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#7 のんびりできそうにありません

 


 腰を曲げ、バネのように捻れている草を抜く。明かりが無いのもあり、なかなかしんどくなってきた。



「いませんね」



 並行してキメラを探してるが、未だ見つかる気配はない。そろそろノルマの30本に到達しそうだ。


「そうだ。ハイパーチャットはこの状況的に難しいので、諸々落ち着いたらまとめて読みます」



 そこそこな量だし、呑気に喋って殺されたら笑えないからね。




[フェルス::気をつけて〜]

[セナ::別に無理に読まんでもいいよー]

[蜂蜜穏健派下っ端:¥1000:了解です]

[階段::おけ]




 読まないという選択肢もあるのか。でもお金まで頂いてるし読むんだよなー。貰えるものは貰っとく主義だけど、感謝を忘れたらただの屑になるからね。



「やっと見つけた!」


「ひっ!?」



 後ろから声が聞こえてすごい驚いてしまった。ここから立ち退くように言われるのかな?



「誰ですか?」



 振り向くと、丸眼鏡を掛けて、羽根ペンを耳に乗せた女性が居た。



「お初お目にかかります、スクープです」


「あぁ、どうも、はじめまして」



 何をしに来たんだろう?



「不思議そうな顔をしていますが、増援に来たんですよ」



 ……。



「本音は?」


「いいネタになると思いません?」


「でしょうね」



 変な人だ。何が彼女をそこまで動かすのか。



「一緒に捜索しましょう」


「……いいですけど、私を記事に載せるのはナシですよ」



 少し睨んで威嚇する。新聞に自分の顔が載ってたら嫌だから、そこは明確に拒否しとかないと。



「おー」


「え、何ですか?」



 じっと見つめてくる。何か付いているのかな?



「ハッ、いえ、こうして見るとすごい美人だなーと」


「そうですか。お世辞はいいので早く行きますよ。そんなに遅くまで居られませんので」


「お世辞じゃないんだけどな……」



 まだ言ってるよ。それにしても困ったな。この人がいたら仇討ちとしてカウントしづらい。



 夜目がきくのか、足下をみて足跡を探しているようだ。もしあのキメラが動いてなければ見つけれないけど。


 現場は他の人が行ってるだろうと思ってたから行ってないが、可能性としてはあるかもしれないな。見つけたけど手が出せなかったとか。



「っ! ミドリさん、まずいです」


「?」



 キメラが近くにいるのだろうか?



「噛みちぎり狼に囲まれてます」


「なるほど?」


「噛みちぎり狼は基本的に群れでリンチする習性があります。これでも第一陣ですが、戦闘は苦手なんで逃げますよ!」



「分かりました。いい時間ですし帰りましょう」



 二人で東門の方へ向く。



「【逃走】」


「【飛翔】」



 スクープさんは地面をすごい速さで駆け抜ける。私は高度を上げて東門へ向かう。





「ぜぇ……はぁ…………」


「大丈夫ですか?」



 何とか戻れたが、スクープさんがすごい疲れている。私は空をビューンと行けたのでそんなに疲れていない。



「解散にしましょう。また機会があれば」


「そうですね……」



 ヨロヨロと壁にもたれかかりながら歩いていく背中を眺めながら、配信終了の挨拶をする。



「今日はこの辺にしておきます。また明日、朝から始めます。お疲れ様でした」





[紅の園::おつかれー]

[枝豆::おやすみー]

[蜂蜜過激派特攻隊長::乙]

[芋けんぴ::乙!]

[カレン::ゆっくり休んで]




 配信終了ボタンを押す。今回は短めで特にトラブルも……あんまり無かったし、擦られることも無いだろう。早く迷子キャラから脱却したい。



「静かだなー」



 賑わっていた市場は店じまいで静まり返っている。こういう雰囲気も好きだなぁ。




 宿屋に向かって歩いていると、少女というより幼女というのが似合いそうな子がこちらを凝視している。



「……」



「何か?」




 返事もせずに路地裏に入っていく、と思ったら振り返って私を見ている。付いて来いってことかな。



 無言で歩く子の後ろを歩く。歩幅が小さく、速く足を回しているさまは可愛らしい。



「……」


「屋台?」



 物が乱雑に置いてある屋台のようなのが置いてある所まで案内された。



「貴方が売ってるんですか?」


「……」



 首肯している。この子にも事情があるんだろう。何かの縁だし一つでも買っていこう。



 屋台をざっと見るが、どれも不可思議な物ばかりだ。両腕の無い人形、逆回転している懐中時計、ピクピクと(かす)かに跳ねる木魚。


 中でも目を引くのは、赤く点滅している謎の実だ。



「これ、何ですか?」


「……」



 答えないのか、答えれないのか。もう買っちゃえ。


 あ、お守りっぽいのもある。これも買っとこう。



「これとこれ、いくらですか?」


「……」



 指で3と0を作っている。30G(ゴールド)ではないだろう。ストレージから3000Gを取り出して渡す。



「……」



 今度は首を横に振っている。なら30000Gか。同じように渡す。



「……」


 満足したように頷いてから、手を振ってくる。さっさと行けということだろうか?




