれていたのかな。

 皆から〈Ⅱ〉は恐ろしいって言われて。貫通力はトップクラスなんて言われて。知らぬ間にうぬぼれていたのかもしれない。

 きっとそうだ。

 私はおっとりしてるから自覚がなかっただけで。

 もっと謙虚にならなきゃ。

 でないと、この強敵は倒せない。


 タンッタンッと〈ステップ〉を使って巨大熊の背後に回りこむ。

 今度はガードの薄い箇所を狙って……、〈トレミナボールⅡ〉。


 しかし、投擲の瞬間に相手は少し体をずらした。

 結果、ボールはまた水晶をわずかに削ったのみ。


 完全な死角だったのに。

 マナで私の動きが読まれてる。

 やっぱりこの【水晶輝熊】は強いだけじゃなく、戦闘経験も豊富だ。

 謙虚に剣の連打で崩してから、重い一撃を放つのがいいかも。


 〈プラスソード〉のマナ大剣で斬りかかる。


 ガキィィン!


 再び水晶ガードで弾かれた。

 気にせず剣を振り続ける。


 キィン! キィン! キィン! ザスッ!

 キィン! キィン! ザスッ!


 ちょっとタイミングが掴めてきた。

 次は、いけそうな攻撃は〈オーバーアタック〉を絡めてみよう。


 キィン! キィン! キィン! ザッスーッ!

 キィン! キィン! ザックーッ!


 普通の毛の所も硬いけど、何とかダメージは入る。

 謙虚に、というより慎重に攻めてきたけど、そろそろボールも投げようかな。


 作戦を練っていたその時、異変を察知。

 とっさに〈ステップ〉で後ろに跳ぶ。

 先ほどまでいた空間が稲妻で覆い尽くされた。


 これは〈雷壁〉。攻撃に使ってくるなんて。

 あ、まだ終わってない。

 【水晶輝熊】の前脚が動くのに気付き、〈プラスシールド〉を展開した。

 巨大な〈水の爪〉が迫る。


 シュザァ――――ッ! パキィ!


 魔法の盾でほんの少し勢いが削がれた隙に、さらに後方へ。


 危なかった。

 謙虚になっていたおかげで、どうにか回避できたよ。

 よし、あの体勢ならずらすのは無理だね。

 今だ。カウンター気味に〈トレミナボールⅡ〉。


 シュパッ! ドッシュ――――ッ!

 ドムゥッ!


「ゴガアァァッ!」


 水晶のない腹部にボールが突き刺さり、ボス熊は雄叫びを上げた。

 戦争が始まってからあちこちで熊神の鳴き声が聞こえるけど、中でも一際大きな声だ。

 軍勢の熊達が一斉に振り返った。

 と【水晶輝熊】は牙を剥き出しにして私を睨む。


 ……相当効いたみたい。

 さっきのは絶叫だった。

 それでも、倒すにはあと何発も撃たなきゃならないだろうし、やっぱり〈合〉マナが切れる前に討伐は厳しいかも。


 いや、そんな心配は無用になった。

 さすが私のお姉ちゃん。


「チャージッ!」


 背中に飛びついてきたセファリス。そのまま二人のマナを合わせた。


「お姉ちゃんが来たからもう大丈夫よ!」

「助かったよ、私一人じゃ困ってた」

「やけに素直ね」

「私、近頃うぬぼれてたみたいだから謙虚になったんだよ」

「ああ、そう……。あまり謙虚になると勝てるものも勝てなくなるわよ。……というより、口ではそう言ってても、私には普段通りのトレミナに見えるけど?」


 確かに、謙虚謙虚と言ってるだけでいつもと全く変わらない気がする。


「おっとりしすぎでしょ! とにかく攻勢に出るわよ!」


 セファリスは〈ステップ〉で上から斬りかかる。

 が、巨大熊はくるっと肩付近の水晶を向けて防御姿勢。

 ……むしろお姉ちゃんも水晶の方を狙ってない?


「ゴッドクリスタル! いただきっ!」


 双剣を振り下ろすも、カキンッと弾き返された。


「かたっ! やっぱ私じゃムリー! だったら……」


 空中を高速で跳ね回りながら、【水晶輝熊】の生身部分を斬っていく。

 お姉ちゃん、〈ステップ〉の扱い上手いな。

 でも、気を付けないと……。


 不意の放電。


 バチバチバチバチバチッ!


