#シフ・トリック#
全員が寝静まった頃、高台で見張りをしながらシフは今日の出来事を思い返していた。
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それはミドリ達が雷の災獣を見に行っていた時。
シフは登山中のクリスと会っていた時間だ。
「ご一緒に、どうだい☆」
「え、いや、でも……」
「安心しておくれ☆ わたしは君たちの邪魔をするつもりは無いからね☆」
「っ!?」
全てお見通しといった風に、笑みを浮かべて優しくキャンプ地へ案内していく。
◆◆◆◆
「はあ……あまり博打は好きではないのだがね☆ 下手したら――いや、これ以上考えるのは良くないか☆」
シフにしては珍しく、真剣な表情で眉間に皺を寄せてそう呟く。空を仰いでいるが、その瞳が何を見ているかは、仮面で隠されている。
「それにしても、恵まれているね……☆ 良い保護者もいるみたいだし☆」
ため息混じりに、マナとクリスが眠るテントに顔を向ける。
シフが思い浮かべるのは、先程のパナセアとの密談。
◆◆◆◆
他の人達が呑気に銭湯に入ってる時、シフはパナセアと情報戦紛いのことをしていた。
「君は何者なんだ?」
「藪から棒に、何かな☆」
真剣なパナセアに、茶化して応じるシフ。
「……いや、種族はおおかた予想はつくからいい。何を企んでいる?」
「企んでるなんて、人聞きの悪い☆ わたしは今を精一杯生きてるだけだよ☆」
「そうは見えないな。何か、私達を手のひらで転がそうとしているように見える。会ったことは無いから分からないが、そちらの皇帝の差し金かな?」
「企んでないけど、もし企んでいたら彼女は無関係さ☆ あの子はそういう頭脳戦は苦手だからね☆ 正面からぶつかる子だよ☆」
シフは、優しい声色で食い気味に否定する。その様は父親のそれに近い。
「質問を変えよう。あの眼帯の少女は何者なのか、知っているのだろう?」
「そうだね、知っているよ☆ ただの――」
「……」
次の言葉を睨みつけながら待つパナセア。
「見放された悲しい騎士さ☆」
告げられたのが予想外の内容だったのか、パナセアは目を見張る。
「…………何とも要領を得ない回答だ。やはり君は信用に値しないな。あの子たちが君に気を許しても、彼女たちを害するのであれば――――」
「?」
腰から銃を引き抜いた。
「私が君を殺す」
「おー、怖い怖い☆」
肩をすくめるシフを警戒しながら、睨むこと数秒、大気を熱するような雷の音を聞き、銃を仕舞う。
「はあ……今度は何なんだ」
「これはわたしも知らないよ☆」
呆れるパナセアに、楽しそうに笑うシフ。一見似た者同士だが、その思考回路には大きな違いがあるのが窺える。
◆◆◆◆
仲間思いな大人のことを愉快そうに思い浮かべながら、シフは目を瞑った。
深い深い闇の中、別の何かを動かす。果たしてどちらが本来のシフかはハッキリとしないが、闇の中のそれはどこか退屈そうに何かを待ちわびている。
「あ、シフさん。瞑想ですか? 眠るならテントに行ってはどうです?」
「ん、ああ、もう朝かい☆ わたしは眠る必要はないから心配は無用だよ☆」
朝日が昇ってすぐ、ミドリが高台でシフと遭遇した。
「随分と早いね☆」
「そうですねー、珍しく目が覚めちゃいまして」
伸びをしながら応えるミドリに笑いかけながら、提案をする。
「暇ならあの鶏の雷を避ける練習をしておくといいよ☆ 寝てても出ているから練習し放題だし☆」
「そんなサンドバッグみたいな……。まぁ確かにその通りでしょうし、いってきまーす」
「うんうん☆ 気をつけてねー☆」
背を向けたミドリを見て、ハッと何かを思い出したように語りかける。
「言い忘れてた☆」
「はい?」
シフの朗らかな表情は、いつにも増して真剣で必死なものになっている。そして言い聞かせるようにゆっくりと告げる。
「まず、あの強力なスキルは無闇に使わない方が良い。確か不退転の覚悟、だったか。あれはデメリットもあるし、使い所を間違えると大変なことになる」
「デメリット……?」
自分の口調が乱れていることに気付いたシフは、いつも通りを装って続ける。
「そのあの大会で見ただけでも、負けた時にレベルが下がっていたよ☆ あんな戦いを繰り広げたのに大して上がっていなかったよね☆」
「……確かにマツさんは圧倒的に強かったから、もう少し上がっていてもおかしくはないですけど」
「そう☆ あと、渡したメモ用紙だよ☆ 一人になったら、絶対取り出してね☆ それだけ☆」
「はい?」
「ほらほら、行った行った☆ これ以上は何も言わないよー☆」
ミドリはそのふざけた調子のシフを見て、諦めて雷の災獣の寝床へ向かっていく。シフはその様子を薄っぺらい笑顔で見届ける。
「君に全てがかかっているよ☆ 翡翠の天使の、後継者さん☆」
その呟きは、朝の寒い空気に溶けて消えていく――