 元の表通りに――



「いや、ぼったくり!」



 危ない。お守りと実だけで30000Gはおかしすぎる。何かに取り憑かれたように自然に払ってしまっていた。


 気づけてよかったー。



「え」



 問い詰めようと振り返るも、屋台も、あの子も、居なくなっていた。



「ホラーはちょっと……」



 手元にはちゃんと二つとも残っていて逆に怖くなってくる。



 〈おーい! 聞こえてるー?〉



「ヒェッ!?」



 どこからか声が聞こえた。周りには誰も居ない。



 〈あっ! ちょっとちょっと!〉



「ムリムリムリムリムリムリーー!」



 逃げよう。きっと悪い夢なんだ。ここで逃げれば夢から覚めるはず。



『条件を満たしました』『【天眼】の自動発動を開始します』


「今度は何!?」



 急に路地裏に光が。出処(でどころ)を探すが見当たらない。



「なんでぇ……」



 〈いや、自分の目だよ?〉



 目? あ、本当だ。壁に近づけるとより明るくなった。でもなんで?



 〈ステータス見てみてー〉



 幽霊の指示に従う。


「ステータスオープン」



######


プレイヤーネーム:ミドリ

種族:見習い天使

レベル:3

状態:恐慌

特性:天然・善人

HP:600

MP:150


称号:異界人初の天使・運命の掌握者



スキル

R:神聖魔術1・飛翔1・天運・天眼


N:走術1・体捌き1



######


 スキル

【天眼】ランク:レア

 自動発動型スキル。状況に合わせたものが見える。任意発動不可。


######



 抽象的で何も分からないが、問題児なのは分かった。



 〈その光が指す方へ進んでね〉



 この幽霊、チュートリアル的なやつなんだろうか?



「取り憑くのは無しですよ?」



 〈大丈夫大丈夫〜〉



 本当か怪しいが、目に映る光の線が気になるので沿って歩く。



 〈あ、その実食べとくといいよ〉



 えい、ままよ!



「うぇ」



 全く味がしない。でも、何とか全部食べ切った。



『ユニークスキル:【ギャンブル】を獲得しました』『ゲルビュダットの権限を確認。ユニークスキル:【ギャンブル】が特殊解放されました』




「はい?」



 ユニークスキル?


 嘘、何で?


 この実なんだろうけど、え?



 確認確認。



######


 スキル

【ギャンブル】ランク:ユニーク

 同数同士でお互いに持っているものを賭けられる。それがどれほど重いものだとしても。

 コイントスで勝敗が決する。

 CT(クールタイム):30分


######



 運ゲーじゃん。強いのか微妙なスキル。もしかしたらユニークスキルの中ではハズレかもしれない。





 〈さあ、お入りなさい!〉




 どうやら着いたようだ。目の前には、各所が崩れ、雑草がボーボーに伸び、何故こんなものが残っているのか謎なぐらい酷い建物。



「やっぱりホラゲー……」


 〈神聖な教会に向かって失礼な!〉



「貴方はこんな所で成仏したいんですか?」


 〈ち、が、う!!〉



 何も違わないだろうに。ツンデレ幽霊は私にとって需要皆無、お帰りください。てか早く成仏してよ…………




 〈ここは、この女神(あたし)、フェアイニグ様の神殿よ!〉




「ダウト。貴方はただの幽霊です。分をわきまえましょう」




 光が続いているので、恐る恐る入る。




 中央に、巨大な苔だらけの像がある。汚い。



 〈【神界誘引】〉




 一瞬で世界が変わる。




 汚くて足の踏み場に困ったボロボロの建物ではなく、なんの汚れもない真っ白な空間だ。




「ここは……?」



「まったく、見習い天使のクセに神にあんな無礼をするなんて。困ったものね!」



 そこには、神々しさが溢れる、どこか寂しい目をした女性が立っていた。


 黒く長い髪は、この白い空間でより異彩を放っている。




「あたしは職業神フェアイニグ。よろしくね!」





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