#54 第四回イベント“恐怖戦争” 前編
第3章、はじまりはじまり〜
「……」
「……本当に大丈夫?」
「無理なら私たちだけで頑張るから無理しないように」
「だ、大丈夫です。きっとおそらく概ねおおよそ絶対たぶん、平気なはずです」
「大丈夫じゃなさそう……」
「まぁ、私が居ればホラー系で負けることはないから安心してくれ」
「頼りになります」
「ぼくは普通ぐらいだから、パナセアさんに任せるよ」
「ああ、いくらでも任せたまえよ」
ライブも上々の出来で終え、遂にプレイヤーイベントの日となった。
イベントの内容は、それぞれクランごとで運営が作ったホラーダンジョンを攻略し、進んだ場所のポイントでオリジナルダンジョンを作り、クラン同士で攻略し合い、攻略度によってまたポイントが貰えて……といった資源回収とダンジョン運営、そしてホラー要素がメインのイベントだ。
ポイントはダンジョン内のホラーの仕掛けや、化け物の配置等色々使えるが、貯めることによって持ち越した時に二倍になるという銀行のようなシステムもある。だけど、攻略されたらポイントが引かれるので、貯めすぎてもダメというかなり難しそうなイベントだ。
他にも色々各項目でポイントを稼げるところや逆に使う場面がある。また、攻略は制限時間内にやらなければいけない。
配信はできないみたいだ。まあ、ホラーで情けない私が見られないのでこれはよし。
そして、これがポイントの増減表。
========
〈攻略〉
【獲得】
ダンジョン完全攻略報酬:100P
通常攻略報酬:制限時間内に攻略した数×5(P)
特別階級攻略報酬:※1
【消費】
リタイア:リタイア人数×2(P)
〈運営〉
【獲得】
持ち越し報酬:持ち越した分×2(P)
人数ボーナス:クラン人数×1(P)
【消費】
階層追加:10P
配置:※2
特別階級配置:※1
完全攻略された場合:50P
※1 個体によって変動。詳細は次ページ参照。
※2 環境型:4P 生物型:2P リストは別ページ参照。
========
特別階級とやらは、ざっと見た感じ花子さんとかの有名どころのやつだ。花子さんは安いけど、高いのはものすごく高い。クラン同士でマッチするのはたったの三回。その少ない回数でいかにコスパよく稼げるかの勝負になる。
「マナもやりたかったっすー」
「マナさんは留守番ですよ。ここの宿はマナさんしか守れないのです!」
「そうそう、留守番は大事だよー」
「おかげで安心して頑張れるからね」
マナさんが不貞腐れていたので、元気づける。今回はプレイヤーのみだからね。完全に子供に留守番を頼む親の図になってる。
「おー! 確かにそうっすね。ここは任せて先に行けっす!」
「任せました!」
「それは死亡フラグなんよ……」
「お、そろそろだよ」
宿屋の一室からホラーイベントに参加するなんてなかなか珍しい気もする。マナさんの分も、頑張らねば。
『転送を開始します』
気が付くと、暗い洞窟のような場所に立っていた。ゲームの運営が運営してるダンジョンだろう。言わばチュートリアル。チュートリアル程度に屈する私ではない!
「行きましょう」
「おー!」
「ああ」
とりあえず、背後は壁なので進めばいいのは分かる。三人足並みを揃えて進んでいく。
「……」
「せめて松明とか欲しいよね」
「慣れれば自然と見えるようになるさ」
「そういうもんかねー」
「そういうものさ」
「ヒュッ!? 今、今何か変な音しませんせんでした!? カツンって……」
「それぼくらの足音ね」
「何も仕掛けられてないのに怖がるのは、かなり重症だな……」
本当に足音かな? だってカツンって……足音だわ。ビビりすぎ〜、私、しっかり〜!
