#67 奇襲
「おい」
「ええ、来ましたね」
お弁当を食べ、ログアウトして昼食を取って、のんびり馬車内で歓談していると、不意にレネフさんとトゥリさんが厳しい表情を作った。
「……もしかして急進派が?」
「ああ、後ろから来てやがる」
「迎撃しましょう」
「戦いっすね……!」
レネフさんが馬車から飛び降りた。それに続いて私もかっこよく飛び降りる。
「痛ッ……」
減速し始めたとはいえかなりの速度で動いているので、着地で足がやられてしまった。大した怪我ではないけど。
気を取り直して敵の方を見てみると、結構な数で驚いた。
「マナさんは――は?」
マナさんに作戦を伝えようと後ろを振り向くと、馬車は加速して止まることなく進んでいってしまった。まだマナさんもトゥリさんも乗っているのに。
――いや、違う。
馬車が見えなくなる前にうっすら見えたのは、トゥリさんがマナさんに首とんをして気絶か何かをさせている様子だった。
「マナさん!」
「おいマジかよ。応援を呼びに行った訳ではなさそうだよな?」
その線を信じたいが、あの様子からして限りなく薄い可能性だ。裏切った? しかし何故今のタイミングで? そもそも裏切るならもっと良いタイミングはいくらでもあったはず。
分からないことだらけな上に、マナさんの身が心配で頭の中がごちゃごちゃになってくる。
「考えてる余裕は無さそうだぞ。流石にオレ一人で制圧できる自信はねぇからな」
「……分かってます。さっさとケリをつけて大急ぎで追いついて問い詰めます」
今すぐにでも追いかけたいが、それをしたら後から戦況的に不味いことになるのは明白。つまり一瞬で倒すしかない。
ここからは本気で戦いに臨もう。この際、殺す殺さないの力加減を調整するのは諦める。
その前に念の為パナセアさんに連絡しよう。
要点だけを伝えるメッセージを送信。返信はしていられないのですぐに閉じて、ストレージから剣を取り出す。
「【ダッシュ】、火よ波打て〖ファイヤウェーブ〗」
こちらに向かってくるのを迎え撃つ形で、私も正面から突っ込む。手始めに火の波で波状攻撃を仕掛け、同時に視界を塞ぐ。
「シッ!」
火の波を抜け、手当り次第に剣を振るう。悲鳴や呻き声が耳を刺激するが、無視して次々と切り捨てる。
「【紅炎拳】!」
私のいる場所からは離れた所で、レネフさんの声と一緒に紅い炎のようなのを撒き散らした攻撃が見えた。あっちも派手にやってるようだ。
迫り来る赤い線を掻い潜りながら、的確に防具の隙間や、急所を斬っていく。
あらかた殲滅したと気を逸らした瞬間、視界の端に赤い線が映る。
「っ!」
何とか躱すと、次の瞬間何かがその線上を通っていった。
「速いっ!」
また同じような手口で攻撃が迫り、ギリギリのところで回避に成功する。今度は敵の姿を見ようと注意していたが、影しか見えなかった。
「のわっと!」
「ガハハハッ!! 王国の手先よ! なかなかやるではないか!」
どうやらあちらも手強い相手か現れたようだ。筋骨隆々な素手の敵。
もしかして……。
「お前こそやるじゃねぇか。ナニモンだ?」
「俺様は連合国八鏡、最強の――」
名前まで聞こうと思ったが、攻撃を避けて聞き逃した。八鏡というのが分かったし名前は別に興味ないからいいんだけども。
トゥリさんの情報を信じていいのなら、あっちは八鏡の素手の人ってことだろう。そう考えると私にどこかから攻撃してるこの人は暗殺者かな。
速すぎてその姿が見えないなんて相当の強者にしかできっこないし、そうであって欲しい。
「ふぅぅ……今すぐ投降しないのであれば、私は貴方を斬ります。お覚悟を」
忠告に返事は無く、その沈黙が答えなのだろう。さっきまでより集中力を研ぎ澄ませ、さっきから一瞬しか映らない青い線を捉えようと目を凝らす。
「【超速】」
微かに聞こえたその声に反応し、武器を構える。
――そこだ。
「ふっ!」
攻撃の出処は声で掴めたので、背後を向き、一瞬見えた青い線に合わせて剣を振る。
「ガァッ!?」
肉を斬る感触が伝わった。トドメはもういい。出血量からして勝手に死ぬだろう。
