#67トゥリさん宅で備えます
「――――と、そんな形でお別れしまして、今は帝国の使者の仕事や他の事を手伝って、報酬としての蘇生薬を受け取るために活動をしています。ざっとこんな感じですけど、良いでしょうか?」
細かい所は省きつつ、大まかな流れをドワーフさんに語った。残念なことに反応は芳しくなく、俯いてしまった。
「な……」
「?」
何かを言いかける。それを遮ったのは、鍛冶場の床に零れた水滴。いや、涙だ。
「なんて…………ぐずっ……がな゛じい゛ばな゛じな゛ん゛だ……!」
おいおいと男泣きするドワーフさん。名前を聞いていないことに今更気付いたが、それどころではなくどうすればいいかと右往左往する。
「……うぅ……お前さんも、大変だったんだな」
腕で涙を拭いながら少しずつ言葉を紡いでいる。途中から鉄を打つ手は止まっていたので、若干素材が無駄になっているのだけど、ドワーフさんはお構い無しに話を進める。
「そんな経緯があると知って、協力しないのは男としてどうにかしている」
「それって……」
「協力するって言ってんだ」
「……ありがとうございます」
普通に言えばいいのにとか野暮なことも考えたが、それ以上に私の思い出話を利用したみたいになって良かったのだろうか、と自問自答する。今更取り消すなんてできないけど、それでも今後のために考えなければいけない。
確かに倫理的にというか、思い出を思い出のままにしておくには心に秘めておくのが良いのかもしれない。でも、ん〜。
……必要とあれば致し方なし、かな。
それで蘇生できるための一手が進むのなら、多少思い出が汚れるのも必要なことではないだろうか。
「ひとまず、他の人達と顔合わせしましょうか」
「面倒だな……」
そこはさっきの情熱で乗り切ってよ。
◇ ◇ ◇ ◇
悪態をつきながらも協力の詳細を決める会議は順調かつ事務的に進み、最後は嫌々トゥリさんと、ドワーフさん改めマルトさんとで握手を交わして終了した。
帰りの馬車に乗ろうとしたところで、トゥリさんに急ぎの連絡が来たようだ。
「どうやら少しずつ動き出しているようです。次の交渉相手は議会とは反対側なのですが、どうしますか?」
相手が仕掛ける準備に入ったって感じか。味方は着実に増えていっているから大丈夫な気はするけど――
「一度私は戻るとするよ」
パナセアさんが一人名乗り出た。確かにトップがガラ空きの現状では下手に動けないから良い手なんだろう。
「念の為、どらごんは借りてもいいかい?」
「どうぞっす」
うちの最大戦力がそっちに行くのなら、分け方は決まりだ。
「マナさんも戻ってください」
「え? 何でっすか?」
「そっちの方が安全だからです」
「むぅ! マナだって戦えるっすよ! 絶対ミドリさんについて行くっす!」
「な! ……ダメですって!」
説得の仕方間違えたなー。誤魔化しておけば意固地にならなかったかもしれないのに。
「まあまあ、ミドリくん。戦力的に言うならそちらも十分安全と言える。どちらに行っても危険度は大差ないだろうさ」
「ぬぬぬ……」
実力はまだ不確かだけど、確かに八鏡のトゥリさんと結構強いクリスさんもいる。確かにそうかもしれない。
「分かり、ました……」
「なあに、少ししたらまた合流する。そう不安になることはない」
「そうっすよー」
「……分かりました。そちらは任せましたよ」
「ああ、任せてくれ」
〈どらごん!〉
パナセアさんとどらごんが別の馬車で戻るのを見送り、改めて馬車に乗る。
ん?
「トゥリさん!」
「何か問題でもありましたか?」
私が慌てて呼ぶと、直ぐに来てくれた。世界中のサポートセンターがこれぐらいの迅速さで対応してくれたらいいのに。
「この三人も残すのは流石に危ないかと」
そう、双子とタラッタちゃんが既に馬車に乗り込んでいたのだ。
「その事ですか。ハッキリ言って今からあの馬車に乗って議会に向かうと襲われる可能性があるのです。八鏡である私がいればおいそれと手は出せないはずですからご安心を」
「なるほど……。ちなみに私たちは今から次の八鏡の所へ行くんですか?」
「いえ、一度私の自宅で休んでから明日向かいます」
「それなら大丈夫ですね。了解です」
彼女たちの身の安全が保証され、安心して馬車に乗り込む。時間的に少しログアウトして夕食をとっても余裕はありそうだ。
本日二度目の馬車の揺れを感じながらカメラに向かって話しかける。
「今日はこの辺で終わりますね。重い話を聞かせてしまいましたが、杞憂民が一番ウザいとよく耳にするので皆さんは杞憂せず、知能を捨てて眠ってくださいね。また明日〜」
[ベルルル::急に口悪くなるじゃん]
[蜂蜜過激派切り込み隊長::ちょい毒舌たすかる]
[あ::乙デッセイ〜]
[カレン::お疲れ様です〜]
[天変地異::人間をやめろと? お休み〜]
[隠された靴下::情緒ないなった]
[芋けんぴ::おつデッセイ〜]
[ヲタクの友::おつデッセイ〜]
さーて、切ったことだしログアウトしますかねー。
◇ ◇ ◇ ◇
深夜のトゥリさんのお家。というには立派なので屋敷と訂正する。トゥリさんは見た目通り騎士で、立派な貴族だったらしいし。
「――と、これが相手の情報です」
「なるほど」
マナさんを守るために、相手の情報を少しでもと思って夜な夜なトゥリさんに尋ねたのだ。
相手の八鏡の数に変化は無く、三人だ。
一人が商人で数多の魔道具を駆使した戦い方をする禿げたおじさん。
そして、一人は人魚のエウトンさんより短気で血気盛んな武闘家。
最後の一人は地味な暗殺者。
どうやら最近大怪我を負ったそうだけど、トゥリさんは既に治っていると予測している。
「そして、八鏡含む勢力の発見報告が今回の通り道付近であったようです」
「うわー、間の悪い人達ですね……」
これでは最早どこに居ても危ない気がしてきた。今からでも議会の方に戻った方が良いのでは?
「そこで、スーとイー、タラッタ殿をここで待機させる方針でいきたいのですが……」
ここが安全と言いきれるだけの警備があるのかな。そうなってくるとマナさんも待っていて欲しいけど――
「マナさんはついて来るって言って聞かないでしょうし……はぁ…………」
「そうですね……何とも歯痒い」
かといって強制する方法なんて無いからなー。むしろ強制する人がいるなら私がしばくまである。
「こっちの三人は予定通り行きますよ」
「…………承知しました」
それから少し打ち合わせした後、解散となる。
明日はもう一人の中立陣営の八鏡、占い師さんとの交渉だ。のんびりもできないし、早く寝よっと。




