#20 仲間探します
「すみません――」
「邪魔だ!」
「すみ――」
「チッ」
「す――」
「どけよ!」
「諦めます?」
「まだ早いっすよ」
「この時間帯は無理なのかもしれませんよ」
「う〜ん」
[セナ::あらら]
[芋けんぴ::どんまい]
[キオユッチ::座ってる人に声掛けたら?]
[天麩羅::諦めないで〜]
座ってる人ね…………居た。
退屈そうに爪をいじっている魔法使いっぽい人が目に入った。あの人いこ。
「すみません」
「はーい」
「よければ一緒に何か依頼しませんか?」
「……」
考えている様子。もう一押しかな。
「私は前衛、この子は後衛の守護ができます。どうでしょう」
「いや、ごめ――ん!?」
断られると思ったら、突然驚かれた。
私を見て驚いているように見える。
「何かついていますか?」
「いや、話題の人だなーって」
「?」
「今も配信してるよね?」
「してますけど、異界人じゃないのに知ってるんですね……」
「ああ、プレイヤーカーソルね。あれは設定から変えれるから没入したい人はオススメよ。それにカメラ見えてるからね」
何だって!?
知らなかった。設定から、変更っと。
私のも表示されなくなったけど、他の人のも見えなくなるみたい。早く知りたかった。
「……よし。それで、どうでしょう?」
「んー、連れが良いって言ったらいいよー」
「では待ちますよ」
「待つっす!」
この人の向かいの席に座る。
見たところ、顔つき的に私より年下、中学生ぐらいかな?
自己紹介を――――
「うそ!?」
慌てて何かをいじり出した。メッセージかな。
「本当にごめん! 連れのアホが現実の方でやらかしたみたい。ごめんね!」
そう言い残して、猛ダッシュでギルドから出ていってしまった。
ま、まあ、青春してるようで、お姉さんは嬉しい限りですわ。
「こうなったら二人で行きます?」
「っすね〜」
無理に大所帯で行ってもね! 動きずらいし!
別に悲しくないもん!
……心の中でふざけると落ち着くな〜。
「あのー」
横から、中性的な声が聞こえる。
「はい!」
思わず前のめりの返答をしてしまった。怖がらせてしまう。落ち着け、私。
「………何でしょうか?」
「ぼくでよければ、一緒に依頼行きませんか?」
振り向くと、ショートヘアのクール系の子が居た。
大人びた雰囲気を醸し出しているが、顔は少し幼げだ。
その身を包んでいるのはセーラー服。
「是非ともお願いします」
「よろしくっす〜」
「じゃあ依頼探しましょう」
「あのー、前衛の人も探した方がいいのでは?」
「いえ、問題無いですよ。私が前衛なので」
「マナは防御係っす!」
「うそぉ……」
確かに、こんな軽装のやつが前衛とは思えないし、修道服を着てる人が盾を使うとも思わないだろうね。
「まず先に自己紹介をしましょうか。私はミドリ、大剣使いで回復も一応できます」
「マナはマナっす。盾しか使えないっすけど頑張るっす!」
「あー、ぼくはサイレンです。後衛でバフとかできます」
これでかなりのバランス良い構成になった。
「一時的とはいえ、仲間ですし敬語はいりませんよ」
「いや、ミドリさんも使ってるじゃないですか」
「私のは基本的に誰にでもですし、癖みたいなものなので慣れてるんですよ」
「なるほど? …………分かった。敬語無しでいくよ。改めてよろしく」
クールボクっ娘からイケイケクールボクっ娘に進化した。いいねぇ。
「よろしくお願いします」
「よろしくっす!」
挨拶もそこそこに、良さげな依頼を皆で探す。
「そういえば、サイレンさんは何ランクですか?」
「ぼくはEランクだよ」
「同じっすね!」
ランクが違うと組めないとかあるのかな?
「臨時パーティーならランク関係無しで組めるから大丈夫だよ」
「ほぇ〜」
よかった。かなり察しがいい子だなー。
「これどうっすか!」
マナさんが元気に依頼の紙を指差す。激しく揺れる犬の尻尾が見えてきそうだ。
「ほほう、ゴブリンですか。どうです?」
コネランクアップより先にランクが上がっているということは、サイレンさんの方が冒険者としては先輩だろうから聞いてみる。
「いいんじゃない?」
雑いね!
「ぼくが依頼書出してくるから、ここで待ってて」
「いいんですか?」
「気にしないでー」
「ではお願いします」
「お願いするっす」
それなりに空いてきた受付に向かうサイレンさんを見送りながら、ギルド内の無意味な雑音に耳を傾ける。
「ここにいると、はしゃいでる子供たちを見ている気分になりますね」
「おー、分かるかもっす」
[壁::むさ苦しいおっさんばっかだけど?]
[紅の園::???]
[唐揚げ::そうか?]
[枝豆::わからん]
[セナ::何故そうなる??]
あれ? 共感してくれてる人が少ない気がする。
まあ、いいや。
「お待たせ。うん? 何で黄昏てるの?」
「大人にしか分からない趣ってやつです」
「そうっす」
「そのセリフは子供なんよ」
何か言ったようだけど、聞こえなーい。
「それで、この依頼どのぐらいかかります?」
「ん〜、場合によるけど、基本的に昼までには帰って来れると思う」
「何か予定あります?」
「いや、ぼくは何も無い」
「マナも無いっすよー」
「私もありません。のんびりできそうですね」
初めてのEランク依頼がこんな緩やかな空気で大丈夫か心配だが、三人も居るんだし大丈夫だろう。
「いっそのこと、ピクニックもしないっすか?」
「ピクニックですか、面白そうですね」
「二人が良いならぼくもやる」
本当にのんびりだ。一応油断しないようにだけ気を配ろう。
「出店で何か買いましょうかね」
「骨クッキー食べたいっす!」
「「骨!?」」
ハモってしまった。
いや、そんなことより、骨。
どういうこと? 何かの骨格をかたどったクッキーって解釈でいいのかな?
「美味しいんすよ。何の骨がくるか分からないのも魅力っす!」
「骨を砕いてクッキーに混ぜてるってこと?」
先にサイレンさんが聞いてくれた。
貴方にツッコミポジションの座を差し上げまーす。
「あ、大丈夫っすよ。食べれる骨っす」
「食べれなかったら大問題だよ」
ホントそれ。そして良いツッコミ!
「気になりますし、買いましょう。ちなみに、皆さんお金持ってます?」
「マナは無いっす!」
「はした金なら……」
マナさんは堂々と言わないで欲しい。
「私はかなり余裕がありますので、ここは奢りますよ」
「ありがとっす!」
そう言ってキョロキョロと辺りを見渡し始めた。現金な子〜。
「いいの?」
「余裕ですよ」
「ありがとう」
「いえいえ」
骨クッキー、妙な飲み物、鹿肉の串焼き、どんどん美味しそうな物を買ってストレージに入れていく。
途中まで気づかなかったが、サイレンさんもプレイヤーだったようで、一緒にストレージに仕舞っている。
「こんなもんっすね」
一番買ってた人が満足したところで、落ち着く。
「そろそろ出発しないとゴブリンたちが起きるよ?」
「昼行性なんですね」
「昼から深夜まで起きてるはず。確か」
「なら少し駆け足で行きましょう」
「おーっす!」
「だね」
ペースを上げて南門に向かう。
「っ!?」
門の手続きを終わらせて出る瞬間、視線を浴びた気がした。
「どうしたっすか?」
「…………いえ、何でもないです」
未だ残る寒気を振り払いながら、二人のもとへ駆けだす。




