108 対熊神戦争 [ロサルカ] 魔王令嬢
メルーダさんとナディックさんの様子を探っていて、ついため息が。
何、青春してるのよ……。
二人を窺っていたのは私だけじゃない。
トレミナさんもマナ感知で気にかけていたようね。私が代表代表と持ち上げなくても、あの子にはしっかりその自覚があったということ。
もしナディックさんが間に合っていなければ、〈トレミナボール〉さんがメルーダさんを救っていただろう。
投げてやればよかったのよ、まったく。
トレミナさんはたぶん色恋にはうとい。彼女が気にしたのは、第1部隊のプライドを傷つけないこととかだと思うわ。
特殊な精神性のせいか、あの子はどんな状況でも気遣いができる。強敵の神獣と戦っている最中でもね。
気にせず、おっとり無神経に投げてやればよかったのよ、まったく。
だけど、メルーダさんも謎だわ。
ナディックさんのどこがいいの?
そいつ、かなりのクズよ?
きっちりした優等生に限って、どうしようもない奴に引かれたりするのよね……。
もう一度ため息をついてから、私は担当する神獣に目をやった。
【災禍怨熊】が肩で息をしながら、宙に浮かぶ私を睨みつけていた。
「ほらほら、もっと頑張らないと。あなたのマナ、残り半分を切りましたよ」
言葉は通じなくても、挑発は伝わったみたい。
熊の牙がバチバチと放電を開始。
〈雷の牙〉ね。得意の毒属性も遠距離攻撃も私には届かないんだから、最大の威力を誇るそれしかないでしょう。
体長五十メートルの巨大熊が大口を開けて向かってきた。
かぶりつくというより、私を丸呑みできそうね。
「あら、怖い怖い。しっかり削らせていただきますね」
大鎌を振って〈ダークスラッシュ〉を連射。
神技に込められたマナをどんどん奪っていく。
〈闇の盾〉を砕くと同時に、帯びていた電気が消失した。
スピードも格段に落ちた咬みつき攻撃をサッと回避。鎌で熊の顔を斬りつける。
「ふふ、またマナが減っちゃったわね。あ、顔を傷つけてしまったわ。もし女性だったらごめんね」
おっと、昂りすぎて話し言葉が。
私が丁寧な言い回しを使うのは、本性を隠すため。あと私は嘘をつくことにも抵抗がない。周囲を不快にさせるより遥かにいいと思う。もちろん、マナで思考を読まれないようガードも万全。
自分の溜めこんだ闇なんて、人にひけらかすものじゃないのよ。
そういえば、結構溜まったわね、闇。
と私は視線を上に向けた。
どれだけマナを吸収しても、私個人が収容できる量には限界がある。今は〈暗黒領域〉も展開中だから、余りに余ってるわ。
私に入り切らなかった大量のマナがどこにあるかというと、この上空。
闇に含ませて浮かべてあるの。
んー……、もう使ってしまおうかしら?
どうせあの【水晶輝熊】が進化したら、私も手伝わなければいけないし。
実は、今回の先発隊のナンバーズは選ばれるべくして選ばれている。
〈合〉で一段階強くなれるトレミナさんとセファリスさん。そして、同様に奥の手を持つ私。
あのリズテレス姫が熊の最終進化を想定していないはずがない。
そうなっても対応できる私達が来た。
二人も〈合〉を使ってるし、いいわよね。
よし、私も完全体になろう。
つまり今は不完全な状態。
何がって、この纏ってる闇のオーラ、〈魔王戦衣〉が。これは元々、〈暗黒領域〉とセットで使用するようにできている。私に収まらないマナを、こっちに移して有効活用する仕組みよ。
まあやってみましょう。
〈魔王戦衣〉、モードチェンジ……、
……〈魔王降臨〉!
