表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
107/212

107 対熊神戦争 [メルーダ] 第1部隊の指揮官

 二つの円月輪を回収すると、戦線をさっと見渡す。

 大丈夫、どこにもほころびはない。全員しっかりやってくれているし、このままいける。

 けれど、油断はできないな。

 私達の任務は決して楽なものじゃない。

 体長八メートルの【猛源熊】は、野良神としては充分脅威であり、一頭でも護衛付きのキャラバンを壊滅させてしまうほどだ。それが二百頭以上もいるんだから。


「これなら二千人規模の軍隊を相手にした方がよほど楽だ……」


 つい愚痴が。

 同意するようにナディックさんと八人の騎士が頷いた。

 皆には指示を出す私の声を聞き逃さないように言ってある。彼らは各自結構なマナの使い手なので、小さな呟きも拾われる。

 私としたことが。

 それに愚痴をこぼしてる場合でもない。

 私達第1部隊は他のチームの模範となるべき存在。今回の遠征ではその真価が問われているんだ。部隊としてなら、ナンバーズに劣らない活躍ができると証明しなければ。


 ……今のは取り消す。

 大きなことを言えばろくなことにならないと、相場が決まっている。指揮官の私は、常に冷静で慎重でいないと。


 ここで、前線を駆けるナディックさんから。


「メルちゃん、まずい。進化形二頭がこっちに来る」

「そんな、どうして。種別は何ですか?」

「大熊と魔熊だ。どうする?」


 ……断じて私のせいじゃない。

 これは、私達の安定感から任せても心配ないと判断されたか?

 実際には、あれらを相手する余裕まではない。

 が、そうも言ってられないね。


「私と隊長で対処しましょう。皆はそのまま戦線を維持して」


 普通の【猛源熊】の方は、私とナディックさんの援護がなくてもきっと大丈夫だ。

 ロサルカさんの〈暗黒領域〉が効いてるし、かなりの数の熊達がキルテナさんに流れてる。私の部隊は二百頭も倒さなくて済むかもしれない。

 それにしても、キルテナさんに向かっていってる熊……、どいつも闘争心剥き出しだね。あのドラゴン、熊達から何か恨みでも買っているのか?

 まあでも、同格に囲まれながら飛びかかってくる奴も跳ね返して、よくやっているな。その頑張り、今度の部隊長ミーティングでしっかり報告しておく。

 部隊長ミーティングとは、名前通り各隊の隊長が集う場だ。

 第1部隊からは私も出席する。ナディックさん一人では不安なので。本当にこの人はいつもフラフラと……。


 隣を走るナディックさんに、ちらりと視線をやった。


「俺達二人だけじゃきついって。やるしかないけどさ……。じゃあ俺が前に出るから、メルちゃんは援護を」


 肩に乗せようとした彼の手を、さっと回避。


「触らないでください。それだと隊長が持ちませんよ。私が大熊を抑えるので、隊長はできる限り早く魔熊を仕留めてください」

「でもメルちゃんだけで大熊は危険だよ」

「大丈夫です。私はこの第1部隊の隊……、副隊長ですよ」

「……今、隊長って言いそうになったよね?」


 ナディックさんは心配そうな眼差しを残し、【猛源魔熊】へと方向を変えた。


 進化形二頭に連携されたら私達に勝ち目はない。

 一頭ずつ各個撃破。これしかないだろう。

 一対一ならナディックさんは絶対に勝てる。あの人はそれに特化した能力だ。とはいえ、生命力の高い【猛源大熊】を倒し切るのは時間を要するはず。

 なのでまず魔熊を片付けてもらう。

 それまで私が大熊の動きを止めればいい。

 簡単じゃないけど、他に選択肢はない!

 両手の円月輪を同時に放った。


 ギュルルルルル――――ッ!


 二つの刃が、魔熊の方に向かおうとしていた大熊を直撃。

 行かせない。私がお前の相手だ。

 と強がってみても、厳しい状況に変わりはないな。今の攻撃も体長二十五メートルの巨躯にはさほどダメージになっていない。

 ああ、でも私を標的に定めてくれたか。

 このマナの感じ……、弱そうな私をさっさと始末しよう、といったところか。だが、そっちも簡単にいくと思うなよ。

 私の能力は援護特化。足止めも得意だ。


 もう一度円月輪を投げようとしたその時、【猛源大熊】がブオンと前脚を振った。

 発生した炎の波が押し寄せる。


 これは〈火薙ぎ〉だね。問題ない。


「水霊よ、凍てつく壁となって私を守れ。〈アイスウォール〉」


 私の出した氷の壁が、迫りくる炎を食い止めた。

 遠、中距離技は対応できる。気を付けなきゃいけないのは〈牙〉と〈爪〉だ。接近させないようにしないと。

 あの熊に触れられるのは本当に危険。

 改めて投擲体勢に。


「水霊よ、雷霊よ、円月輪に宿れ」


 放った瞬間、大熊は前脚で地面を叩いた。

 ドドンと大地から土壁が出現。


 それも問題ない。私の円月輪は、速度では矢や銃弾に劣るが、自在にコントロールできるのが強み。


 二つの円盤はそれぞれ土壁の異なるサイドを迂回した。


 よし、〈双奏氷雷月〉発動!

 飛行中の円月輪の一方が冷気を、もう一方が雷を帯びる。


 パキキキキキ――ンッ!

 バチバチバチバチッッ!


 双輪は大熊の周囲を旋回。

 巨体を凍りつかせ、感電させていく。


 私の専攻属性は水と雷。二属性を活かした戦技〈双奏氷雷月〉は、標的を停止させるのに特化した技だ。

 ナディックさんが来てくれるまで、これで時間を稼ぐ!

