105 対熊神戦争 [セファリス] 破壊可能
遠征の準備をしていた一昨日、リオリッタさんからこっそり一冊の本を渡された。ここを見ろ、と言わんばかりに角の折られたページが。
『世界でも極めて貴重な鉱石の一つに、神水晶ゴッドクリスタルがある。神獣の【水晶輝■】とその進化形【水晶神■】からのみ取れる鉱石だ。
見た目の美しさもさることながら、貴重と言われる所以はその強度にある。加工が困難なほど硬質なのだが、マナを通すことでさらに硬くなる。
もし一握りでもこの宝石を採取できたなら、あなたの人生は一変するだろう。
しかし、私は断言できる。
生きた神獣の体から、とりわけ戦闘態勢の神獣の体から、神水晶を削り取ることは絶対に無理だと。その状態の神水晶は破壊不可能である。
もう一度、自信を持って断言しておこう。
臨戦状態にある神獣のゴッドクリスタルを破壊することは、絶対に不可能だ。
宝石大全集
著 鉱石ハンター ダグネモ・ルッカー』
……ダグネモ。破壊、可能だったわよ。
さっきのはきっと全盛り全力の〈トレミナボールⅡ〉ね。
とんでもない威力だわ……。
世界の共通認識で壊せないと思われているものを破壊してしまった。
【水晶輝熊】の方もびっくりしてたじゃない。「マジ? これ、欠けんの?」って顔だったわよ。
……そういえばライさん、〈合〉での手合わせの時、〈Ⅱ〉は絶対に使わないようにって言ってたっけ。納得がいった……。
戦闘前は欲望に目が眩んで、私がモぐって言っちゃったけど、冷静に考えてみれば私には無理だったわ。
渡された本にはリオリッタさんのメモが挟んであった。
『一握りでいいから、見つからないようにこっそりゴッドクリスタルを持って帰ってきて』
今のボールで、一握り以上は欠けたわよね?
……後で拾いに行こうっと。
それはいいとして、私は一刻も早くトレミナの加勢に向かわなきゃ。
あの【水晶輝熊】はたぶん、クリスタルのない部分の防御力も高い。トレミナでも五分で倒すのはきついと思う。
リオリッタさんのメモには続きがあったの。
『ライが見てきてくれたんだけど、今回の【水晶輝熊】は最終進化の一歩手前じゃないか、って言うのよ。くれぐれも用心して。
下剋上せずにランキングが上がるのは嫌よ。
あとできれば、一握り。くれぐれもお願いね』
心配だけど大金も欲しい、という意思がひしひしと伝わってきた。どうしようもない人だわ。彼女に見込まれた私も私だけど……。
ライさんの見立て通りなら、あのボス熊はもうすぐ【水晶神熊】になる。
名称に神が入る最終進化形はそれまでと別格。ドラグセンの五竜みたいにね。進化されたら取り返しがつかない。
そんなことになる前に倒してしまわないと!
トレミナ! お姉ちゃん急ぐからね!
「だからさっさとかかって来なさいよ」
瞬く間に【猛源大熊】を仕留めた私を警戒するように、四頭の十五メートル級熊が様子を窺っていた。
私の纏っている〈合〉マナの力強さは感じているだろうから、無理もないけど。
もうこっちから行くわよ!
ジャンプすると空中の足場を蹴ってさらに高く跳んだ。
そ、これは〈ステップ〉の魔法。トレミナと同じく、私も装備をバージョンアップすることにした。
付与したのは、すね当てに〈ステップ〉。
ともう一つ。小手に攻撃強化の〈ハイアタック〉を付けたわ。時間制で単発強化の〈オーバーアタック〉より上がり幅は劣るけど、私のマナじゃ毎回かけるのは無理。
それに、今の私ならこれで充分よ。
ガシャ――――ン!
角熊が出した氷の壁を叩き割った。
二度宙を蹴って熊の頭を飛び越える。
背後をとったわ! せいっ!
ズバッッ!
首筋を斬りつけ、一撃で【猛源角熊】を仕留めた。
ぐらりと傾くその体を足場に、即座にジャンプ。
次は魔熊ね!
まずはこれ!
左の魔剣で雷の波動を放つ。
右の魔剣で爆破加速し、動きの止まった熊の胸に飛びこんだ。的確に心臓を狙い、こちらも一撃で。
よっしゃ! あと二頭、ってヤバッ!
毒熊が私に向かってカパッと口を開いた。
ボワァァ――――!
これは〈毒激波〉っ!
ど! 毒がー! 死ぬーっ!
……らら? 何ともないわね。
さすが〈合〉マナだわ。周囲の【猛源熊】達はバタバタ倒れてるのに。
って何仲間を巻き添えにしてんのよ! 私一人をターゲッティングすればいいだけでしょ!
風上に置いたら危険な熊だし、熊の風上にも置けない熊だわ!
許せない!
ズッバ――――――――ッ!
右肩から左脇腹にかけて、双剣で一気に斬り裂いた。
毒熊が絶命したのを確認し、一つ息をつく。
残すは甲熊ね。
……甲熊。育てれば【水晶輝熊】に進化するかしら?
いやいや、何十年かかるのよ。
急いでるんだった。
地面を蹴ると同時に爆破加速。瞬時に距離を詰め、鱗のない箇所をザクザクッと斬って【猛源甲熊】を沈めた。
これで進化形全種コンプリートね。
キルテナの方は……。何やってるのよあいつ……。
体長四十メートルの巨竜は、周りを五頭の熊にがっちり固められている。
仕方ない、手伝ってやるか。
駆け出そうとした時、キルテナがこちらを睨んだ。
来るな、って? ほんと、意地っぱりね。
じゃ、任せるわよ。
同格とはいえ、キルテナは二次進化形並みに強い。近頃はガツガツ稀少肉を食べてるし。
まあ心配ないでしょ。
あとの二頭は、っと。
あ……、軍勢の中に入っていっちゃってる。
もう第1部隊の人達にお願いしてもいいよね。うん、あの人達ならきっと大丈夫。
よし、私の持ち場は完了。
トレミナ! 今からお姉ちゃんが行くわよ!
何気にセファリス視点は初めてです。
身長について、学年末トーナメント時を基準に設定しているのですが、
当時のセファリスは152センチ。
現在は成長期で150台後半くらいかと。
トレミナは当時147で、今は150くらいです。
セファリスは結構伸びそうですが、トレミナはあまり高くなるイメージではないです。よね?
チェルシャ(155センチ)よりは高くなりそうですが。
これまで登場している女子では、それほど高身長のキャラはいません。
一番高いのはレゼイユ172センチです。
逆コルルカのようなキャラもありかもしれません。
なお、コルルカは141センチ固定に。
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