#42 【AWO】大会予選GOです!【オデッセイ】
「おはようございます、ミドリです」
大会の予選当日。
いつも通りログインしてのんびり朝食をとって配信を始めた。
どらごんはパナセアさんのポケットで熟睡している。植物のくせに寝るのは謎。マナさんは試合があるからと言ったら素直に従うあたり、知性はそれなりにあるのだろう。
「マナっすー」
「サイレンです」
「朝は苦手なんだがね……ふぁわぁ……パナセアだ」
[天変地異::おはっせい〜]
[枝豆::おはミドリ〜]
[あ::おはミド〜]
[テキーラうまうま::おはミドリ〜]
天才の発想を発見してしまった。
「おはっせいって語呂いいですね」
「おはっせいっすー」
「私たちは言わなくていいんですよ」
「そうっすかー」
「そうですー」
朝から脳死トークをしていると、大会の会場に到着した。会場はコロッセオのような円形闘技場だ。既に観客で賑わっている。
無料だから人もよく集まるのだろう。
「あ、予選出場者はあっちみたいですね」
「地下で待つのか……」
「ワクワクするっす!」
メニューから配信の設定を弄って……よし。
「パナセアさんに配信のを丸投げしましたので、お任せします」
「任せたまえ」
頼れる姉御だ。
「では、また後で」
「行ってくるっす!」
「頑張るよ」
「ああ、全員全力を出し切ってくるといい」
手を振ってパナセアさんと別れ、地下に入っていく。地下は薄暗く、地上の盛り上がりとはかけ離れた静けさだ。
少し進むと二つの部屋があった。ここでブロックごとに分かれるようだ。
「では、どちらかは分かりませんが、本戦で」
「はいっす!」
「まあ、予選が終わったら会うんだけどね」
野暮なことを呟くサイレンさんを無視し、マナさんとハグを交わして部屋に入る。
「うわ……」
むさ苦しい。筋肉モリモリの男の人ばかりだ。確かにそういう大会ではあるんだけど、華が無い。
いや、むしろ私が華になりそうだ。
ほとんどの人が床に座って、精神統一なのか無言で目を瞑っている。
「殺伐としてますね……」
「おいおい、場違いなお嬢さん? ここは出場者の部屋だぜ?」
体格のいい男の人が話し掛けてきた。
確かにこの中では明らかに異質ではあるけど、別に性別で参加制限もなかったし私の勝手でしょ。
「知ってますよ。ところで、今回殺しとかがダメみたいで少し残念ですよ」
「……脅しか?」
少し強ぶってみたら警戒された。今のがジョークと通じないかー。
「脅しなんてしてませんよ。ただ、こういう闘技場だとよくそういうのが見世物にのるのになー、って思っただけですよ」
「あー、それか。そういうのは貴族とか身分の高いやつらが剣奴を使って夜な夜なやってるぞ」
「剣奴?」
「知らねぇのか? 売れ残った奴隷がここに収容されて魔物と戦わされてんだよ」
初耳だ。今回のような盛り上がり重視のとは別に闇の深い催しもあるなんて。配信画面をパナセアさんに預けてきて正解だった。
「奴隷って居るんですね」
「まあ、普通のやつは知らねぇよな。貴族とかがこっそりな」
この人色々知ってて事情がありそうだけど、簡単に教えちゃっていいのかな?
「へー」
「最近は皇帝が変わって軒並みそういう貴族は潰されたけどな。他国とかから来てるのは流石に手を出すと、問題みたいで――」
「機密情報とかではないですよね?」
「俺はただの没落貴族だ。今更処刑されてもどうでもいい」
そうは見えないほどゴツイ。
……今の言い分からして、そういう貴族の跡取りとかだったんだろうか。
この人が何を思ってこの大会に出たのかは分からないが、負けてあげるつもりもない。
「そろそろ始まるな。お互い全力でやろうぜ」
「ええ。そのつもりですよ」
最初の馬鹿にするような声掛けはもしかしたら忠告のようなものだったのかもしれない。
気合いを入れ直すと、後ろから扉が開く大きい音がした。
「っぶねぇー、セーフか」
いかにも不良って感じの子が入ってきた。女番長なんて初めて見た。かっこいい!