 ちらりと彼の方に視線を移した。


 少し離れた戦場で、【猛源魔熊】を翻弄するように稲妻が舞っている。

 ナディックさんの専攻は雷と風。強化戦技〈ハイスピード〉で高速移動しつつ、〈サンダーウエポン〉により雷を纏わせた剣で〈雷撃斬〉を放つ。

 この速攻二重電撃があの人のスタイル。光のように速く、瞬く間に相手を倒してしまうことから閃光の騎士と呼ばれるようになった。

 さらに、強敵に対しては、ナディックさんはもう一つの属性を使う。

 風魔法〈風枷〉でターゲットの動きを鈍らせ、速度差をより大きくするんだ。下剋上戦のようなタイマンじゃなかなか勝てる人はいない。

 特殊な能力を持っていたり、群を抜いてマナが多かったりしない限りね。


 魔熊も豊富なマナで神技を連発してくるけど、あの程度なら心配ない。

 ナディックさんが仕留めるのは時間の問題だろう。

 それまで、何としても私は持ち堪える!


 視線を【猛源大熊】に戻した。

 あ、そろそろ円月輪のマナを補充しないと。

 ……大丈夫、大熊はしっかり封じられてる。

 マナの補充は手元に呼び戻す必要があるが、ほんの数秒で済む。

 と片方の円月輪を手に取った瞬間だった。


 直立で固まっていた【猛源大熊】が突然動き出し、両前脚を地面に下ろした。

 四足歩行になるや、マナを脚に集中。

 力いっぱい大地を蹴った。


 しまった! チャージのタイミングを狙われていた!

 この熊! ガタイに似合わず策士か!


 気付いた時には、もう大熊は目の前に。

 巨大な爪が振り上げられる。


 魔法は間に合わない!

 〈全〉で凌……、げない! 死ぬ!


 向かってくる爪がスローモーションで見えた。

 ……え、本当にちょっとゆっくりになってない?


 そう思った次の瞬間、体がふわりと浮き上がった。


「はぁ、セーフ……」


 ナディックさんが私の腰に手を回して抱きかかえていた。

 即座に、逆の手に持った剣で〈雷撃斬〉を放つ。

 大熊は後方に飛び退いた。


 ……さっきのはナディックさんの〈風枷〉だったのか。

 ……もう魔熊が倒れてる。急いでくれたんだ。

 ってこの体勢は!

 ダメだっ!


「な! 何! 触ってるんですか! 離してください!」

「助けてあげたのに、ひどくない……?」

「いいから離して!」


 やばいっ! 顔が熱い!

 赤面を抑えられない!


「水霊! 私の顔に宿れ!」

「どうして顔に水霊を……?」

「うるさいですね! 早く大熊を討伐しますよ!」


 ……ふー、危ないところだった。

 ナディックさんが鈍感でよかったよ。

 いや、よくはないけど、今はまだ……。

 何か秘策を思いつくまでは……。

 ……そもそも、悪いのはこの人だ。


 ナディックさん……。

 なぜ年上の女性にしか興味ないんです?


 あなたより二つも下の私は、どうすればいいんですか?

メルーダはこんな感じになりました。

次回は、暗黒お姉さんです。


評価、ブックマーク、いいね、感想、誤字報告、本当に有難うございます。

投稿開始から4か月が経ちました。これからも頑張ります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。





書籍化しました。なろう版へはこちらから。
↓をクリックで入れます。




陰キャ令嬢が沼の魔女に。

社交界で沼の魔女と呼ばれていた貴族令嬢、魔法留学して実際に沼の魔女になる。~私が帰国しないと王国が滅ぶそうです~








強化人間になってしまった聖女のお話です。
↓をクリックで入れます。




腕力で世界を救います。

強化聖女~あの聖女の魔力には武神が宿っている~








こちらも連載中の小説です。書籍化します。
↓をクリックで入れます。




事故で戦場に転送されたメイドが終末戦争に臨みます。

MAIDes/メイデス ~メイド、地獄の戦場に転送される。固有のゴミ収集魔法で最弱クラスのまま人類最強に。~




書籍 コミック


3hbl4jtqk1radwerd2o1iv1930e9_1c49_dw_kf_cj5r.jpg

hdn2dc7agmoaltl6jtxqjvgo5bba_f_dw_kf_blov.jpg

1x9l7pylfp8abnr676xnsfwlsw0_4y2_dw_kf_a08x.jpg

9gvqm8mmf2o1a9jkfvge621c81ug_26y_dw_jr_aen2.jpg

m7nn92h5f8ebi052oe6mh034sb_yvi_dw_jr_8o7n.jpg


↓をクリックでコミック試し読みページへ。


go8xdshiij1ma0s9l67s9qfxdyan_e5q_dw_dw_8i5g.jpg



以下、ジャガ剣関連の小説です。

コルルカが主人公です。
↓をクリックで入れます。




コルルカの奮闘を描いた物語。

身長141センチで成長が止まった私、騎士として生きるために防御特化型になってみた。




トレミナのお母さんが主人公です。
↓をクリックで入れます。




トレミナのルーツを描いた物語。

婚約破棄された没落貴族の私が、元婚約者にざまぁみろと言って、王国滅亡の危機を逃れ、ごくありふれた幸せを手に入れるまで。



― 新着の感想 ―
[良い点] (リア充でなによりです…)爆ぜなさいそこのカップルさん…
[一言] お。ナディックさん…モテてるやん!(笑) 指揮官向きのタイプでは無いのかな。 こんな危機一髪の場面で助けられたら…そりゃ惚れますわな。 しかも初めてじゃないと見た!(笑) ナディックさん、年…
[一言] ナディックは爆ぜればいいと思った
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