1 入学
私、トレミナは昔からおっとりしていると言われてきた。
自覚はないけど、周囲からよくそう言われるのでそうなんだろうと思う。子供の頃、好きだったのは釣りと絵を描くこと。どちらも没頭すると、気付けば日が暮れていた。いや、没頭という表現は正しくないかもしれない。何となく同じことをずっと続けている、がピッタリくる。
……やっぱり、私はおっとりしているんだろう。
そんな私が生まれ育ったのは、コーネルキアという国の、北の端にある農村だった。ジャガイモの一大産地で、村もイモ畑に囲まれている。
国でも有数ののどかさだけど、この環境が私の性格を培ったわけじゃない。
なぜなら、お隣にとても活発な女の子が住んでいたから。セファリスといって、勝気で運動神経が良く、男子とケンカしても絶対に負けなかった。彼女は何かと一つ歳下の私を気に掛け、二人で姉妹のように育つ。
やがて自分は家の仕事を継いで、この村で平凡な人生を送ると確信していた。
対して、セファリスは騎士になりたいといつも口に。彼女なら夢を叶え、ゆくゆくは英雄と呼ばれる存在にもなれるだろう。名前もどこかそれっぽい。トレミナはジャガイモを作っているのがお似合いである。
ところが、予期していなかった事態が。
発端は私が四歳の頃にできた騎士の養成学校だった。セファリスはこれに入ると心に決め、訓練と両親の説得を続けた。
五年後、努力は実を結んでいよいよ入学する運びに。
出発前日の夜、セファリスは私の部屋にやって来た。入学後は寄宿生活でなかなか会えなくなる。別れの挨拶にでも来たのかと思ったけど、
「これからずっとトレミナに会えないなんて耐えられないわ! でも騎士になる夢も諦められない! お願い! お姉ちゃんと一緒に来て!」
想定以上に、彼女は妹に依存していた。
「無茶言わないで。今から入れてもらえるわけないよ」
「ダメ元でお願い! トレミナ、王都に行ったことないでしょ。観光だと思って」
結局、一度お城を見ておくのも悪くないか、と同行することにした。
到着した王都コーネフィタルは、当然ながら村より遥かに巨大で、人も多かった。
市場には初めて見る食材やグルメがたくさん。
その中にフライドポテトの屋台があった。
揚げたてのポテトに好みのソースをかけてくれる。都会の住民にも結構な人気で、私も一つ購入。
これは我らがジャガイモに違いない。
街で頑張っているとは、何とも誇らしい気分。
「なぜここまで来てイモを。相変わらずマイペースね。さあ、まずは学園に行きましょ。お姉ちゃん、全力で頼みこむから」
養成学校は王都から少し離れた郊外にあった。
周囲を高い壁に囲まれ、まるで要塞のような外観だ。さらに、壁は端が見えないほど長い。
セファリスが全力で頼みこんでも、結果は予想通りだった。
「急に言われましてもですね、きちんと手続きを踏んでいただかないと……」
ゲートでは騎士の男性が渋い顔を作っていた。
その時、一台の馬車が門をくぐって中へ。
すれ違い際、中に乗っていた白い髪の少女と目が合う。
気品漂う綺麗な子で、同い年くらいに見えた。
諦め悪くセファリスが粘っていると、中から慌てた様子で別の騎士が。応対してくれていた騎士に何か耳打ちする。
途端に彼はシャキッと直立。
「そちらの方の入学申請を受理しました。どうぞ、お入りください」
「やったわ! あ、この子は私と同じ部屋にしてくださいね」
そんなバカな。
お読みいただき、有難うございます。