101 退けない戦い
私とロサルカさん、セファリス、キルテナ、の先発隊四人は熊神の拠点を目指して走っていた。
これに先立ち、セドルドの町で物資を下してきた。
キルテナが体長四十メートルの竜に戻ると、町の皆は目を丸くしたよ。一番驚いていたのはケイアンさんかな。
「トレミナ様、皆様、私達を助けにきてくださり、誠にありがとうございます。どうかこれまでの無礼をお許しください」
ケイトさんが言うには、
「わしの息子は生粋の小物じゃ。ほうっておいて構わん」
とのこと。それから彼女は私達のことも心配してくれた。
「知っておるじゃろうが、熊神共のボスは本当に強い。くれぐれも気を付けてな。トレミナちゃん達が無事に戻ってこれるよう、町の皆で祈っておるよ。さっさと祈らんか! こんのバカ息子!」
「はいっ! ママ! 祈ります!」
何だか楽しい親子だ。二人も町の人達も絶対に守らなきゃいけない。
セドルドに被害が及ばないように、私達は迎撃に向かうことにした。
というわけで、現在四人で走っている。
拠点に着く前に、おそらく熊神軍とぶつかるはず。
まあ、それより先に……、あ、ちょうど来たね。
馬で駆けてくる騎士達が見えた。
先頭にいるのは閃光の騎士ナディックさんだ。
彼率いる第1部隊は、私達より数日早く現地入りしていた。熊神の群れを監視し、戦闘ではサポートするのが任務。
彼ら十人と、兎神の群れを監視してくれている第2部隊の十人、そして私達四人を合わせた二十四人が、今回の先発隊全メンバーということになる。
この遠征は国の肝入りなので、実力一位と二位の部隊がついてくれた。
馬から降りたナディックさんは、その男前の顔に笑みを浮かべる。
同じ男前でも、アルゼオン王のような雄々しさはなく、クランツ先輩のような爽やかさも一切ない。何と言えばいいか分からないけど、すごく薄っぺらい。
「やあ、トレミナちゃん。今日もどんぐりみたいで可愛いね。ちょっと困った状況になってるよ」
「相変わらず軽いですね。ヘラヘラせずに早く報告してください」
これを言ったのは私じゃなくロサルカさん。冷たい眼差しだ。
「ピリピリしないでよ、死神さん。君、結構俺のタイプなんだから。あと十年くらいすればだけど」
死神のお姉さんは無言でスーッと闇の鎌を出した。
仲良くしてください。
「それでナディックさん、困った状況とは?」
「熊神達の群れなんだけどね……」
この空白地帯には、熊と兎の二大勢力以外にも多くの群れが存在する。
また、【猛源熊】だけでもいくつもの独立した集団に分かれていた。それらが集結し、一つの巨大な群れになったという。
率いているのは二大勢力の片割れだった群れのボス、【水晶輝熊】だ。ケイトさんが本当に強いと言っただけあって、野良神としては抜きん出ている。甲熊から二次進化した上位種で、情報では並の守護神獣を遥かに凌ぐらしい。
それでも、私とロサルカさんの二人で当たれば何とかなる予定だったんだよね。残りの【猛源熊】とその進化形六頭(角熊は倒したので五頭)を、セファリスとキルテナ、第1部隊に受け持ってもらう計画でいた。
これが事前に決めた段取り。
熊達の大集結により、事情は変わった。
熊神軍に【災禍怨熊】なる上位種(毒熊二次進化形)が加わり、さらに【猛源熊】が約百五十頭、この進化形七頭が合流した。
「想定していた戦力の倍じゃない!」
報告を聞いてセファリスが一早く叫んだ。
そう、とても困った状況になった。
ナディックさん、どうしてこんなことに?
「熊達が集まり出したのは、俺の部隊が監視を始めた直後からだよ。第2からの連絡じゃ、兎達も殺気立ってるらしい。たぶんだけど、二大勢力の雌雄を決する時が来たんじゃないかな」
なるほど、私達はたまたま大決戦の直前に来てしまったと。
……なんて間の悪い。
察するに、数ある【猛源熊】の群れはずっと前に【水晶輝熊】の団から分かれたやつみたいだね。大一番に備えて呼び戻したんだ。
「どうします? トレミナ代表。ここまで事態が急変すれば、退くのもやむなしかと思いますが」
ロサルカさんが私の顔を覗きこんできた。
確かに、敵が二倍になったんだから普通ならそうするべきだよ。
でも、ここで私達が逃げたら、きっと熊神軍はそのままセドルドの町に直行する。ひとたまりもないだろう。
ようやく安全な暮らしができると喜んでいた町の人達。
愉快で楽しいケイト親子。
さっき別れたばかりの皆の顔が頭に浮かんだ。
ここは……、退けない。
「戦おう。厳しいだろうけど、私が頑張るから」
今日から新たな百話、私も頑張ります。
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