102 対熊神戦争 開戦
形勢は一気に不利になった。
反対されても仕方ないし、それを覚悟していた。
ところが、セファリス、キルテナ、ロサルカさんの顔は途端に生き生きと。
え、どうして?
「よっしゃ! 燃えるー! やってやるわ!」
「熊共に竜族の優位を見せつけてやろう!」
「ふふ、やはりこの作戦に参加して正解でした。昂ります」
……好戦的なメンバーでよかった。
一方、ナディックさんはスーッと後ろに下がり、副隊長の女性の背後へ。
「俺達は遠慮しておこうかな……。ナンバーズみたいな怪物でもないし……」
あなたも元ナンバーズじゃないですか。
すると副隊長の彼女は、肩に置かれたナディックさんの手を払った。
「いつも言ってますよね、隊長。汚らわしいので触れないでください、と」
「……メルちゃん、ほんとに俺を隊長と思ってる?」
「こういう時のための私達です。トレミナさん、私の隊も協力しますよ」
「……今、私の隊って言ったよね?」
ナディックさん、女性陣皆からそんな風に扱われているんですか?
ランキング四十五位のメルーダさんはとてもきっちりした性格で、鎧の着こなしにもそれが現れている。順位上位者が必ず指揮能力に優れているはずもなく、この隊の指揮官は彼女らしい。
メルーダさんの他にも、第一部隊は全員が五百位以内。隊長クラスの実力者だけで構成されている。もう皆、〈トレミナゲイン〉も習得しているよ。
リズテレス姫が言うところの、守護神獣級の部隊になるね。
あれ? もしかして、そこまで不利じゃないかも……?
私の考えを読んだロサルカさんがまた、ふふ、と微笑んだ。
「元々、こちらの戦力には余裕を持たせてありましたからね。敵が追いついてきたというだけの話です。戦力で拮抗しているなら、断然こちらが有利ですよ。私がいるのですから」
そうでした。期待していますよ、暗黒お姉さん。
ちょうど到着したみたい。
遠くの森の上に、熊の頭が二つ見えた。
程なく、森の中から体長約八メートルの【猛源熊】が続々と。
その数、二百頭超。
さらに、体長約二十五メートルの大熊、十五メートル級の魔熊、角熊、甲熊、毒熊が合わせて十二頭出てきた。
最後に体長五十メートルを超える【水晶輝熊】と【災禍怨熊】が木々を薙ぎ倒しながら出現。
私達の前に、巨大熊の軍団がずらりと並んだ。
敵ながら、壮観、という他ない。
セドルドの町どころか、国をも滅ぼせるだろう。この規模の軍団が相手の戦闘は、もう戦争と言っていいと思う。熊神戦争だ。
それにしても上位神獣のあの二頭、情報通り、守護神獣に勝るとも劣らぬマナ量だね。
見つめていると、【災禍怨熊】の方がブオンと前脚を振った。
まだかなり距離があるのに早速攻撃を。
瘴気に満ちたマナが飛んでくる。ここはリボルバーの風霊弾で……、いや、お姉さんが何とかしてくれるみたい。
「闇霊よ、周囲を巡って守ってください。〈闇旋結界〉」
ロサルカさんの出した闇霊が、竜巻を作るように私達の周りを翔ける。
直後に瘴気の波が押し寄せた。
この結界魔法なら大丈夫だ。
闇霊が毒属性ごとマナを吸収してくれてる。
……結界外の草花や木が一瞬で枯れていく。
これが上位神獣の毒。きっとマナを使えない普通の人も、この瘴気に触れたら同じ結果になる。前脚の一振りでセドルドは死の町に変わっちゃう。
あの【災禍怨熊】は、絶対にここで倒さないと。
「あら、トレミナ代表、闘志が漲っていますね」
ロサルカさん、茶化すのはやめてください。
「これは失礼。ですが、あの邪悪な熊さんは私向きですよ。ふふ、毒よりずっと恐ろしいもの、深く濃い闇を教えてあげましょう」
突然ですが、重大発表があります。
「ジャガイモ農家の村娘、剣神と謳われるまで。」
書籍化、コミカライズが決まりました。
間違いなく、今これをお読みくださっている皆さんのおかげです。
皆さんお一人お一人のおかげで、
ここに辿り着くことができました。
本当に、本当に、有難うございます。
私にとって初の書籍化。感無量です。
これからも末永く応援していただけると嬉しいです。
よろしくお願いします。