10 決勝戦(二年生)2
体の内より徐々にマナを引き出し、全身を覆っていく。
これくらいだね、〈闘〉完成。
あれ? やけに観客席が騒がしい……。
ジル先生、どういうことですか?
「あなたのマナ量に驚いているのですよ。まさか自分達より多いとは思っていなかったのでしょう。怪物とはいえ、まだ二年生ですからね」
「待ってください。……私、騎士の人達よりマナが多いんですか?」
「ええ、ほとんどの騎士がトレミナさんより少ないですよ。ここに集まっているのは皆、学園の卒業生ですから。計算してみなさい」
えーと、私が六期生で二年生だから、一期生の人でも〈錬〉の修行は長くて七年弱。対して、私は〈錬〉歴一年半、×八倍速だ。あ、軽く超えてる……。
「彼らは任務で狩った神獣の肉を食べたりもしていますが、あなたの異常な伸び率の前では微々たるものです。それにしても騒がしいですね」
騎士達は「信じられない!」や「ありえない!」など口々に。その様子を同級生の皆はポカンとした表情で見ている。
まずい、先輩方ちょっと黙って。
……いや、これはもう手遅れだ。
学年中に私のマナ量が知れ渡った。目立たず静かに学生生活を送るという私の計画、現時点をもって完全に崩壊したよ……。
……とりあえず、帰ろう。
セファリスもさすがに戦う気なんて失せたでしょ。
「そ、そ、それでこそお姉ちゃんの、い、妹! さ! さあ! 始めましょ!」
さっきはカクカクしていた足が、今はもうガクガクに。
それでも私に向かって木剣と盾を構えた。
えー……、何なの、この姉。
「お姉ちゃん、無理しないで。一緒に帰ろ? ね?」
「嫌っ! あ、姉として! 妹に負けるわけにはいかないの! 私っ!」
…………。助けてください、先生。
「……仕方ありません。実力行使です。一撃で全て片付くでしょう。セファリスさん、〈全〉を使いなさい」
「でも、〈全〉は禁止のはずじゃ……」
「許可します。……はぁ。死にたくなければ、早くする!」
「は! はいーっ!」
ジル先生も面倒になってきたようだ。
今回のトーナメントでは全員〈闘〉で戦うように言われている。全力放出の〈全〉はマナの勢いが段違いだから、ズルや誤魔化しはできないよ。
セファリスの〈全〉を確認すると、ジル先生は考え事をするように顎に手を。
「では盾を構えなさい。両手で、です。剣は使わないので捨てておいていいです。〈装〉も〈集〉も未習得なのが痛いですが、まあ大丈夫でしょう」
〈装〉は武器や防具をマナで覆う技術。切れ味や強度が格段に上がるよ。そして、〈集〉はマナを一箇所に集める技術。
熟練者がこの二つを併用すれば、木の枝が鉄の棒より硬くなる。
「トレミナさん、剣でこの部分を叩きなさい。絶対外さないように」
ジル先生は盾の中心部分、鉄が貼り付けられた所を指す。
私達の盾も木製で、そこだけ鉄板で補強してある仕様だ。
「いいですか、絶対外さないように。外せば大惨事ですよ」
しつこいくらい注意喚起しつつ、先生はセファリスの背後に回った。
剣を構える私。
闘技場中が息を呑んで見守る。
「じゃあ、叩きますよ」
せーのっ。
ドパン――――ッッ!
まるで爆薬でも仕込んであったみたいに、盾が粉々に砕けた。
衝撃でセファリスは弾き飛ばされる。
待ち構えていたジル先生がしっかりキャッチ。
「ふむ、成功ですね。ちょうどセファリスさんも意識を失ってくれました。それでは決勝戦はここまで。優勝はトレミナさんです」
……もはや、試合でも何でもない。
ただ一つ、確かになったことがある。
同級生達は二度と、私と手合わせしてくれないだろうということ。全力で防御しても、盾が木っ端微塵になるんだから。
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