「ぎゃ――――っ! 何これ――――っ!」


 見事にセファリスは〈雷壁〉に挟まれてしまった。

 そこに、さっきと同様に〈水の爪〉が。


 それより早く、私がマナの大剣で稲妻を切断。

 姉を抱えて脱出した。


「私一人で逃げられたから! ビリビリするー!」

「お姉ちゃんはもう少し謙虚になった方がいいよ……」


 そう話していた次の瞬間、突然、邪悪な波動を感じて二人で振り向いた。

 見る見る大きくなっていく闇の塊。

 やがて体長五十メートルを超える人の姿に。


「魔王だわ……。見たことないけど絶対そうよ……」

「……ロサルカさん、あんなのまで隠してたんだ」


 魔王は大鎌一振りで【災禍怨熊】を沈め、直立でこちらを眺めている。


 コオオォォォォ――…………。


 私達と一緒に釘付けになっていた【水晶輝熊】が向き直った。

 ふむ、精神がつながったわけじゃないけど、何となく言いたいことは分かるよ。

 お前ら、……ほんと何なんだよ。だね。

 私もロサルカさんに同じことを言いたい。


 でも、彼女があれを出したのは、きっと私が頼りなく見えたせいだ。

 私に任せておくと【水晶神熊】に進化してしまうと思ったから。

 ……私の力が足りなかったせいだ。


 以前は、〈トレミナボールⅡ〉があれば大切なものは守れると思っていた。

 だけど違ったみたい。

 世界は私が考えていたより広かった。

 謙虚さは必要だけど、それだけじゃ大切なものを失いかねない。


 どうやら〈トレミナボールⅡ〉を次の段階に進める時が来たらしい。

そして、〈トレミナボール〉さんはさらなる高みへ。

評価、ブックマーク、いいね、感想、誤字報告、本当に有難うございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。





書籍化しました。なろう版へはこちらから。
↓をクリックで入れます。




陰キャ令嬢が沼の魔女に。

社交界で沼の魔女と呼ばれていた貴族令嬢、魔法留学して実際に沼の魔女になる。~私が帰国しないと王国が滅ぶそうです~








強化人間になってしまった聖女のお話です。
↓をクリックで入れます。




腕力で世界を救います。

強化聖女~あの聖女の魔力には武神が宿っている~








こちらも連載中の小説です。書籍化します。
↓をクリックで入れます。




事故で戦場に転送されたメイドが終末戦争に臨みます。

MAIDes/メイデス ~メイド、地獄の戦場に転送される。固有のゴミ収集魔法で最弱クラスのまま人類最強に。~




書籍 コミック


3hbl4jtqk1radwerd2o1iv1930e9_1c49_dw_kf_cj5r.jpg

hdn2dc7agmoaltl6jtxqjvgo5bba_f_dw_kf_blov.jpg

1x9l7pylfp8abnr676xnsfwlsw0_4y2_dw_kf_a08x.jpg

9gvqm8mmf2o1a9jkfvge621c81ug_26y_dw_jr_aen2.jpg

m7nn92h5f8ebi052oe6mh034sb_yvi_dw_jr_8o7n.jpg


↓をクリックでコミック試し読みページへ。


go8xdshiij1ma0s9l67s9qfxdyan_e5q_dw_dw_8i5g.jpg



以下、ジャガ剣関連の小説です。

コルルカが主人公です。
↓をクリックで入れます。




コルルカの奮闘を描いた物語。

身長141センチで成長が止まった私、騎士として生きるために防御特化型になってみた。




トレミナのお母さんが主人公です。
↓をクリックで入れます。




トレミナのルーツを描いた物語。

婚約破棄された没落貴族の私が、元婚約者にざまぁみろと言って、王国滅亡の危機を逃れ、ごくありふれた幸せを手に入れるまで。



― 新着の感想 ―
[一言] じゃがいもでないならドングリですかね。
[一言] じゃがいもボールかな? 以前トレミナボールⅡヤヴァイって言ってたけどそれ以上ヤヴァイのかねぇ?
[良い点] お土産の水晶がたんまりゲット〜~ [一言] きっと『そうはならないやろう…』な進化を遂げそうな気がしないでもない…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