〈まもなく、皇帝御前大会を開始するよ☆〉
聞いたことのある声だなあー。
あの時は何故かスルッと忘れ去っていたけど、不思議な人だった。どういう立場なのか。
〈実況はこのわたし、皇帝陛下側近兼宰相のわたしだ☆〉
そこまできたら名乗りなさいよ。ていうかかなりの重臣だ。あの時何故私たちの所へ来たのか、ますます分からなくなってきた。
〈そして☆〉
〈解説の妾じゃ〉
誰やねん。
女性というのは分かるけど、この待合室には音声しか聞こえないから他の情報が無い。
〈む、ちゃんとやれと? ゴホンッ、妾は現皇帝ジェニー・ガーペ・プロフェちゃ……ツァイアじゃ!〉
噛んだ。
……私以外の人も同じようなことを思ってそうだ。
〈プロフェツァイアじゃ!〉
言い直した。
何か若干ポンコツさが滲み出ているのが心配だ。
〈さっさと始めよ!〉
〈という訳で、予選第3試合、準備よろしく☆〉
ルール説明は割愛されたようだ。まあ、ちゃんと受付の時に説明されたけど、雑だなー。
武器を取り出す。
この瞬間から隠し持っていたものを出してはいけない、場外とかギブアップとかで敗退。
とりあえずこの大剣と拳で死なないように相手を倒せばいいだけ。簡単だ。
「きゃっ!?」
部屋が動いて驚いて変な声が出てしまった。恥ずかしい。
「おー」
さっき入ってきた不良の子も初めてなのか、感嘆の声を漏らしている。他は見慣れているのか、普通に経験者か、微動だにしていない。
当たりを見渡すと、壁が動いている。天井は……もともと高かったのか、動いていない。
いや、ゆっくりと天井が迫っている?
違う。床が天井に近づいてるのか。エレベーター的なのの床だけ版かな。
天井が近づくと、自動ドアのように開いた。
これ、地下からせり上がって闘技場に現れる仕様なんだ。かっこいい演出!
「あれ? 偉そうな人達は下の方に居るんですね」
「ん? ああ、身分が高いほど観客席は下の方になるぞ」
確かに近くで見た方が迫力があるから、そういうことなのか。魔法とかが飛んできたらどうするんだろう?
〈さあ、開始☆〉
拡声器のようなものを持っているシフさんを見つけた。一番近くの審判席に座っている。
つまり、その隣に居る青髪ミディアムの女性が皇帝かな。ポンコツとは思えないほどの美人さんだ。虹色のドレスを着ているのは少しアレだけど。
パナセアさんは上の方から見てるのかな。
「ぼへぇ!?」
隣で呻き声が聞こえたので見てみると、さっき色々教えてくれた没落貴族のご子息さんが場外に吹き飛ばされていた。
なるほど、出オチ枠だったかー。
「覚悟っ! 【ストレートパンチ】!」
吹き飛ばしたであろうムキムキマッチョさんが、こちらに突進してくる。振りかぶり方からして右のストレート。
キアーロさんと比較するとどうしても見劣りする。余裕で認識して躱し、懐に潜り込む。
「せいっ!」
大剣の持ち手で顎を打ち、その反動のまま地面に突き刺す。大剣をしっかり握り、回し蹴りを食らわす。
顎への一撃でふらついたせいか踏ん張りが効かず、あっさりと場外へ。
「まずは一人」
あんまり手の内は見せたくないし、仕掛けられるまで座って待とう。ナメられてるならそれを利用するだけだ。ズルではない。
筋肉と筋肉のぶつかり合いをのんびり眺める。
「ん?」
〈ここで少女が五人抜きだ☆ すごいぞー☆〉
〈力だけでは勝てぬ、速さも大事じゃ〉
実況でもあげられてるように、不良の子が筋肉ダルマたちを次々と敗退させている。パワーこそ劣るが、スピードとテクニックで勝っている。
キアーロさんほどではないけどね。
あー、そこもっと深くいった方がいいよ。
もっと判断早く!
