104 対熊神戦争 もう一つの円月輪
私とセファリスは遠征前から〈合〉の練習を重ねてきた。
離れた状態で〈合〉のマナを維持するには、それぞれ〈離〉で相手のマナもキープする必要がある。イメージ的には二人分〈闘〉を保持する感じかな。
練習の結果、戦いでも使えるくらいには仕上がった。
戦闘の激しさで結構幅があるんだけど、一回のチャージで五分程度はもつと思う。
「トレミナ、チャージよ!」
「はい、チャ――ジ」
お姉ちゃんの手を取ってマナを合わせた。
ところで私達、この〈合〉状態での実戦訓練も積んでおいたんだ。二人で手合わせしたのはもちろん、ライさんも本気で相手になってくれた。
つまり、私達は五分間、ライさんやリズテレス姫と同じくらい強くなる。
「よし! じゃ行ってくる!」
強化戦技を使用しながら駆け出したセファリス。
瞬く間に前を走っていた第1部隊を追い抜く。
そのまま熊神の群れに突っこんだ。
ザスザスザスザスザスッ――――!
軍勢を裂くように斬り進み、進化形十二頭が立ち並ぶ所に到達。
体長二十五メートルの【猛源大熊】に飛びかかった。
呆気に取られて足を止めていた第1部隊は、我に返って再び走り出した。
「また抜けがけか! 負けてられん! 私も行くぞ!」
ドラゴンに戻ったキルテナも、ドスドスと地面を揺らして駆けていく。
第1部隊を抜き去り、こちらもまるで熊神など見えていないかの如く群れに突進。
ドッゴォ――――――――ッ!
熊達を弾き飛ばしながらぐんぐん進む。
呆然と眺めていた第1部隊だが、やがて再々始動。
大雑把でデリカシーのない一人と一頭ですみません。
さて、私も行かないと。
時間を無駄にはできない。
私はお邪魔にならないように空から行きますね。
〈ステップ〉を足場に宙を駆け上る。
熊神軍の上空に差し掛かった頃、ちょうど第1部隊が戦闘を開始した。
メルーダさん一人を後衛に、八人の騎士が壁を作る。ナディックさんは自由に動き回れる遊撃手みたい。
全員がゲイン三種に〈トレミナゲイン〉まで使っているから鉄壁の安定感だ。
いや、鉄壁なのは強化のおかげだけじゃない。このチーム、すごく連携が取れてる。
メルーダさんが逐一指示を出し、その声に八人はしっかり(マナを集中させて)耳を傾けてるね。副隊長の的確な指示により、熊達は全くつけいる隙がない。
……これが指揮官の力。ミラーテさんの隊とは大違いだよ。
それにメルーダさんはちゃんと後衛の役割も果たしている。
彼女の円形の武器、何て名前だっけ……、あ、円月輪だ。
あれを二つ投げて味方を援護してるね。
だけどあの円月輪、生きているみたいに飛ぶな。メルーダさん、きっちりした性格なだけにマナのコントロールも緻密だ。
加えてこの部隊の強みは、自由自在に動けるナディックさんがいること。
メルーダさんが状況を読み、ナディックさんが事前に危険の芽を摘む。
「二時の方角です、隊長。済んだら次は十一時の辺りを」
「……メルちゃん、ほんとに俺を隊長って思ってる?」
ナディックさん、どうやらメルーダさんはあなたのことをもう一つの円月輪と見ているようです。
実際には、円月輪よりずっと有能だけど。
元ナンバーズなだけあって相当な実力だし、ものすごく速い。たぶんスピード強化の戦技を追加で使ってると思うな。
この第1部隊は本当に守護神獣級だ。
一般的な野良神クラスの【猛源熊】なら、何百頭でも安心して任せられる。
えーと、他の皆はどうかな?
ロサルカさんは軍から少し離れた場所で【災禍怨熊】と戦闘中。
瘴気が私達に影響しないように引き離してくれたんだ。
キルテナも進化形と戦い始めたね。
あ、お姉ちゃん、もう【猛源大熊】を倒してるじゃない。こっちも二人(一頭と一人)に任せて大丈夫だね。
じゃあ、私は【水晶輝熊】に専念だ。
実は今回の遠征に当たり、装備を少し変更することにした。
元々、小手は両手につけていて、〈オーバーアタック〉はその右側に付与されていたんだ。つまり左の小手は空いていたので、〈プラスシールド〉をこっちに移すことにしたよ。
そう、盾を持つのをやめた。最大防御力は下がるけど、以前より〈プラスシールド〉は使いやすくなった。
空いた左手に装備するのは拳銃か、マナ玉だ。
早速私は掌にボールを作成。
空中から【水晶輝熊】に狙いを定める。
あちらも再び〈雷壁〉を展開した。
今度のはさっきとは段違いの威力だよ。
纏っているマナが違うし、ゲインも全部使ってる。
そして、仕上げの〈オーバーアタック〉。
いくよ、〈トレミナボールⅡ〉発射。
マナ玉は易々と雷の障壁を貫通した。
ほとんど勢いを削がれることなく巨大熊へ。
しかし、――――。
パキィィ……。
ガードした前脚の水晶をわずかに欠けさせただけで、渾身の一球は消滅。
え、私の全力投球がその程度?
……この神獣、五分で倒すのは無理かも。
と思っていると、【水晶輝熊】は信じられないものでも見るように防御した前脚を凝視。
それから視線を上げ、私を鋭く睨みつけた。
どうして? ちょっと欠けただけなのに。
書籍化に伴い、色々と先送りにしていたことも決めないといけなくなりました。
ジル先生、メガネをかけます。
イメージは、できる秘書(実は結構庶民的)。身長168センチ、銀髪(後ろで結い上げ)。ブルーアイ。
結構ベタですが、ベタが一番とも言いますし。
その他も、様々な人のイメージが合わさって、
きっと素敵なキャラが誕生すると思います。










