100 先発隊代表戦
やる気なさげに戦いを眺めていたロサルカさんの顔が輝いた。
何か思いついたらしい。
「あれは言わば、熊神達の先発隊です」
はい、そうなりますね。
「角熊はそのリーダー。でしたら、先発隊を率いる者同士で決着をつけるのがよろしいのではないですか、トレミナ代表」
そうきましたか。狙いは分かっていますよ。
「圧倒的な力を見せつけて倒し、一般熊に本隊を呼んできてもらう計画ですね。ですが、あまり私の柄じゃありません」
「ええ。しかし、力の差があるからといたぶるのも趣味ではないですよね」
確かに、全く趣味じゃありません。
しょうがない、やりますよ。
私は【猛源角熊】に向かって掌を合わせた。
この動作にケイトさんが。
「それは他の騎士もやっておったの。命への感謝じゃったか。じゃが、仕留めた後か、あるいはその直前にするものじゃなかったかね?」
「はい、今から仕留めます」
「こんなに距離があるが……」
私達のいるセドルドの壁から熊神軍まで、四、五百メートルほど離れている。
まあ、見ていてください。
私は纏うマナを〈闘〉に。
熊達の意識がこちらに集中するのが伝わってきた。
手の中にマナ玉を作る。
それを持つ手の側にもマナを準備し、両方を接合。
自警団の団長は大きく目を見開いていた。
えっと、どれに驚いてるんだろう?
私自身のマナ量? それともボールのマナ量? やっぱりボールと手のマナをくっつけたことかな?
「な、なんて〈闘〉じゃ……。ボールにも信じられんほどのマナが込められておる……。それに、なぜ独立したマナ同士がつながっておるんじゃ?」
あ、全部でしたか。
「〈トレミナボール〉さんの認識を欺いてるんですよ」
「言ってることが全然理解できん……。さすが別格の主力じゃ!」
するとロサルカさんが苦笑い。
「誰にも理解できませんから。ではトレミナ代表、お願いします」
了解しました。
と投擲のフォームを取った後に、注意事項に気付いた。
「投げる瞬間に衝撃波が出ますので気を付けてください」
注意喚起もしたし、これで大丈夫。
じゃ改めて。
〈トレミナボールⅡ〉発射。
シュパッ! ドッシュ――――――――ッ!
発生した波動に、ケイトさんは耐えたが、ケイアンさんは後ろに一メートルくらい飛ばされる。
母が息子を助け起こしたちょうどその時、
ズゥゥン……。
遠くで体長約十五メートルの角熊が大地に崩れた。
私の投げたマナ玉は銃弾より速く飛び、【猛源角熊】の心臓を正確に貫いた。
苦しませることはなかったと思う。
もう一度静かに手を合わせた。
「……これほど恐ろしい球を持っておったとは。化け物達のリーダーなわけじゃ、トレミナ代表ちゃん」
ケイトさん、トレミナ代表ちゃんって……。私も今日で十二歳になったのでちゃん付けはご遠慮願いたいです。
「トレミナ代表はまだまだどんぐりで通りますよ」
通りたくないです、ロサルカさん。
隊長が一瞬で絶命するのを目の当たりにした熊達は、くるりと回れ右。
四頭の【猛源熊】が大慌てで逃げていく。
そうだ、確認しておきたいことがあったんだ。
壁を下りた私は平原を突っ切り、熊神の一頭に追いついた。
その後脚をガシッと掴む。
熊、硬直。
まだ〈闘〉のままだから振り払うのは無理だよ。
ちょっとだけ我慢してね。
……んー、……ダメか。
「何やってるのよ、トレミナ」
セファリスが不思議そうに首を傾げる。
「精神をつなげられないかと思って。相手が心を閉ざしていると無理みたい」
「その状況で心開けって方が無理だろ……」
〈竜闘武装〉を解いたキルテナも小走りでやって来ていた。
それもそうか。リズテレス姫の理事長室にあった木彫りの熊(向こうの世界の伝統的な置き物らしい)みたいに固まってるもんね。
「あれ? じゃあキルテナは私に心を開いてくれているの?」
「バッ! バカッ! トレミナとはたまたま気が合うだけだよ!」
金髪のドラゴン少女は顔を赤くして行ってしまった。
彼女を見送りながらセファリスが笑みをこぼす。
「あいつ、自覚ないのかしらね。物資運んで、私達と一緒に戦って、やってることはもう完全にコーネルキアの守護神獣だってのに。ま、素直になれるまで待ってあげましょ」
おお、珍しくお姉ちゃんがお姉ちゃんらしいことを。
100話記念 いいねランキング発表
2022/06/08 16:00時点
1位 65 〈トレミナボールⅡ〉
90件
2位 66 ナンバーズ入り
87件
3位 73 キルテナの本性
80件
4位 19 〈トレミナボール〉
99 〈セファリススピン〉
78件
6位 98 主力の四人
77件
7位 37 大地の女神
72件
8位 20 小さな先輩
69 トレミナ先生、パンで買収される
68件
10位 70 トレミナ先生、ドラゴンを押しつけられる
86 トレミナ導師様
67件
となりました。
ちなみに短編「婚約破棄~」は185件でした。
母と父は偉大です……。
100話まで書き続けられたのは、本当に皆さんのおかげです。
これからも一生懸命書いていきます。
今後ともよろしくお願いします。