細い滝のように、空からマナを含んだ闇が降りてくる。
接続すると私のオーラが膨張を始めた。
ズズズズズズズズ…………。
領域展開は短かったけど、神獣が沢山いたおかげで充分集まったわ。
これなら本当に完全体になれそう。
ズズズズズズズズズズ…………。
膨張が止まった時、黒いオーラは巨大な人の形に。
あらら、【災禍怨熊】より大きくなったわね。こんなにビッグだったかしら? 久々に使ったものだから忘れて……、あ、やっぱり足りてないわ。
巨人の頭にニョキッと牛のような角が二本生え、手には大鎌が出現した。
これで完成よ。
私の奥の手、〈バルフォニスの魔王〉!
バルフォニスっていうのは……、と闇はひけらかすものじゃなかったわ。
ちなみに、【災禍怨熊】は親切にも私が完全体になるまで静かに待ってくれていた。
固まって動けなかったと言ってもいいわね。
今は小刻みに震えてる。
それから我に返ったように回れ右。
ああ、ついに逃げるのね。
私と戦っている時もずっと、あの熊の頭には逃亡の二文字があった。
毒なんかの特殊属性って、性質上使い続けていると性格が歪んだりするみたいなの。
自分のことしか考えられなくなったり、平気で味方を巻き添えに神技を放ったり、極度にお金が大好きになったり。
人(神)や周囲の環境によるけどね。金の亡者になるくらいは可愛いものよ。
まあ闇属性も同じことが言えるんだけど、私はほとんど影響ないわね。逃げる背中を見たら、無性に追い討ちをかけたくなる程度だわ。
実際問題、ここであの熊を逃がすわけにはいかないし。
というわけで、逃がさないわよ!
〈魔王スラッシュ〉!
私の意思に応えて黒い巨人が大鎌を振るう。
ザザンッッ!
特大サイズの〈ダークスラッシュ〉が背後から【災禍怨熊】を斬り裂く。
一撃で残っていたマナを全て吸い取り、その命までも奪った。
おや、〈バルフォニスの魔王〉また大きくなったわ。
そうか、私の実力が上がってきたせいね。
思えば近頃よく稀少肉を食べてるわ。
あれ? この魔王なら、団長は無理でもライさんには勝てるんじゃない?
やりましたよジル様!
私! 実質ナンバー2の座に!
早く帰って褒めてもらわないと。こんな熊退治なんて……。
ふと戦場を見渡すと、敵も味方も神も人も、一様に手(前脚)を止めてこちらを見つめている。
「皆さん、お気になさらず。どうぞ続けてください」
んー、このサイズを気にするなと言う方が無理かしら?
『コーネルキア機密文書 Nо.265
バルフォニス王国滅亡に関する調査結果
キオゴード・コーネルキア
王国でそれなりの地位にあった奴から話を聞くことができた。
何でも、国内ではしばらく血で血を洗う権力闘争が続いていたらしい。その最中、ローサという貴族令嬢が闇の属性に目覚めてしまったんだと。
元々ローサは天才少女の呼び声高い、王国でも指折りの魔女だった。そんな彼女が作り出したのが、守護神獣にも劣らない闇の巨人だ。
巨人は周囲のマナを吸い続けながら、破壊の限りを尽くして国中を闊歩した。
王国が国として機能しなくなるその日までな。
これがバルフォニス王国滅亡の真相だ。
ところで、後日足を運んだ際、荒野を一人で歩く少女に出会ったんだが……。
名をロサルカといい、リズの創った学園の話をしたら興味を示したから紹介状を持たせた。
だが、気を付けろ。
このロサルカという子がおそらく……。
とにかく、その子は要監視対象だ』
お忘れかもしれませんが、キオゴードは享護です。
今は世界を旅する初老の剣士(短髪、顎髭)。
戦力になりそうな人や物を見つけては、
リズテレス宛に送っています。
神獣は一頭ですが、コーネルキアには大変な人間が集まっています。ライや、トレミナとセファリスも二世ですがそうと言えますね。
世界の爆弾が集いしコーネルキア。
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