#53 【AWO】私たち、アイドルデビューします!(嘘)【オデッセイ】
大会の翌日、とことん練習に明け暮れた私たちは、またしても朝から本番前の最終調整を平原で行っていた。
「はぁはぁ……よし」
「もう、無理、です…………」
「楽しみっすねぇ……」
「改めて有機生命体は不便だと思ったよ」
パナセアさん、機械だから疲れないの本当にずるい。エネルギーを使うのなら疲労度も実装して欲しい。仲間なら苦痛は共有すべきだと思……酷い性格じゃん。私がそんなこと言われたら絶対嫌な顔するよ、これ。
自分の本性が垣間見えてしまったところで、近くから音がした。
「ん?」
茂みがカサカサと揺れている。
猫かなにかかな?
そんな風に呑気に和んでいると、ジェルのようなのが茂みから出てきた。
このひと目でわかる魔物は――
「スライムですね」
「っすね」
「だね」
「他の生物とは違って声帯が無いから声を発せていない……仲間内のコミユニケーションは一体どうやって?」
パナセアさんは別に生物的な方面の人ではないだろうに、すぐ考察を始める癖が少し心配になる。一人の時に考えてそのままやられてたなんてことが無いといいけど……。
「とりあえずこの自然ステージを荒らされるのも嫌ですし、討伐しましょうか」
「そうっすね」
「ストップストップ、スライムってどうやって倒すのさ?」
すぐに駆け出しそうになった足を止め、サイレンさんの方へ顔を向ける。
「核とかですかね」
「そうっすよ」
「核なんて無さそうだけど?」
確かに。スライムと侮って確認を怠っていた。練習の疲れで頭がおかしくなってるのかもしれない。
でも、何とかなる気はする。
「まずは様子見も兼ねて接近してきますね」
「頑張ってっすー!」
「……気を付けてね」
「――――ん、行くのか。無理そうだったら私が何とかするから安心して行ってきたらいい」
「はーい。【天運】」
それまで黙って考え込んでいたパナセアさんが頼もしいことを言ってくれたので、運ゲーができる。
とりあえずスライムの所まで歩いて――――
「あ」
石に躓いてしまった。
何とかもう一方の足を前に出して重心を後ろにしてバランスをとる。
浮いていた右足を地面に着けた瞬間、今度は後ろに倒れそうになってしまった。どうやら着けた所に大きめの石があったようだ。
「おととととっ」
重心が後ろにあったせいで、綺麗に倒れて
「あがっ!?」
「はっ!」
気がつくと、帝都のリスポーン地点にいた。
死んだみたいだ。おそらく後頭部を石かなにかにぶつけて頭がかち割れたのだろう。めちゃくちゃ痛かった。
「というか、過去一酷い死に方だったなあ……」
スライムを相手取ることすら叶わず、歩いただけで死ぬとか、怖すぎる。改めて人が生きていることが奇跡だと実感した。
しみじみとしていると、どこかで爆発音が聞こえた。音の出処が近い気がするからか、街中が騒然としている。
「ふぅ」
「あれ? パナセアさん」
パナセアさんがリスポーン地点に現れた。まさか、パナセアさんも死んだのか。
「スライムは倒しておいたよ」
「おー、ありがとうございます。ちなみに死因を聞いても?」
「自爆さ」
「え?」
「自爆でスライムも消し飛ばしたからね」
「……」
確かに何とかっていう機械的な種族だから出来るかもしれないけど、そんなことより気にすべきところがある。
パナセアさんが自慢げに鼻をこすっている後ろを、帝国の兵士たちが走って通る。
「敵襲の可能性がある! 急げ!」
「分かってるよ!」
「一体どこの国んだよ。王国側じゃないなら連合国か?」
「黙って走れ!」
……多分ここにいる何も考えない発明家のせいなんですよー。すみませんすみません!
心の中で謝罪しながら、急いでサイレンさんにコールを掛ける。
――rururu
よし、ワンコールで繋がった。
『もしもし、どうしたの?』
「今すぐ、急いで、その場から離れてください! ただ帝都に戻るのもダメです。どこか別の場所で何か採取して待っててください。兵士がさっきの爆発音で襲撃かと勘違いしたみたいです!」
『あっ、了解』
「切りますよ。私達も別の道でそちらに向かうので、待っててください」
『はいよー』
――purun♪
小声で状況を説明できた。
誤解を解いてから現場に情報が回るまで時間が掛かるから、余計な疑いをかけられるのはよろしくないからね。
パナセアさんの方を見ると、気まずそうに目を逸らしていた。
「パナセアさん」
「いやいや、確かに汚い花火だぜとかやりたかったのもあるけどね、仕方ないと思うのだよ。スライム自体物理攻撃が通用しないのだから。サイレンくんの魔術もあるとは思ったけど、あれは衝撃波だから物理ともとれるから通用しないと考えてだね…………」
早口で捲し立てるパナセアさんに優しく微笑んで一言。
「一緒に誤解を解きにいきましょうか」
「はい……すみません…………」
きっとパナセアさん目線だと私が笑顔で圧をかけてると思ってるんだろうなー。怒るより優しく微笑んだ方が怖いし。
まあその通り、圧かけてるんだけど。
◇ ◇ ◇ ◇
そんなトラブルもありながら、パナセアさんが自爆して作ったクレーターが見えない場所でライブのための配信の設定を行っている。各々昼休憩を取りながら。
「ダウンロードできましたよ」
「ありがとー」
「それにしても、よくそんな知り合いが居ますね」
「えっ? あー、まあね」
サイレンさんの知り合いに作曲家さんがいるとは。おかげでオリジナル曲が……うん?