レネフさんの方を見てみると、あちらも終わったようだった。最強と息巻いていた男は泡を吹いて倒れている。
私は単に【天眼】のおかげで相性が良かったに過ぎないが、レネフさんは正面から八鏡を倒せる実力を持っているようだ。
「まだ続々とおいでましみたいだが……もう行ってこい」
「まったく……ここで戦闘をされると困るのよ。それもあんな交渉の後だと怪しまれるのはうちになるから、手を貸してあげるわ」
同じ方向から更に追加の敵が来たが、その更に後方からこちらの味方をしてくれそうな人達が来てくれた。
占い師のファトルムさんだ。随分と早い応援。もしかしたらこんなことになるのも占っていたのかもしれない。
「ありがとうございます。行ってきます! 【飛翔】!」
敵の八鏡は既に抑え、人数的にもこちらが有利になった今、私が残る必要は無い。
本来の天使フォルムで、全速力の飛行を始める。
「今行きます、マナさん……」
すぐに手をかけなかったし、命に別状は無いと思いたいが、目的が読めないから何とも言えない。
「どうか、無事でいて!」
本気の飛翔で、これ以上速度は上げれない。私に出来るのは、祈ることと、剣を持つ手を強めるだけだ。
◇◇◇◇
どこか別のアジトでもあるのかと心配もしたが、【天眼】の導くのはトゥリさんの豪邸だ。
少しずつ見えてきた目的地に、作戦を考える。
「正面から行くのは得策じゃない。警護の騎士を相手にしていたらそれこそタイムロスになる」
思考をまとめるために、飛びながら言葉に出していく。
「まず、あそこは三階建て。今見える黄色の線だと示すのは結構奥側の一階。警護は昨日の時点でも一階は他の階の倍近く居た。なら最適解は――――」
屋敷を少し離れた位置から迂回して、狙いの場所まで飛んで行く。
足を前に突き出し、窓を突き破って侵入する。
「二階の真上しかない」
目的地の真上、ここが一番早い。流石に警護はいるだろうけどね。
廊下を駆け抜けると、そこそこ広い広場に出る。
「……やっぱり来ましたかぁ」
私を待ち構えていたのは、ボロボロの外套を着ていない、トゥリさんと同じ騎士甲冑に身を包んだ眼帯が特徴の女性、クリスさんだった。
「どういう――」
「あたし……もう演じなくてもいいんだったぁ。私は最初からあの人の指示通り動いたまでなんですよぉ」
……しどろもどろだったのは演技だったのか。言葉尻が伸びるのは癖みたいなもののようだが。
不気味な笑みを浮かべるクリスさんは、腰から細剣を抜き、私に向けた。
「改めまして、クリス・リオートですぅ。帝国で色々探すのが当初の目的だったんですけどぉ、事情が変わりましてねぇ」
「トゥリさんの指示、ですか?」
「そうですよぉ、平和な世界を作るための必要な裏切りなんですよぉ」
違和感。
演じなくなったと言ってるはずなのに、どこか芝居がかったクリスさんの様子に違和感を覚える。
「マナさんは何処にいますか?」
「下の階ですよぉ。海の巫女さんも一緒にねぇ」
海の巫女……タラッタちゃんのことを人魚のエウトンさんがそう言っていた。つまり二人は【天眼】の示す通り下の階に居るということか。信じていいのかは疑問なところだけど。
「でしたら、スーちゃんとイーちゃんは何処に?」
「? ……ああ、彼女たちはこちら側ですぅ。ご心配には及びませんよぉ」
トゥリさんの娘だから協力しているのか。まだあんなちっちゃい子を巻き込むのも許せない。
「そこをどいてください。私に勝てると思いますか?」
「面白いことを言いますねぇ。そうじゃなければここに一人で任せられませんよぉ」
目的は分からないが、まずは二人を取り返すのが先決だ。
どらごん戦から考えるに、クリスさんは細剣オンリーのスピードアタッカー。【天眼】があるから負ける気がしない。
「怪我しても文句は無しですよ」
「そちらこそぉ」
私が剣を構えると、クリスさんは今までどんな時も外さなかったその眼帯に手を掛け――
辺り一帯を照らす赤い線。
「っ!?」
唯一無事な廊下の柱の裏に飛び込む。
「【凍結の魔眼】」
その声と同時に、広場の半分が一瞬にして凍りついた。