「うらめしや〜」
私の目の前に、シンプルなデフォルトのような幽霊が現れた。
「にゃあああああああ!!! 【ダッシュ】! 【疾走】!」
「あ、ちょ――」
「ミドリくん!?」
ひたすら走る。幽霊を貫通して走ったせいか、寒気を感じる。もういい。こうなったら全力疾走で完全攻略してやるぅ!
「【飛翔】! そこのけそこのけ、私が通るぅぅ!!」
次々と出現して追いかけきているであろう幽霊にも目をくれず、止まることなく進み続ける。
「はぁはぁはぁ…………ここ、どこ?」
かなり深い所まで来た気がするし、全然進めてない気もする。明かりが無くて何も見えない。
「ん?」
どこかから、カサカサと何かが擦れるような音が聞こえてくる。明かりを灯す方法……あ! 職業を変えればいいのか!
「えーと、これかな。職業、火魔法使い」
『職業:《火魔法使い》になりました』
ステータスをチラ見し、詠唱を覚えて早速使ってみる。
「火よ、〖ファイヤ〗!」
手のひらサイズの、不定形の火が現れた。
これで辺りが見えるように――
「火よ〖ファイヤ〗、火よ〖ファイヤ〗、火よ〖ファイヤ〗、火よ〖ファイヤ〗、火よ〖ファイヤ〗、火よ〖ファイヤ〗!!」
消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ!
〖ファイヤ〗の消費MPはたったの4、私のMPはおよそ1500ほど。綺麗になるまで使ってやる!
◇ ◇ ◇ ◇
「はぁ……はぁはぁ、多すぎでしょう…………」
詠唱し過ぎて口が疲れた。
何でホラーダンジョンでゴキブリが大量に湧いてるの……。限度ってものもあるでしょうに。
目の前の階段が埋め尽くされるほどの量って、知らずに入ったら窒息死するよ。
「疲れた……」
おかげで《火魔法使い》の職業スキルの【火魔法】のレベルがガンガン上がった。後ろの二人はあの気色悪い絵面を見なくていいと考えると、羨ましいとかより憎たらしく思えてくる。
「さっさと攻略しちゃお」
ゴキブリの死体すら焼いたから階段に灰やら煤やらが散らかってるが、気にせず進む。
「【飛翔】」
飛んだ方が絶対速いよね。天使で良かった〜。こんな陰鬱な場所から早く解放されたいし。でもリタイアは負けた気になるから嫌。
「きゃっ!?」
スイスイと飛んで進んでいると、突然何かに足を掴まれ、地面に叩きつけられた。
「いてて……ん? 何コレ?」
ぬかるみのような液体に体が浸ってしまっている。しかも、少しずつ沈んでいってるような……。
「底なし沼ってやつかな。動くと良くないって聞くし、ちょっと待ってみよ」
カサカサと、先程うんざりするほど聞いた寒気のする音が聞こえた。
「……火よ〖ファイヤ〗」
案の定、私を囲うようにゴキの虫が辺りを埋めつくしていた。何か物理的な恐怖多くない?
「ゴキか沼で窒息死とか冗談じゃない……リタイア」
『本当にリタイアしますか?』
「はい」
『リタイアしました。待機空間へ転送します』
ゴキを焼き払って後の二人に繋げるという手もあったかもしれないけど、沼に飲まれてる状態で囲まれてては焼却より先に窒息死するからね。
窒息死は苦しいってよく聞くし、そんなの経験したくない。
優しい光に包まれ――目を開くと、大きなタッチパネルが浮いてるだけの白い空間に居た。
「ふへぇ〜」
嫌な緊張から解放され、倒れ込む。
あ、報告しなきゃ。メニューからフレンド欄を開いて、チャットを送信。
{リタイアしました。あとは任せます。何階かは分かりませんが、大量のゴキブリと底なし沼がありますのでご注意を}
これでよし。二人が戻ってくるまで暇だし、配置できるもののリストを眺めて待とうかな。