やけに目が泳いでる。怪しい。
「何か隠してますよね?」
「うぇっ!? イヤー、ナニモカクシゴトナンテ……」
嘘つくの下手だなー。よく考えると、オデッセイの全員下手かもしれない。私は違うけどね。
「言いたくないなら別に良いですけどね。とりあえず、収益の受け取り人をサイレンさんに設定します」
「いや、等分でいいよ。お金は払ってないから」
「クリエイターさんに無償で依頼するのは良くないですよ。たとえお知り合いでも払いましょう」
「いや、本当に大丈夫だから!」
何故サイレンさんがそんなに頑なに断るのか。首を傾げて、サイレンさんの目をじっと見つめる。
「…………分かったよ。話す、話すから」
「安心してください。ここだけの話にしておきますから」
「それはどうも。えーと、実はオリジナル曲、全部ぼくが作ったんだよ」
「本当ですか!? 凄いじゃないですか!」
「あはは、褒めても何も出ないよ……」
あんなに良い曲をこの短期間で作れるの、とてつもないのでは?
尚更サイレンさんに設定しなければ。
「どうかしたのかい?」
座っている私たちの背後から、パナセアさんの声が聞こえた。これは都合が良い。
「サイレンさんに今日の配信の収益を渡そうと思いまして。ほら、楽曲のことがありますから」
「なるほど、それなら私も賛成だ」
「うぐぅ……分かったよ。ただ、分配で十分だよ」
独占でも良いとは思うんだけど、そこまで言うなら分けようかな。
「分配率は、八対一対一でいいですか?」
「結構多くない?」
「そのぐらいでいいんじゃないかな」
「ですよね」
「はあ……もう任せるよ。あ!」
「来ましたね」
「お、ほんとだ」
相談していると、マナさんがキンモクさんを連れてきてくれた。
「お待たせっす!」
「ちゃんと諸々持ってきましたよー」
そう言ってキンモクさんが取り出したのは、全員分のアイドル服。それぞれ受け取って眺める。
デザインは統一されていて、いかにもアイドルって感じのキュートなものだ。色はそれぞれ違っていて、私が緑、マナさんが白、サイレンさんがピンク、パナセアさんが黄色だ。イメージカラーなのだろう。サイレンさんがピンクなのはご愛嬌。
「着替えはどうします?」
こんな場所で着替えるのは無理だから、一度宿屋に戻らないといけない。
「大丈夫です! ジャジャーン!」
キンモクさんが元気にストレージから出したのは、まさかの洋服屋さんにある更衣室だ。あんなのも入るんだ……。
順番に着替えていく。
全員が着替え終わったところで、
「では、配信始めます」
「頑張っるっす!」
「おー!」
「ああ、いつでも構わないよ」
各々所定の位置について、準備が完了したようなので、指でカウントダウンを始める。
配信開始と同時に音楽が私たちとキンモクさん、そして視聴者さんたちに流れるようになっている。マナさんにもプレイヤーと同じように適用できたのは本当に良かった。配信の設定にアイドルモードとかがあるあたり、運営もさせたかったのかもしれない。
カウントダウンを終え、配信を始める。
カメラが動き始めたのを確認し、手を振る。
「今日は集まってくれて、ありがとうございます。ミドリです」
「楽しい楽しいライブの始まりっすよー! マナっす!」
「パナセアさ。今日は私が若いという証明をさせてもらおう!」
「サイレンだよー! 楽しんでいってね!」
イヤホンも無いのに、耳元でイントロが流れ始める。練習の時から思っていたけど、不思議な感じ。
始まる。
みんな一斉に下を向く。
前奏が終わった。
おそらく、このタイミングでパナセアさんが顔を上げたはず。
「進め! エンジンをふかしてぇー!」
次はサイレンさん。
「鳴らせ! 静寂な鐘の音を〜!」
そして我らがマナさん。
「護れ! 溢れる魔力でー!」
最後に私。
「飛べ! 清らかな翼で!」
「「「「オデッセイ!!」」」」
私たちの、熱いファーストライブが始まる――
ライブシーンはご想像にお任せします。いい感じに盛り上がったとだけお伝えします。