脳内で指示厨をしていると、筋肉の塊が真横を吹き飛んでくる。
「よっこいしょ」
今のが最後の筋肉だった。
……人を筋肉呼びはないな。でも私たち以外筋肉すごかったし、絶対クジ調整してる。
「随分、ナメた野郎じゃねぇか?」
「女ですけどね」
「あ゛あ?」
「体力が切れてたら申し訳ありませんが、勝たせてもらいます」
「……食らえや!」
真正面から金棒で殴ろうとしてくる。赤い線のおかげで余裕で防げる。大剣で下から弾き、そのまま踏み込む。
「【パワースラッシュ】!」
咄嗟に後退して避けられたが、狙い通りだ。殺してはいけないから刃を当てるつもりはハナからない。
地面に当たり、砕け、砂や石が舞う。
地面にしっかり突き刺さってるのを確認し、逆手に持ち変える。
「やああああ!」
腕を引き寄せ、不良さんに向かって突っ込む。足を顔面の位置に調節する。
これで、
「甘ぇな! 【フルスイング】!」
誘い込める。
「【飛翔】」
迫り来る赤い線の上から少し横に動いて逃れる。
高度を少し下げ、がら空きの腹に蹴りを食い込ませる。
「ガハッ……!?」
「はあああああああ!!」
そして、そのまま場外まで押し切る。
不良さんが場外に着いたのを確認し、地面に足をつける。
それと同時に歓声が響く。あんな戦い方でいいんだ……。
〈予選第3試合、見事勝ち抜いたのは……ミドリだー☆〉
〈妥当じゃな〉
〈その心は☆〉
〈あの中で一番技術的な面で秀でていたからじゃ。何じゃ、あの脳筋集団?〉
〈厳正なクジなんだけど、すごい偏ったよね☆〉
〈じゃなー。そろそろ次へ進めい〉
〈じゃあ、出場者はあの床に戻ってね☆〉
「対戦ありがとうございました」
「なかなかやるじゃねぇか。こっちこそありがとうだぜ」
倒れてる不良さんを引っ張って起こす。
「お前さん、プレイヤーか?」
「そうですけど」
「まじかー、悔しいな」
この言い方的にこの人もプレイヤーなんだろう。
「ウチは真理亜。第1陣からやっとる、テイマーだぜ」
「私はミドリです……テイマー!?」
「ペット同行可なら負けん、次は勝つからな」
「え、ええ。次も私が勝ちますけど」
テイマーであの強さは凄い。おそらく職業を持ってるのではなく、自分で名乗ってるだけだろうけど、それでも役割が変わると出来ることも少なくなる。それなのにあれだけ戦えれば十分凄い。
あっさり動く床の方へ歩いていくのを見届け、没落貴族子息さんのもとへ行ってみる。
「大丈夫ですかー?」
「だ、大丈夫だ。それよりおめでとう」
「どうも。それにしても気持ちいいやられっぷりでしたね」
「……勝てれば上々の心構えだったからな」
その割には落ち込んでいるように見えるけど、指摘はしない。
「そうですか。戻りましょう」
「だな」
入場した時の床に戻る。
全員揃ったことで床が下がっていく。
「今更ですけど、元貴族とは思えない口調ですよね?」
「あー、丁寧に話すとナメられるからな」
「なるほど」
治安の悪いところだとそうなると。道理でナメられたわけだ。床が元のところまで降りきった。
「では、またどこかで」
「元気でな」
名前も知らない、心優しい没落貴族子息さんと別れ、観覧席へ向かう。
〈予選第4試合の準備をしておくれ☆〉
始まりそうなので、観覧席へ急ぐ。




