103 対熊神戦争 分担
「まずは展開するとしましょう」
ロサルカさんは両手を空に向けて掲げた。
「闇霊よ、私の世界に。〈暗黒領域〉」
彼女の手から黒い霧が吹き出す。
サアァァ――――――――……。
霧は空気に溶けるようにすぐに見えなくなった。
しばらくして熊神達がざわめき始める。
並んでいる端から端までくまなくだ。熊だけど。
どうやら行き渡ったみたい。
広域魔法〈暗黒領域〉について、事前にロサルカさんから聞いていた。
戦場中に広く薄く闇霊を撒布する魔法で、敵は少しずつマナを奪われていく。
これがロサルカさんがいると有利と言った理由。
今は戦力が拮抗していても、時間の経過と共に相手の総力は確実に下がっていくよ。闇はかなり薄めてあって、奪うマナは本当にちょっとずつだ。大型の神獣には気にならない程度だけど、普通の【猛源熊】にとっては結構痛い。
もちろん領域内にいても私達はマナを吸われないよ。
でも……。
「ずっと全身で暗黒姉ちゃんのマナを感じてる……。うぅ、ぞくぞくする」
キルテナがブルッと体を震えさせた。
そうなんだよね。私達にとっても結構なダメージな気が。
ぞくぞくを吹き飛ばすように、セファリスが纏うマナを増やした。
「あの【水晶輝熊】は私がやるわ」
急にどうしたの?
お姉ちゃんにあの神獣は……、ああ、目の色が変わってる。目的は熊の体に付いてる水晶だね。
【水晶輝熊】の巨体にはキラキラ光る鉱石が生えている。
あれ、すごく価値があるらしくて、倒して収穫できれば国家レベルで財政が潤うとか。言ってみれば、歩く巨大宝石。
なので近隣諸国は、過去に何度も軍や守護神獣を差し向けてるよ。が、ことごとく返り討ち。あのボス熊はそれくらい強い。
最近、ドラグセンも調査に入ったそうな。
察知したコーネルキアが先手を取った形だ。
「私がモいでモいでモギまくってやるわ!」
だからお姉ちゃんには厳しいって。マナの感じで分かるでしょ。
ダメだ、欲望に目が眩んでる。モいでも国家に入るよ。
すると、ロサルカさんが武器の棒で、セファリスの兜を軽くコツンと。
「あなたには無理ですよ。この中で【水晶輝熊】を倒し切る攻撃力を持っているのはトレミナさんだけです。さ、私はもう一頭の上位神獣を仕留めるとしましょうか」
そう言うと、棒を闇の大鎌に変化させた。
次いで闇のオーラで体を覆い、宙へと舞い上がる。
ちょっと待ってください。
「ロサルカさん、それ、〈闇の護り〉ですよね? 空は飛べないと言ってませんでしたか?」
暗黒お姉さん、空中でピタリと停止する。
私の顔を見て、悪びれる様子もなく微笑んだ。
「あれは嘘でした。正式名称は〈魔王戦衣〉と申しまして、自在に形を変えられ、空も飛べます」
名前まで偽っていたとは。この人はまったく……。
だったら私の方も遠慮しませんよ。
ロサルカさんの獲物は私がいただきます。
やっぱり【災禍怨熊】は早く倒しておかないと、戦う皆が危険だ。
〈トレミナボールⅡ〉発射。
……あれ?
手の中にマナ玉を作ると同時に、【水晶輝熊】の方が動いた。
右前脚を前方にかざす。
投げた瞬間、熊神全軍を守るように巨大な雷の壁が出現していた。
シュパッ! ドッシュ――――――――ッ!
バチチチチッ! シュ――――……。
ボールは壁を突破したものの、大きく減速。
【災禍怨熊】に受け止められる。
熊族の神技は、〈牙〉、〈爪〉、〈激波〉、〈壁〉、〈薙ぎ〉。神獣の中でもとてもバランスのいい能力なんだよね。
特に防御の〈壁〉を持っている種族は少ない。〈雷壁〉、思ったより強固だね。これは〈オーバーアタック〉を使っても十五メートル級にさえ致命傷は無理かも。
それに、どうやら〈トレミナボールⅡ〉は警戒されていた模様。先発隊の熊達から聞いたのかな。
遠距離で可能な限り倒したかったんだけど。
私、頑張るって言っちゃったし。
「ふふ、簡単にはいかないようですね。やはり各自で撃破するしかありませんよ。トレミナ代表は一番厄介な宝石熊さんを仕留めてくだされば充分です。……進軍を開始しましたね。では、行って参ります」
こちらへ前進し始めた熊達を確認し、ロサルカさんも発進。
私が振り向くと、他のメンバーは頷きを返してきた。
それぞれやるべきことが分かってるみたい。
第1部隊の指揮官、メルーダさんがさっと一歩前へ。
「私の隊は【猛源熊】の相手ですね。少し多いですが何とかなるでしょう。ほら、行きますよ、隊長」
彼女はナディックさんと隊を率いて駆け出した。
もう隊長もメルーダさんでよくないかな。本当に頼もしい人だ。
心配なのはこっちの二人なんだよね。
「私達は進化形の十二頭だな。任せておけ、楽勝だ!」
いやいや、そうは言ってもキルテナ。
サイズは違うけど【世界樹大竜】のキルテナと同格が十二頭だよ。
「強がってんじゃないわよ。どう考えてもきついでしょ。それから、……トレミナもかなりきついわね?」
私の目を覗きこむセファリス。お見通しよ、といった顔だ。
そう、元々ロサルカさんと二人で当たる予定だった【水晶輝熊】。実は私だけじゃ相当厳しい。
すると、お姉ちゃんは握手を求めるように手を出した。
「だったら、アレを使うしかないでしょ。姉妹の絆が試される時よ」
だね、こういう事態も想定して私達がセットで来たんだから。
マナを合わせて互いを強化する〈合〉だ。
何気に竜よりスキルに恵まれている熊だったりします。
他の神獣とかぶっているものもあります。
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